懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

4章 盆休みケンゴ編 灼熱の中で輝く

第53話 マグナム

「……」

　白亜高校の投手、明智は主将(キャプテン)であり捕手でもある織田のサインを待つ。

“一回打たせるぞ”

　インナイの一番バッターは、小柄のバッターだ。ちょこまかしそうな印象を受ける。

“まぁ……初期投資だな”

　明智は内野にもサインを送る。

“音無。取れよ”

“後輩使いが荒いですよ”

　セットポジションからオーバースローで明智の白球はキャッチャーミットへ――

「――――ファール！！」

　入らずに、バットに運ばれレフトのフェンスを越えた。

「音無、取れって言ったろ」

「あれが取れるのはスパ○ダーマンだけです」

　明智はボールを受け取ると、改めてバッターを見る。

　初っぱなから合わせて来やがったな……。しかも小柄なクセにスタンドに持って行ったか。

　さて、どうするか。司令塔の指示は――

“打たせるぞ”

「はは」

　自分と同じ考えに思わず笑う。そして、再度、内野にもサイン。

“音無”

“はいはい。解ってますよ”

　後輩が優秀だと投手(オレ)は楽できるな。

　明智の二球目は、ミットには収まらずライト前に落ちた。長打を警戒して下がっていたライトは慌てて前に出るとファーストへ送球。

「セーフ」

　定位置ならアウトに出来た当たりだったが少しばかり運が無い。

　会場はわっと湧く。

「音無ぃ」

「今の取れるのはドクター・スト○ンジだけですよ」

「魔法が必要か」

　部内で流行っているMCUネタには丁寧に反応できる。

　ノーアウト一塁。やれやれ。

「魔法を使うぞ」

「タノシミダナー」

　明智は特に焦る様子もなく、細長く背の高い二番打者を見る。そして、セットポジションからのストレート――

「――」

　良い音が響き、打球はショートを抜ける当たり。遊撃手がダイキでなければ。

「先輩！」

　超反応でダイビングキャッチしたダイキは空中でトス。受け取った二塁手はベースを踏むとその勢いでファーストも仕留める。

『出ましたぁ！　音無を起点とするダブルプレー！　いつ見ても、内野陣の連携は見事です！』

　会場が更に湧く。明智は指を立てて、ツーアウトとマウンドで見せつける。

“引っ掻けろ”

「あいよ」

　女房の要求に明智は大きく腕を振るとボールはミットへは収まらず、サードゴロへ。

　難なく処理しスリーアウトのチェンジとなった。

『一安打を許しましたが、それ以降の流れは非常に素晴らしいですね、大竹さん』

『明智君もさほど投げてはおらず、更に打たせて取る理想の流れです。しかし、勝負は二順目までにどれだけ手の内を隠しておけるかに――』

　攻守が交代し、ダイキはヘルメットを被る。

「音無」

　軽くバットを振っていると嵐が声をかける。

「オレまで回せ」

「今日はそのつもりです」

「いつもは違うのかよ」

「いつもは勝手にそうなるでしょ？」

「言いやがる」

　アイツら今日は妙に仲良いな、と他の面々は不思議がるが、監督は笑って成り行きを見ていた。

「まぁ、今日は本気で脇役やりますよ」

「頼むわ」

　一番打者としての役割は変わらないが、今日は特に塁に出る必要があるだろう。

「流石に一筋縄じゃ行かないか」

　前情報通りにインナイの選手は一人一人のアベレージが高い。

　白亜高校のエースも簡単に打たれるような投手ではないが、一巡目からボールを当てられるのは少しマズイのではないだろうか。

「……」

「暑いねぇ」

　用意してあげた烏龍茶を飲むのを忘れて、シズカは試合から眼を離さなかった。

「さてと」

　いつものようにバットを持ち、いつものように打席に立つ。

　ダイキに緊張はなかった。それだけ状況に馴れたと言うのもあるのだろうが、それ以上にワクワクしている。

『さぁ、一番音無です。今大会において、最も塁に出ていると言っても過言ではありません』

　ダイキの出塁率は相手にとっては最も警戒しなければならない。

　インナイの捕手はマウンドに上がり、投手と話をしている。

「カミーユ、彼が例のオトナシだ」

「レコのヒットを取った噂のニンジャボーイだな？」

「打者としても一流だ。エマのデータでは、最も帰還率(ホームイン)の高い男だと」

「だが、一人で取れる点には限界がある。だろ？　バジーナ」

「その通りだ。いつもの球で圧殺しよう」

「OK」

　面を着けながら捕手のバジーナは定位置へ。少し待ったダイキは一度、監督の指示が無いか見てから構える。

「要求は無しですか」

　自由に行け。それもいつも通り。まずは――

　カミーユの第一投。オーバースローによる速球であるが、意外と速くはない。

「ストライク！」

　際どかったので一応、見逃したが入っていたらしい。

「音無！　打っていけ！」

　ベンチからの声。確かに、少し手を出して見よう。

　カミーユの第二投は、内側をえぐるように入ってきた。打ち気になっていたダイキは思わず手が出る。

「ストライクツー！」

　審判の判定に追い込まれる形となる。

“カミーユ、『マグナム』で仕留める”

“OK”

　三投目。球速は先程と変わらない。しかし、コースは際どい。ストライクとなるかは絶妙で、尚且つ打ちにくい内角――

　よし、イメージどおりの球。

「！？」

　短い音と共にボールはレフト前に落ちる。ダイキは悠々と一塁を踏んだ。

『一番の仕事をします、音無大騎。ツーカウントから強気に振って行きました』

「……」

　解説者の言葉とは裏腹に白亜高校の面々は少し驚いていた。

「今の完璧だったよな？」

「ああ。普通ならスタンドに入ってる」

　織田と明智はダイキの打席に疑問を抱く。

　ダイキのバッティングは完璧に芯を捉えて、角度もホームランコースだった。

「思った以上に重そうですね」

「監督」

「浅井君。送りましょうか」

　二番の浅井は、一回裏で獅子堂監督が動くのを初めて見た。

「はい」

　浅井も打率の低い打者ではないが、今のダイキのバッティングから走者を大事にするべきだと悟ったのだろう。

「皆さん、一巡目は手堅く行きます。私からのサインを見逃さないように」