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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
38章 文化祭編2 縁の交差点

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第612話 マジで頼んでいいよ

「それじゃ、私は文化祭に戻ります」

「ああ。あのマナーの悪い二人は即刻退場してもらう。YouTubeのチャンネルも持っている様だから法に触れた事を言及した上で削除も検討させる」

「後は寺井先生に任せます」

「時間を取らせて悪かった。文化祭を楽しみなさい」

「はい」


 ヒカリは店に迷惑を持ち込んだ二人の身柄を寺井とガリアに任せて『猫耳メイド喫茶』に戻る。時間的に拘束されたのは三十分程だった。


「そろそろ休憩時間か……」


 (クラス)に戻りながらスマホでケンゴのLINEに連絡する。

 今、どこにいる? 合流しよ、と。


「……あれ?」


 既読が着かない。前もって連絡すると言っていたので、常にスマホは持ち歩いてると思っていたが何か運動系の出店でもやってるのだろうか?


「あ、ヒカリ。お帰り。歩きスマホは止めときなよ」

「リン」


 いつの間にか店に戻ってきていた。外で列の整理をしているリンカと遭遇する。


「迷惑な人がいたんでしょ? 大丈夫だった?」

「全然平気よ。伊達にパパが警察やってないからね」

「そこん所の度胸も哲章おじさん譲りだよねー」


 一番に心配してくれるリンカ。それに何でもない風に返すヒカリ。

 二人の間にはいつもの雰囲気が流れていた。しかし、今日に限っては状況が少し違う。


「もうそろそろ休憩だからさ。お隣さんを捜して一緒に文化祭を回ろうよ。連絡したんだけど既読が何故か着かないからさ」


 どこで何やってんだか。

 と、リンカは文化祭に会場のどこかに居るケンゴに悪態をつきつつも、会いたい雰囲気を出している。


「私、トイレに行くね。そのまま休憩に入ってケン兄を捜すから二手に別れよ」

「わかった。見つけたら互いに連絡するって事で」

「うん。クラスの他の人にも伝えてくれる?」

「いいよ。見つけたら後で合流ね」


 リンカの返答に、おっけー、といつもの調子でヒカリは返すと、そのままケンゴの捜索に向かう。


「じっとしないのは想定内だけど、連絡も見ないなんてどこにいるのさ」


 考えられるケンゴの行動範囲はヒカリ目線ではかなり広い。しかし、大まかに二択まで絞れる。

 一つは旧校舎の雰囲気に当てられてそっちに行った。

 もう一つは、運動系の出し物を経験しに行ってるか。


「……少なくともまずは身体を動かすわね」


 “連絡を見れない+ケンゴの行動力”を分析したヒカリはヤマを後者にはった。すると、


『今、体育館にいるから。カバディ、めっちゃ楽しいよ。二人とも来なよ』


 当たった。しかし、この返答はリンカにも当てられたモノだと気がつく。

 急ごう。ヒカリの足は自然と速くなるが、風紀員に止められない様に速度には気を使う。


「……後はリン次第か……」


 今日が終わった時、私達の関係性がどうなっているのか。この時点では想像はつかなかった。






「やっと見たか」


 リンカは鳴ったスマホを確認すると、ケンゴが体育館でカバディ部の出し物に参加していると認識。後、5分程で休憩だからそれから行って――


「むむ、遂に来るべき時が……」

「どうしたの水間さん」


 給仕室で電子ケトルを前に水間が、ぬぅ、と唸る。


「鮫島さん。遂に逝ったわ」

「え? 何が……」

「この私が持ってきた電子ケトル『湯沸かしっ子』が寿命を迎えたのよ!」


 お茶とコーヒーを出す際には電子ケトルとポットで行っていたのだが、ケトルの方が故障したらしい。


「ちょっ、水間。壊れたケトル持ってきてたのか!?」


 別のクラスメイトの男子がその真実に横から口を挟む。


「壊れてなんていなかったわ! そう! 数分前までね! 同じ水を扱う者として有終の美を飾らせたかったの! わかるでしょ?!」

「わからねぇよ! せめてそう言う事は事前に行ってくれ!」

「ごめんなさい!」


 お湯が足りなくなる。少し客足が多くなってきた事もあり、何とかしなければならない。


「あたしが他のクラスに行って貸してもらえないか聞いて来るよ」


 確か、他にも喫茶店を開いていた所は幾つかあった。余裕があれば貸して貰おう。


「いや、鮫島はもう休憩だろ? 俺が行くよ」

「休憩だからだよ。シフトの人は店を回してて。それに三年生には話せる人もいるし」

「そうか? じゃあ、マジで頼んでいい?」

「マジで頼んでいいよ」


 そう言ってリンカは微笑むと、すぐに戻るね、と店を出て行った。





 ケンゴがヒカリのLINEに返答する数分前――


「サマーちゃんは髪の毛切らないの?」

「切る予定は無い。別に不便ではないからのぅ」


 オレはサマーちゃんの髪を三つ編みに結んであげていた。

 カバディは動きの激しいスポーツだ。彼女の長い後ろ髪は動く際に邪魔になる。そして、室内シューズなど持ってきていないオレらは裸足で挑む予定だ。


「はい、おっけー」

「ふむ、解けないか?」

「先端の結び目が取れない限りはね」


 サマーちゃんは軽く跳ねたりして三つ編みの安定性を確認する。おっと。


「サマーちゃん、こっち向いて」

「なんじゃ?」


 前髪も長いので、ヘアピンで分けて良く見える様にしてあげた。


「これで完璧でしょ」

「……フェニックスよ。お主はこんな事をいつも平然とやっておるのか?」

「いやいや、誰にもはやらないよ? 普通に事案になるし。知り合いだけね」

「なら、何故ヘアピンなんぞ持ち歩いとる?」

「いやー、最初から運動はする予定だったからさ。前髪とか邪魔になったら困るから持ってきたの。今はサマーちゃんの方が必要そうだからね」

「ふっ……良く分かっておる!」


 サマーちゃんはとても上機嫌に笑う。髪を結んでヘアピンを着けてあげただけなのに大袈裟だなぁ。


「準備は出来ましたか?」


 カバディのコートに立つ草苅君はただならぬ雰囲気でオレらに告げる。


「ああ。貰っていくぞ、パーフェクトを!」


 サマーちゃんもコートに入り、オレも上着を脱いで腕を捲って後に続く。


「そちらの先行です。では、攻撃手(レイダー)掛け声(キャント)をどうぞ」


 オレとサマーちゃんタッグによる挑戦が始まる! 続く!

初タッグ

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