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第565話 恐竜の檻

「注文はどうしますか?」

「じゃあ……緑茶をくれ」

「緑茶ですと、煎餅の合わせ物が合いますけど、チョコとかも頼む人もいます!」

「いや、煎餅でいい」

「わかりましたー」


 と、笑顔で給仕室へ消えるリンカ。

 席に着いた大宮司の様子は、他の客や接客するクラスメイトにとってリンカの距離感はハラハラものだ。何がキッカケで暴れ出すのかわからないと言うのに、平然と対応している彼女の恐いもの知らずには素直に脱帽である。

 しかし……ちょっとした不手際でもあれば鮫島はどうなってしまうのか……と最悪のシナリオも想定せざるえない。


 エプロン姿が全然恐怖の緩和になってないな……


 『制服喫茶』の正装である、エプロン姿で現れた大宮司にツッコミを入れる者は皆無。


 なにせ彼を正面から押さえ込める人間は教師を含めて学校にはいない。いや、この街にさえ居るかどうか怪しい。

 しかし……か弱いクラスメイトが助けを求めるのなら、俺が守護(まも)らねばならぬ……


 リンカの胸に釣られてやって来た客(男子生徒)は各々で事が起こった時のシュミレーションを行う。


「…………」


 結果は、紙グズみたいに丸められるパターン、全身の骨を砕かれるパターン、ヨガの達人に強制的にさせられるパターン……妄想でも大宮司を凌駕する事は叶わなかった。


 ふっ……他の人に任せるか。


 全員が野次馬になる事で同調し、飲み終わった者から順に、ありがとうございまーす、と言われて出て行った。

 そして、代わりに風紀員の面々が入ってくる。

 少し不安になったリンカ以外のクラスメイトは、彼らの肩にある腕章を見て少し安堵し、席へ案内する。


「ご注文をどうぞー」


 そして、風紀の四人は各々注文を入れた。

 その異質な緊張感に並んでいた生徒は、少し時間を置くか……と列を離れ、ラッキー、と前に詰めた生徒は大宮司を見て、先に他を見て回るか……と『猫耳メイド喫茶』を後にする。

 それは猛獣の檻に入るようなモノ。そんなこんなで客足は一気に途絶えた。






 注文を受けたクラスメイトはヒカリが場を離れている為、一人で飲み物を用意するリンカへ声をかけた。


「あ、鮫島さん一人だっけ?」

「そう言えば……ヒカリと徳道さんは保健室だね……」


 今の時間の担当は五人であり、水間は集客に出ていて不在だ。


「ちょっと待ってもらう? 用意するの私も手伝うから」

「そうだね。あたしが言ってくるよ」

「お願いね」


 そう言うとリンカは後から入ってきた風紀員の元――ではなく、大宮司の席へ向かう。


「すみません、大宮司先輩。ちょっと人数不足でお茶を出すのが少し遅れますけど……良いですか?」


 場に戦慄が走る。

 何故!? よりにもよって大宮司先輩に言う!? 風紀員の誰かでも良かったじゃん! 

 と言う気持ちを、クラスメイトと風紀員の四人はシンクロする。

 これで大宮司先輩が機嫌を損ねて暴れたりしたら――


「……そうか」


 すると、大宮司は立ち上がる。コレはマズイ……と風紀員四人は覚悟を決め、遺書を書き忘れた事を後悔した。


「なんか……間が悪いみたいだ。少し時間を置いてから鬼灯と来るよ」


 そう申し訳なさそうに告げて大宮司は出口へ向かう。それなりの緊張感を生み出してる原因が自分にあると感じ取っての事だった。

 ふー、とクラスメイトと風紀員四人は心の中で安堵する。鬼灯先輩が一緒なら次に来ても何とかなるだろう。


「大宮司先輩ちょっと待ってください!」


 そんな大宮司を止める様にリンカは彼の腕にしがみついた。






 大宮司に電流が走り、動きが停止する。

 その理由はリンカの抱き着いた右腕から伝わる感覚があまりにも未知のモノだったからだ。

 そして、ソレを認識しないように視線はなるべく向けない。


「先輩が帰る必要なんてどこにもありません。誰かを贔屓するために店を開いたワケじゃないんですよ」

「さ、鮫島……」

「少し遅れるのは……こっちの落ち度ですけど……それでもあたしの淹れるお茶を飲んで行ってください」

「せ、席に戻る……だから……腕を離してくれ。胸が……その……当たってる……」

「…………!」


 大宮司の言葉に自分がナニを押し当てていたのかリンカは理解して、顔を赤くする。


「あ……その……すぐお茶をお持ちしますので!」


 ぴゅ~と給仕室に慌てて駆け込むリンカを何とも言えない表情で大宮司は見送ると席に戻った。


「「「「…………」」」」


 あの鮫島って子。胸以外はノーマークだったけど、めっちゃ可愛いじゃん。ああ、すれば俺もパイタッチしてくれるかなぁ。


 と、大宮司に起こったラッキースケベを自分達にも舞い降りる事を想定する。彼らも風紀員である前に男子であるのだ。

 女性の部位に興味を持つのは健全と言えた。


「すまないな。緊張感させっぱなしで」


 すると大宮司は席に戻ると一人言の様に呟くが、風紀員は自分達に向けられた言葉だと理解していた。


「飲むものを飲んだら俺は帰るが……風紀員として他の生徒を困らせる様な行動は止めろよ?」


 それはリンカに対する煩悩を察した大宮司による牽制。

 ゴォ……と飛んで来るその威圧に風紀員達の煩悩は一気に冷却され、はい……と声を揃えて返事をした。






 佐久間は暮石から、一人保健室へ運び込まれた事も聞き、『猫耳メイド喫茶』へ心してたどり着いた。


「ありがとうございましたー」


 すると丁度、大宮司が出てきた所に鉢合わせる。


「佐久間か」

「大宮司先輩……」


 店内は静かだな。店員も慌てた様子もない。杞憂だった……か?


「風紀員長も大変だろうが……折角の文化祭だ。お前も少しは紐を緩めろよ?」


 佐久間の肩に大宮司は手を置いて労うと、すれ違う様に歩いて行った。


「…………噂程でもない、か」


 そんな佐久間は聞いていたよりも大宮司と言う人間は無意味に暴れまわる様な者でないのだと少しだけ考えを改める事にした。






「あ、はい。生徒が対応しますので」


 職員室にて、やってくるゲストの面々から連絡を受け取る箕輪は受話器を置いた。


「ご苦労様です、箕輪先生」


 と、寺井は淹れたコーヒーを箕輪へ差し出す。


「ありがとうございます、寺井先生。それにしても今年は色んなゲストが来ますね」

「運とは波のようなモノ。今はビックウェーブが来ている者が校内でも何人かいますね」

「賑やかになるのは良い事です。寺井先生の手配してくれた方は有名な方なのですか?」

「ええ」


 寺井は自分のコーヒーを飲む。


「『流雲家』とは若い頃、海外に居たときに少々関わりがありましてね。今、日本に居るとの事で。今年の“厄”を払うにはこれ程適した者はいませんよ」

破ぁー!! 界隈では有名人

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