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第548話 組織報告会

「今世代において、我々は大きなターニングポイントに居ると行っても良いだろう」


 『美少女を見守る会』によるスカイプグループは、顔こそ映さないものの、全員が同じ思想を持つ者達だ。

 彼らは“陰の者達”。

 学校では必ず一人や二人はいる……言わば陰キャと呼ばれる者の集まりであり、華やかな青春を送る陽キャの面々の影に隠れて、多くを観測している。

 特に彼らが注目しているのは、三つの学年に置ける名だたる美少女達だった。


「1学年、谷高光さん。2学年、暮石愛さん、3学年、鬼灯未来さん。そして、彼女達に限らず、他にも候補となり得る美少女も多数存在する。これ程の逸材が揃う事は天文学的確率であると言えよう。故に、我々は可能な限り彼女達を見守らなければならない」


 言葉を放つのは『美少女を見守る会』の現会長であった。

 彼もまた、陰キャの陰キャ。しかし、三年間、鬼灯未来と同じクラスになると言う豪運で会長に就任した実績を持つ。

 彼らの目的はマジのマジで“美少女を見守る”事だけだ。

 目立つことが苦手な彼らが、陽キャの陰でただ過ぎ去るだけの青春を少しでも思い出深いモノにする為に集まっているのである。


「その為、メンバー諸君には此度の文化祭において、美少女達の身内回りに関して、可能な限り観測して欲しい」


 身内が来る学校行事でも、文化祭は特にその当たりの事情が垣間見える。


「まずは僕から報告しよう。3学年『図書室の姫』こと鬼灯未来さんの身内が来る可能性が高い」


 会長の言葉に通話が繋がっている面々がざわつく。


「姫の身内が来ると言うこと?」

「これはとんでもない事ですね」

「まさに青天の霹靂」

「学校新聞に末代まで残る事態となります」


 『図書室の姫』鬼灯未来(ほおずきみらい)

 彼女は特にミステリアスな生徒だった。

 入学し2年の初頭で授業が免除される程の高校始まって以来の秀才。後にも先にも彼女を越える者は現れないと言われる程だ。

 性格は無機質。表情や声の音程が全く変わらない事から、実は政府の作った極秘アンドロイドではないのか? と言う噂が経つほど。(少し中二病を引っ張るメンバーの推測)

 口調もズバリと切り捨てる程に淡白で、陽キャでさえ続かない会話は陰キャの彼らでは絶対に耐える事が出来ない程に次元の違う存在だ。

 そんな彼女の身内がやってくる。


「僕の聞いた(聞き耳を立てた)情報によると、来訪されるのは彼女の姉君だ」

「お姉さんですか?」

「姫のお父上は入学式に確認していますが、ご姉妹の方がいらっしゃるとは……」

「やはり……会長、これは――」

「美女である可能性が高い」


 ざわっ……


「僕ではそれ以上は調べられなかった(聞く勇気は皆無)が、当日は慌てず騒がずに対応してくれ」


 恐らく学校一のビッグイベントとなるだろう。


「2学年、報告します」


 次に声を上げたのは次期会長候補の男子メンバーである。


「2学年『介抱乙女』暮石愛さん、知り合いを呼ぶそうです」

「ほう」

「あの保険委員長が身内を……か」

「風紀委員長と幼馴染みである彼女は意外と情報が集めづらい」

「彼女もまた、身内に関しては蓋が固い……誰が来ると言う情報はありますか?」

「残念ながら……知り合いを呼ぶとしか……」


 一筋縄では行かないですな……

 知り合い……家族ではなく?

 思った以上に難解な事ですね。


 等とメンバーは各々が考察を巡らせるが、会長の咳払いでピタリと止む。


「諸君、我々の本懐は見守る事にある。どの様な者が来たとしてもやることは変わらない」


 威厳のある会長の言葉に、自分達の役割を再認識させられたメンバーは、画面の前でコクリと頷いた(見えてないが)。


「『介抱乙女』については引き続き、2学年に任せよう」

「おまかせください」

「最後に1学年、報告を頼む」

「は、はい!」


 3学年、2学年の様子は会長も粗方把握している。しかし、学年も遠く一年も満たない期間で殆んど関係のない1学年の情報は最も得づらいモノだった。


「え、えっと! 1学年『太陽』谷高光さん。ご家族の人……母親を呼ぶそうです」

「ほう」

「谷高スタジオの社長が来ると言う事ですな」

「これはこれは……中々の大物がやってきますね」

「御母堂の情報は何かあるかな? 性格とか」

「す、すみません……何も……」

「謝る事はない、1学年。僕たちは皆同じだ。学年で上下関係はあるかもしれないが、本質は皆同列。決して責める事はしない」

「会長……」


 一通りの報告を聞き、会長は一度息を吸うとまとめに入る。


「諸君。此度の文化祭は今までに類を見ない、組織史上最も大きな観測となるだろう。しかし、忘れてはならない。僕たちは組織メンバー以上に学校の生徒だ。文化祭は必ず成功させ、来客者全員に不快な思いをさせずにもてなす事が最優先事項と言う事を忘れずにいて欲しい」


 組織の目的でなく、学生としての活動を第一にせよ、と言う会長の言葉にメンバー全員は声を揃えて、はい! と力強く返事をした。


「それでは、諸君。本番は土曜日だ」


 そして、通話を終えると『美少女を見守る会』は再び陰へと消える――

彼らは悪の組織ではありません

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