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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
4章 盆休みケンゴ編 灼熱の中で輝く

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第55話 省エネスイッチOFF

 一回裏の攻撃は六番の武田がセカンド、ファーストの間を抜ける当たりを出すも、ライトに処理されてチェンジとなる。


 二回表はインナイの四番からのスタート。ホームランを避け、ヒット性の当たりを誘発しつつも、強い打球を的確に処理する内野陣による動きでホームベースまでは踏ませない。


 二回裏は七番、八番、九番を重い球に抑えられて出塁者な無くチェンジとなった。


 そして、試合が動いたのは三回の表と裏である。






「良い傾向だが、打たされてるぞお前たち」


 バイザーグラスを着けたインナイの監督ブライトはバッティングの流れを指摘する。


「我々を打たせて取る事を難なくこなしているアケチと内野陣は見事だが、それ以上に徐々に差が開くモノがある」

「投球数です、皆さん」


 マネージャーであるエマはスコアブックを片手に告げる。

 明智とカミーユ。点の取れない二人の投手の違いは一打席ごとの消耗度だ。


「カミーユの『マグナム』は彼らに有効だ。しかし、打てない故に別の角度から攻略を始めている」


 白亜高校は一打席一打席で出来るだけカミーユに球を投げさせている。際どい球はカット。あからさまなボールは見逃す。フルカウントまで持っていかれ『マグナム』を使わざる得ない状況が二回も出た。


「まだまだ体力には余裕はありますが」

「他のスクールならそれで問題ないだろう。だが相手はハクアだ。彼らは試合の後半に行けば行くほど調子(コンディション)を上げてくる傾向(スタイル)にある」


 今の状態でも白亜の打力はカミーユの球を外野まで飛ばしている。

 『マグナム』に至っては初めて外野まで飛ばされた。


「この試合はまだにらみ合いだ。点が動いた時、初めて試合がスタートする。その時、我々は追う側であっては負けるだろう」

「つまり、この回で点が必要ですね」

「そうだ、バジーナ。全員、長打は意識するな。安打を重ねてホームへ帰ってこい」

「はい!」


『さぁ、インナイのバッターは八番ヘンケンです。類に及ばす彼も長打者ですね』


 インナイは全員が強打者。まだ、一巡していないが誰も彼もが他では四番を打っていても問題ないスペックを持つ。


「まったく……ボスラッシュかよ」


 明智は一度軽口を挟み、一投。ボールはキャッチャーミットへ叩き込まれた。


「ストライーク!」


 バッターは反応に遅れる程の球速に少しばかり驚く。


「ナイスボールです!」


 内野からの声。明智は普段から全力を出すことを嫌う、省エネ気質な選手だ。

 打たせて取るのが前提。そして、打ち気に逸る相手には緩急を見せる。


“要望は?”

“好きに投げろ”


 織田も明智がバッターとの駆け引きを始めたので残りは任せる事にした。


 セットポジションから先程と全くの同じ動作でボールを投げる。


「――?!」


 しかし、球はスローモーションのように遅く飛ぶ。

 同じ振りから放たれたスローボール。

 インパクトのタイミングを完全に外されたヘンケンはバットを止められず、内野に転がした。


「任せろ」


 ピッチャー前。明智は処理しようと構えるが、僅かに変形したマウンドの凹凸にボールはイレギュラーな動きを見せる。


「おい――」


 神様に対して文句を言いつつ、咄嗟に反応して手を動かす。しかし、キャッチは漏れてエラーに。

 遅れてダイキはカバーに入るが、ボールを持った時にはヘンケンは一塁を駆け抜ける。


『ここで明智、グラウンドに嫌われて痛恨のエラー』

『白亜高校からすれば嫌な流れですね』


「明智先輩」

「神様も俺には怠けろってか?」


 ダイキからボールを受け取りつつ、明智は一度空を見る。


「こっちは守りやすくなりましたよ」


 遊撃手からのゲッツーコースは守備陣の十八番(オハコ)だ。ダイキは遠回しに、気にするなと言いたいらしい。


「音無。少しは先輩を敬え。俺はお前より二歳上だぞ」

「すみません」


 ったく。ここまで来ると、後輩に先輩の威厳ってヤツを見せてやらねぇとな。

 バッターは九番のカミーユ。しかし、カミーユから打つ気は感じられない。

 誰が見ても送りバントの雰囲気。インナイも投手であるカミーユはなるべく休ませたいのだろう。


「織田」

「――」


 織田は明智の眼を見て、一度ミットに拳を強く打ち付けて気合いを入れた。


「多くても9球だ」


 明智はランナーを一切見ない。構えてから重心移動に入った瞬間にヘンケンは走る。


「――」


 ボールはキャッチャーミットへ、ランナーは二塁に到達する。だが、その速度は余りにも手が出せない代物だった。


「――ストライーク!」


 審判がコールを僅かに遅れる程の明智の速球。カミーユは目の前で見せつけられて咄嗟にバットを引いたのだ。


「良いぜ、転がしても。次は神様をぶん殴ってても取るからよ」

「――アメイジング」


 カミーユはバントを止め、答えよう、と笑みを浮かべて構える。明智もその様子に不適に笑った。


 帽子が置いていかれる程に高速の重心移動から生まれる明智の一投。

 ソレに反応してカミーユはバットを振り、打球は――


「――やるな。俺の負けだ」


 ピッチャー返しを超反応で取った明智は不適に言う。


「お前を二球でベンチに返しちまった」


 その結末に内から込み上げる熱いナニかに、わぁ! と湧く球場。ナイスボール、とベンチヘ帰るカミーユ。

 落ちた明智の帽子をダイキは拾う。


「明智先輩、全部それでお願いします」

「やなこった」


 省エネスイッチがONになった明智はダイキから受け取った帽子を被り直した。

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