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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
35章 君にだけは嫌われたくなかったから
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第521話 君にだけは嫌われたくなかったから

「……」


 ケンゴの過去と今起こる可能性がある事態。それらを聞いてもリンカは、彼の手に重ねた自分の手を離さなかった。


「なんで……あたしにその事を話してくれたの?」


 今までケンゴはこの事を誰にも話さなかった。この事実を受け入れようが受け入れまいが、今までと同じ様には見られなくなると、彼も解っていたハズだ。


「……」


 リンカの質問にケンゴは口を開くも、何を言っても無駄だと思い言葉を閉ざす。


「…………あたしなら……嫌われても良いから?」

「! 違うよ! そうじゃない……」


 ケンゴは沈黙はリンカへ勘違いをさせてしまうと思い、理由を口にする。


「君にだけは嫌われたくなかったから」






 初めてリンカと会った時、彼女は部屋の前で体育座りで蹲ってた。

 オレの部屋は彼女の部屋よりも奥だったから自然と声をかける必要があり、里では年下の面倒を見ていた事もあって問題なく対応できると思っての事だ。

 当然、君は警戒する。けど、一瞬……安堵したのも感じた。そこでオレは解ったんだ。

 君はオレだった。あの日……船に一人残された大鷲健吾だった。


 里では皆がオレを助けてくれた。気にかけてくれた。でも、逆にそれが夢のように思えて、いつしか消えてしまうのではないかと、常に思っていた。

 けど――


「君に初めて声をかけた時、オレは現実に居ると理解できた。次第に君と一緒にいると夢じゃないって思えたんだ」


 里から出て初めて自分から助けようと声をかけた。

 里の外で多くの者達と深く関わろうと思ったのはソレがキッカケだった。


「君が居ると夢じゃないって自覚できるんだ。でも……『フェニックス』がある以上、いつかは君の元から……離れなきゃいけなかった……」


 海外転勤は良いキッカケだった。

 リンカも一人でセナさんのサポートを出来るくらいには成長していたし、そのままオレが居なくなっても問題ないと思っていた。


 そして……日本に戻るにしても、住む場所は変えるつもりだった。そうすればリンカに危険は及ばない。でも――


「オレは自分の都合で君の元に戻った。だから……君だけには真実を伝えないと……これから、君とは向き合えないと思ったから」


 君に依存していたのはオレの方だった。

 そして、己に眠る『フェニックス』を見てみぬフリをして何気ない顔で戻った。しかし……君とキスをした事で君を死なせてしまう可能性に改めて思い至ったのだ。


 きっかけは……阿見笠さんが“大鷲”の姓を知っていた事。そこから『フェニックス』の事を彼女に知られれば自分の口から告げるよりも酷いことになる。


 あんた、何怯えてんの?


 ビクトリアさんの言う通りだ。オレはずっと……怯えていた。

 真実を知って……リンカや知り合った人達から軽蔑の眼差しを向けられて離れていく事を。

 それでも……彼女には……リンカだけには……知っていて欲しかった。

 それがどんな結果になろうとも――


「…………」


 オレはリンカを見れなかった。

 もう全部話した。オレは、今の話で彼女が軽蔑や罵倒して去っても、ソレは受け入れる必要のある事だと思っている。

 すると、彼女は重ねていた手を離した。


 リンカは、オレの元を離れる選択をしてくれた。それで……良かったんだ。オレは……最初から一人で――


「……大丈夫」


 そう言いながら彼女は座るオレの後ろから包むように抱きしめて来た。






 彼が頑なにこちらからの好意に答えられなかった理由がわかった。

 それは、沢山の思いと彼の優しさから、人を愛さない事こそが、正しいと思い込んだ結果なのだと、あたしは解釈する。


 『フェニックス』の事はにわかには信じられない。けど……真実なのだろう。でも、あたしにとって、そんな事はどうでも良かった。

 あたしは立ち上がると、そのまま彼を抱きしめる。そして、


「大丈夫」


 その言葉が一番に出た。あたしの腕を彼も握る。


「貴方が居たから、あたしは立ち上がれた。貴方が居たから、あたしは笑うことが出来た。貴方がいたから――」


 夕陽がゆっくりと地平線へと消える。


「鮫島凛香は鳳健吾を好きになれた。あの時、あたしを見つけてくれて……いつもあたしの側に居てくれて……本当にありがとう」


 あたしは貴方を一人にしない。貴方は忌むべき存在じゃない。

 その事を心で伝えるつもりであたしは彼を優しく抱きしめる。


「あたしは……ずっと貴方の側にいるよ」


 その言葉を伝えると彼は顔を伏せて身体を震わせた。


「……う……うぅ……うぅぅぅぅ」


 声は上げなかったけど、泣いているのがわかった。

 あたしは、彼の背中は小さな男の子に見えて、泣き止むまで優しく抱きしめる。

 わたしは貴方の側から居なくならないと……きっと伝わったと思ったから――

彼と彼女の本音

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