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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
38章 文化祭編2 縁の交差点

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第611話 君が好きだ

「……」


 暮石は休憩時間のシフトに入った為、旧校舎の最上階の廊下から外の通りを見ていた。


「彼とは話せたか?」


 そこへ彼女から連絡を受けた佐久真がやって来る。協力してくれた手前、結果はきちんと話さねばと思っていたのだ。


「うん。話せたよ。人違いだって」

「人違いだと?」


 ドジったなぁ、と愛想笑いする暮石に佐久真は呆れる。しっかりしている様に見えて、時に抜けている部分があるのだ。


「それで、当人を探すのか?」

「ううん。もう、この件は私の中ではおしまい。ご苦労をかけました、風紀委員長殿」


 はにかみながら敬礼する暮石の表情は昔から変わらない。それは彼女が事を終えた時に作る笑みだと佐久真はよく知っていた。


「そうか。何かあったらまた呼べ。俺は近くにいる」

「京平くん」


 暮石は踵を返して職務に戻ろうとする彼を呼び止める様に下の名前を呼んだ。

 佐久真は足を止めて背を向けたまま応じる。


「久しぶりに呼ばれたな」

「小学校以来だよね?」

「よく覚えてるな」

「うん。忘れないよ。だって、初めての友達だったから」


 友達。微笑みながらそう言ってくれる暮石にとって彼は今も昔も変わらずに“友達”である様だ。

 佐久真は振り向かずにボソリと、


「……俺は違ったけどな」


 聞こえない様に小さく呟く。すると、いつの間にか横から覗き込む暮石が、ソレを聞いていた。


「そうなんだ。京平くんからすれば私は友達じゃなかったんだ……」

「あ、いや……そう言う意味じゃなくてだな……」

「私だけだったんだね……友達だと思ってたの。だから高校で再会しても、昔みたいに“愛ちゃん”って呼んでくれなかったんだ」


 うえーん、と蹲って顔を手の平で覆う暮石。その様子に佐久真は確信した。


「…………わざと言ってるだろ?」

「あ、バレちゃった?」


 両手を開いて顔を見せる暮石は、べっ、と舌を出す。彼女はおとなしい穏和なイメージがあるが、昔から親しい人間に対してはよく悪戯を仕掛けたりするのだ。


「皆、隠し事ばかりしてるから。お祖父ちゃんの事もあるし仕方ないと思うけど……京平くんだけは違うと思ってたんだけどなぁ」


 昔から、気を使われる形で避けられていた暮石に唯一何の隔ても無く、接していたのが佐久真だった。


「…………一つだけ言っておく」

「んー? 話す気になった? 京平くんの秘密――」

「君が好きだ」

「へー、そうなんだ。私の事が好き――え?」


 思わず佐久真へ振り返ると、彼は真剣な眼で告げてくる。


「佐久真京平は、小学生の最初に出会った時から暮石愛の事がずっと好きだ。それは今も変わらない」

「ほ、ほぇ……」

「これが……佐久真京平の秘密だ。感想は?」

「え、ええっ……と……」


 幼馴染みは、いつもと変わらない様子と表情で腕を組んで返答を求めてくる。

 対する暮石は告げられた事実に顔を赤くし、眼をぐるぐるして心は荒波の様に乱れていた。


「つ……」

「つ?」

「つ、次に会う時に! 返答するから!」


 叫ぶ様に暮石はそう言うと顔を覆って、たーっ、と走って行った。

 その様子を無言で見送った佐久真はその場に一人ぽつんと残される。


「……唐突過ぎたか……」


 しかし、こうでも言わないと幼馴染みからの距離も変わらないのは事実。結末がどうであろうとも、彼女とは一生関わりたいと思っていた。






 『偉人カフェ』を出たテツは廊下を歩きながら、サマーと出会った時の事を思い出していた。


“わしらと共にサモンに関わりたいじゃと? 止めておけ。今後、まともな人生は送れぬぞ。わしらが相手にしている敵はそう言う奴らじゃ。無論、命を狙われる可能性もある。唐突に殺される危険性もな。それでも……なに? それでも良いじゃと? たわけ! 命を大事にするのじゃ!”


「年下に説教されたのは初めてだったな……」


 最初は拒否されたが、諸葛孔明の元に通いつめる劉備の如く何度も訪れ、懇願した所、マザーと名乗る者が現れ、カツと組手(ジョーゴ)をやった。

 無論、顔が変わるくらいボコボコにされたが、最後はカツが手を差し伸べてくれてメンバーとなれたのだ。


「……放っておけぬだろう。何せ……彼女はまだ12歳なのだから」


 きっと、『ハロウィンズ』のメンバーは誰もが同じ気持ちだ。


 サマー・ラインホルトを護る。


 産まれながらの運命に翻弄され続けるサマーの“自由”と“笑顔”を護る為に、メンバーは彼女の近くに集ったのだ。


 世界を護る者たちは数多く居る。ならば、小生は世界に護られない者たちを護ろう。

 目立つ必要はない。今の方がかつて目指した純粋なヒーローだと思えるのだから。


「むむむ……ナツの顔を見たくなっ、た!」


 スマホでサマーへ連絡するが、着信は鳴れど取る気配がない。校内の安全性は前もってカツ(ビクトリア)が確認済みなので安心しているが、


「失、礼」

「ん? どうしました?」


 近くの風紀員に声をかける。


「オッドアイに空色の髪をし、た。少女を知らぬ、か?」

「お連れさんですか?」


 風紀員はテツが外からの客と言う事と、見た目のインパクトの強いと評判のサマーの知り合いと言う情報を認識していた。


「ちょっと待ってくださいね」


 と、風紀員はスマホの文化祭運営専用LINEにサマーの場所を訪ねる。

 すると、側で動向を見張っている風紀員からのメッセージが返ってくる。


「体育館でカバディやってるそうですよ」

次はカバディ激闘編

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