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第566話 純愛は抜けない

「うむむむ。辻丘よ」

「なんですか? 遠山先輩」

「俺は今、文化祭に居るんだよな?」

「そうですね」

「パーリィーだよな?」

「うざいですね」

「ならば……すぐ近くに『猫耳メイド喫茶』があると言うのにっ! 何故に! 校舎裏の駐車場にいるのだっ!」


 生徒会の一番手と二番手の二人は、そろそろやってくる来客の対応をするために校舎裏のにやって来たのだ。


「普通は先生達が対応するべきじゃん? 猫耳メイドさん! 見たいし奉仕されたい!」

「うるせぇな。外からのお客さんです。こっちの主旨は伝えてあるので、生徒の対応でも問題ないんですよ。私達が対応しないと誰が迎えるんですか?」

「辻丘に任す! 俺は……猫耳メイドさんににゃんにゃんされに行く! 初動は巨乳さんと1学年の美少女がシフトに居るハズなんだ! コレを逃したら俺は――」

「仕事しろよ、ブタ」

「ぶぃい!?」


 辻丘のフルスイングのハリセンが生み出す、スパァン!! と校舎裏に音が響く。

 打たれた遠山は尻から煙を吹き出しながらうつ伏せに倒れた。


「うごご……これが生徒会長の宿命か……」

「何でも好き放題できると思うなよ? 職務を全うしてください」


 ハリセンの音で校舎から生徒会の二人に気づいた他の生徒は、あの二人またやってるなぁ、と流し目で通り過ぎる。


「来ました」

「むむむ……」


 尻をさすりながら起き上がる遠山。裏門から一台の乗用車が入ってくると丁寧に駐車し、運転席からサングラスにスーツ姿の女が出て来た。


「ども、ちびっこ達が案内役?」


 スーツの女は大宮司と同じくらいに背が高い。必然と二人を見下ろす形になる。


「こちらのブ……彼は生徒会長の遠山です。私は副会長の辻丘。案内をさせて貰います」

「セイトカイ? あぁ、日本の学校にはそう言うモンがあるんだっけ?」


 スーツの女は褐色の肌に日本語は若干のカタコト。外国人のゲストとは豪華だなぁ、と辻丘は素直に感じた。


「アタシはビクトリア。ゲストのマネージャーね」


 遠山は、スタイルは良いがスポーツマンぽくて対象外だな、とビクトリアを己の的にはならないと脳内に記録する。


「ビクトリア、扉を閉めてくれるか?」


 そんな声と共に後部座席のドアが開き、白い女性が出てきた。

 色素の薄い挑発を赤い紐で三つ編みに結び、淡々とした表情に垂れ目。スラリとしたプロポーションにも関わらず、標準を越える凹凸は着ているコート越しにも十分に山と谷を作っている。

 彼女の持つ全ての要素よって生み出されるミステリアスな雰囲気は男女問わず、10人中10人が思わず振り返るモノだった。


「ああ、ゴメンゴメン、ショウコ。荷物はアタシが持つよ」


 ビクトリアは、そそくさと白髪の美女から着替えと道具の入ったバックを引き継ぐ。


「む、子供がいるな」

「そりゃ居るっしょ? ハイスクールだよ。セイトカイだってさ」


 視線を向けられ、辻丘は彼女のミステリアスな雰囲気に当てられて呆けていた事にハッとする。


「つ、辻丘と言います! こっちは先ぱ――遠山です!」

流雲昌子(りゅううんしょうこ)だ。時間には余裕を持って来たつもりだが、少々早かっただろうか?」

「い、いいえ! 全然っ! 問題ありません!」


 ショウコはそんな辻丘へ近づくと様子を確認するように膝に手を置いて前屈みで覗き込む。


「君は少し顔が赤いな。体調が悪いのか? 無理はするな」


 目を合わせてそっと頬と額をさわってくるショウコに辻丘はザッ! と距離を取る。


「ちょ、ちょっと! 緊張してるだけです!」

「ふむ……ビクトリア。私は避けられているのだろうか?」

「プラスの意味でねー。ショウコはちょっと距離が近すぎるかな」

「ふむ、自重しよう」


 一人あたふたしている辻丘は、意外にも無言の遠山へ視線を向けた。彼はショウコを見て、じっと何かを考えている。


 『美女』『巨乳』『ミステリアス』。

 この三つの要素は万年ヲタクの先輩にはドストライクな要素のハズだ。何なら『巨乳』だけでも狂った様に反応すると言うのに、先輩に何が起こっているのだろうか?


「参ったなぁ……本当にそんなことあるんだ……」

「……何を神妙に悩んでいるんですか?」


 ボソリと口にした言葉へ辻丘は真意を問う。


「いや、ほら。何て言うの? エロでも純愛は抜けないのと同じでさ。美しすぎると起たないんだなって。滅茶苦茶属性てんこ盛りなのに、なんかオカズには出来な――」

「ゲスト様をっ! 前にっ! 何をっ! 言って! るんだっ! ブタぁ!」

「ぶふふっ! ぶひぃぃ! ぶぶぶぅぅ!!?」


 スパンッ! スパンッ! スパンッ! と辻丘のハリセンが遠山の尻に炸裂する。


「アハハ。セイトカイってオモシロー」


 生徒会の正しい知識のないビクトリアは遠山と辻丘の様子をコントの様に楽しんでいた。


「はーい、そこまでそこまで。太っちょ君が三日は座れなくなっちゃうから」

「ハッ! す、すみませんっ! ブタ……会長の失言に加えて、見苦しい所を……」


 ぶひぃ……と尻を腫らしてうつ伏せにダウンする遠山と、ハリセンを前に持って頭を下げる辻丘にビクトリアは微笑む。


「いいっていいって、ショウコはそんな細かい所を気にする性格じゃないしさ。ね?」

「ふむ……なるほど。そうだったのか」


 ショウコは遠山の反応に自己で何かを納得した様である。


「ビクトリア。どうやらケンゴさんが私と一線を越えないのは変な美しさが邪魔をしていたらしい。やはり、外からの意見と言うのは必要だな。良い事を学べた」

「てな、感じでさ。気にしてないから」

「は、はぁ……」


 外見が完璧だと中身は変になるのかな?

 学校では鬼灯の例を知っている辻丘としては、天は二物を与えずと言う言葉は正しいのだと理解出来る瞬間だった。






「ところでショウコ」

「ん?」

「さっきの太っちょ君の言葉を聞いてさ、何かフェニックスに仕掛けようとか思ってる?」

「ふむ。幾つかの案は浮かんだ。取りあえず、今度機会があったらゾンビコスプレで迫って見よう」

「ふーん、いいね。その時はアタシも呼んでね」

「ああ」


 実行される前にフェニックスの玉を潰すか……


 遠山と辻丘の案内の後に続くビクトリアはニコニコしながら、そんな事を考えていた。

純愛は抜けない

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