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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
38章 文化祭編2 縁の交差点

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第615話 Q&A

Q.草苅君は何故サマーちゃんを狙った?






 現状は重さの拮抗する天秤のようなモノだった。情報、駆け引き、刹那の判断。それらのあらゆる要素が入り乱れ、傾ききった方が勝つ絶妙な瞬間。


 草苅が前に出てきた事はサマーにとって予想外だった。

 彼にこちらをタッチする意味はない。ボークラインを越えたら帰陣すれば良いだけだ。なのに――


 何故、更に踏み込む!?


「カバディ」


 タッチに伸ばしてくる手。意図がわからない以上、サマーは反射的にかわした。


「――――カバディ」


 しかし、かわした所へ草苅は更に追撃。サマーは後ろに下がる。

 サマーは判断がつかなかった。タッチを無視して足を狙っても良い。だが、ソレは相手も読んでいるだろう。


 意図が読めない。


 カバディの経験が全く無いサマーにとって、草苅の行動の真意を汲み取る事は不可能に近い。故に今は結論が出るまで避けつつ奥に引き付けるのが最良だと判断する。

 状況を見て理論的にサマーがたどり着いた最適解がソレだった。


「カバディ」


 草苅は執拗にサマーを追う。そして、ボーナスラインを越えるまで深く踏み込んでくる。


「はぁ……はぁ……」


 サマーが思考と身体を同時に動かし、息を切らす間、ケンゴは逆に完璧な隙を狙っていた。


 草苅君の意図は不明だ。恐らくサマーちゃんもそう結論を出したからこそ、回避に徹している。考えられるのは……タッチをしてサマーちゃんを遠ざけつつ、オレと一対一をする可能性だ。

 サマーちゃんは派手に動かされているが、奥へ引き付ける様に下がるのは流石な動きだ。ここまで奥に居るなら――


 ケンゴはサマーを見る草苅へ背後からタックルを決めようと身を屈める。すると、


「マジかよ」


 タックルの意を飛ばした瞬間、草苅は後ろ目でケンゴの様子を見た。


 常にこっちにまでアンテナを張ってるのか!? ホントに高校生かよ!


 だが、僅かに視線と意識が外れた隙をサマーは見逃さず、草苅の足を掴む。


「カバディ」

「フェニックス!」

「捕まえる!」


 天秤が大きく傾く――






 挟み撃ち。サマーちゃんが足を取った瞬間にオレは弾ける様にタックルに入る。

 先ほど乗り越えられた経験から狙うのは足ではなく腰だ。格闘技と違って投げる必要はない。キャントが止まればその時点でレイドは失敗だ。


「カバディ」

「くぅ!!」


 足を掴んだサマーちゃんの手は両手に移行する前に振り払われる。小さい手で咄嗟に掴んでは拘束力はない。草苅君がサマーちゃんによって足を止めたのは僅か一秒足らずだが、もう避けられない位置までオレは接近している。

 草苅君の背中を捉えた。重心も後ろ(こっち側)に傾いてる。完全に捕まえ――


「カバディ」


 しかし、倒れる様に動いていた草苅君は横へ(・・)動いた。

 アイソレーション。重心の動きをオレが読むと、予想して読みを張っていたのだ。


「カバディ――」


 サマーちゃんのキャッチを振り払い、アイソレーションでオレのタックルを完璧にかわした草苅君は帰陣する。


「初見だったら抜かれてたよ」


 パシッ、とオレは横を抜ける草苅君の片足をギリギリ掴んだ。アイソレーションは一度サマーちゃんが見せてくれた。故に、彼が使う可能性は頭に置いていたのだ。


「カバディ――」

「奥に来すぎたね」


 ボーナスラインまで来た草苅君は倒れる様に戻っても届かない位置まで来ている。


「良く掴んだ! フェニックス!」


 振り払われたサマーちゃんが支援に向かって来る。すると、草苅君はその場に止まる。

 重心が片足に集中してる? 手で引き剥がす様子もない。これは諦めたか?


「カバディ」

 

 草苅君が掴まれている箇所を見た。その瞬間、オレはゾワッと“敗北”と言う二文字を乗せた天秤こちらに傾く悪寒を感じる。両手で掴――


「カバディ」


 草苅君の軸足が跳んだ。

 回転。咄嗟の体制で掴んでいるオレの手に体重の乗った軸足がぶつけられ、振り払う様に剥がされた。


「だぁ!」

「うっそ!?」


 サマーちゃんが飛び付くが、ひょいとかわされ、オレも振り返りつつ反対の手を伸ばすが空を切る。


 サマーちゃんが掴んでから僅か3秒の攻防戦。勝ったのは――


攻撃(レイド)成功。守備(アンティ)失敗」


 タッ、とミッドラインを越えた草苅君を見て紫月君が宣言した。


「本当に御二人はカバディの経験が無いんですか?」


 草苅君は軽く息を整えながらそう聞いてくる。サマーちゃんはゼーゼー息を整えているので、オレが代わりに答える。


「最初に言ったけど、プレイするのは今日が初めてだよ」


 読みの深さに負けた事と、守備の連携が全く合っていないのがその証明のようなモノだ。


「オレからも聞いていい?」

「どうぞ?」

「何でサマーちゃんを狙って陣地の奥まで来たの?」


 今でも良くわからない。“アイソレーション”と“回転”を手札に持つなら、ボークラインを踏んだ時点で二つを切って、オレを抜ければ良い。


「強い人を見ると、その人とカバディを楽しみたくなるんです」


 草苅君はそう即答して笑った。それは子供が公園で遊ぶような……純粋に楽しい事をしている時の笑みである。

 良い笑顔だな、チクショー。






Q.草苅君は何故サマーちゃんを狙った?

A.楽しかったから。

草苅は高校生ではレベルの高いプレイヤー

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