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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
5章 盆休みリンカ編 過去の町

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第60話 六年帝国の滅亡

 三鷹圭太(みたかけいた)は反抗期真っ盛りの中学一年生である。


 両親は片親で医者の父を持つ。あまり家にいない父には放任気味に育てられ、警察の世話になる程では無いものの、それなりに素行は悪かった。

 授業をサボったり、煙草や酒に手を出したりと、毎月のように父は学校に呼ばれる。


 そんなケイタは、まだまだ世間知らずの純情少年(チェリーボーイ)。特に恋愛事に対しては全くと言って良い程に教養はなく、誰からも教わることはなかった。


「もしかして、ケイタ君? うわー久しぶり! 会うのは六年ぶりかな? もう中学生だっけ?」


 その日、ケイタは自分でもよく解らない感情にドキドキする。

 隣の古民家。盆休みを利用して帰ってきた一組の母娘の娘の方は昔、一緒に遊んだ事があったからだ。


「覚えてる? 凛香。鮫島凛香だよ?」


 それは、多忙な父の代わりにいつも構ってくれた姉のような隣人だった。






 盆休みの初日からあたしは母の実家に帰省する事にした。

 それは殆んど記憶にない父が居た頃に共に暮らしていた家。

 今までは母の仕事が忙がしくて帰省は見送っていたが、本当の理由はそうじゃないと、どことなく察している。


「久しぶりねぇ。三鷹さんに様子は見てもらってたけど」


 綺麗な住宅街の中で一つだけ時間が逆行したかのような古民家が、あたしの実家だ。

 母が幼少期を過ごした家は、あたしにとっての祖父母が亡くなってから母が継いだらしい。


「リンちゃん、隣の三鷹さんに鍵を貰ってくるからちょっと待っててね」

「はーい」


 祖父母の友達であった隣人の三鷹さんは信用できる筋の人間だ。なんでも、盆休みで帰って来ているらしい。


 車から降りて荷物をすぐに家に入れられる様に玄関前に運ぶ。荷物と言っても着替えや、洗面道具などの、盆休み中に世話になる道具だけを持ち込んでいる。


「うわ……草すご」


 待ってる間、玄関までの道中を見ると、石畳以外の場所は延びきった草によって地面が見えない。

 虫達による六年帝国。繁栄の歴史は相当なモノだろう。まぁ、今日には滅亡するんだけど。


「強引にでも連れてくれば良かったか」

「ケンゴ君のこと?」


 ふふ、と笑いながら背後から声を出す母に驚く。


「お母さん、機転が回らなかったわ~。これを理由にケンゴ君を連れてくれば、盆休みも一緒に居られたのにね~」

「……早く鍵開けて」


 あたしの視線に母は、きゃ! こわーい、と相変わらず楽しそうにしているのだった。






「陛下! 今すぐお逃げください!」

「一体、何があった?!」

「神々が戻られたのです! 既に民は逃亡を始めています! 帝国は終わりです!」

「馬鹿な!? ええい! 民を引き連れて新たな地へ行くぞ!」

「しかし、ここ以外に受け入れてくれる地はどこに……」

「無ければ作るのだ! 新たな理想郷は必ずある!」

「おお……この身、永劫にお仕えいたします!」

「ぬお?!」

「ああ!? 陛下! 陛下ぁー!!」


「よいしょ」


 伐採した草の間にいた(バッタ)(リンカ)によって草ごと、傍らにあるごみ袋に入れられた。


「うーん……」


 丸まった腰を伸ばすように手を当てて態勢を起こす。

 庭の草を処理し初めて一時間。母は家の中を掃除し、あたしは日陰の内に中庭の処理を始めた。


「日陰でも暑いなぁ」


 アスファルトからの熱が離れていても感じられる。直射日光ほどではないにしろ、汗は止めどない。


「まだ三分の一か」


 中庭はそんなに広くないので、簡単に終わると思っていたが少しだけ見通しが甘かった。しかし、自分がやると言った手前、きちんと任務は遂行せねば。


「ほらほら、逃げろー」


 草を揺らして、これから刈り取ると、虫達にアピール。太陽が中庭を照り出す前には全部終わらせたい。


「――ん?」


 すると、道路から向けられる視線に気がついた。






「ケイタ、なんか今日、テンション低くね?」


 友達に誘われてゲームセンターで遊んでいた三鷹圭太は、つまらなそうに台を離れた。


「今、盆休みで、うるせぇバァさんが来てるんだよ」

「ああ、確か弁護士やってるんだっけ? お前んとこの婆さん」

「まぁな。しかも家に居ると色々とうるせぇんだよ」

「でも盆休みだけだろ? 暫く俺のとこにでも泊まるか?」

「そうすっか」


 着替えやらを取りにケイタは一旦家に帰る事にした。


 何も替わらない日々。感じるのは季節で暑いか寒いかの二つだけ。後は毎日同じだ。

 帰っても誰も居ないし、朝起きても誰も居ない。

 勉強やら運動やらで結果を出しても誰も何も言ってくれない。

 なら、やる意味なんてない。全部つまらないのだ。

 だから、真面目に学校に行く意味もない。

 金は足りないと居間にメモを残せば、親父が10万を毎回置いていてくれる。

 それを見て、真面目に勉学に励む事が馬鹿らしく感じた。


「……本当につまんねぇな」


 それはナニに対してなのか。何も考えず口から出た言葉はケイタの口癖のようなモノだった。


「うーん」


 隣の家の前を通るとき、そんな声が聞こえてふと眼をやると山が二つあった。


「――――」


 その二つの山を持つのは見たことのないボブショートの髪をした女だった。年齢的には高校生くらい。麦わら帽子に軍手と鎌を持って、放置されていた中庭の草を処理している。


 最初に眼を引いたのは二つの山だが、汗を拭いながら作業を再開する横顔に心臓が早くなった。


「――ん?」


 女と目が合う。思わずケイタは恥ずかしさから眼を背ける。


「もしかして、ケイタ君? うわー久しぶり! 会うのは六年ぶりかな? もう中学生だっけ?」


 それは、ずっと会っていなかったにも関わらず、誰なのかを解っている眼をしていた。


「覚えてる? 凛香。鮫島凛香だよ?」


 六年前に突如として引っ越した、姉のような隣人であるリンカとの再会だった。

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