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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
35章 君にだけは嫌われたくなかったから
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第508話 勝負よ、ケイ

「なんじゃ、ケイ。もう帰るんか?」

「ああ。世話になったな、トキの婆さん」


 昼食のBBQの片付けをしながら七海は場の面子に挨拶する様に声をかけて、帰る旨を伝えていた。


「いいのか七海よ。里も落ち着いた。大して何かをあるってワケじゃないが、1日くらいはゆっくりしても良いんだぜ?」


 ゲンも七海が一週間の休暇を取っている事は知っている。それに、少なからず彼女も命の危機に陥ったのだ。そんな経験をさせたことを申し訳なく思っていた。


「色々と考えた結果としてはこれ以上、里に居ても仕方ないって思ってんだ。部下の事も気になるしな。ジジィもそうだろ?」


 休暇は一週間の申請であるが、早めに切り上げられるなら、その時点で帰るつもりだった。


「俺は徳道と鬼灯が居るから心配はしてねぇよ。ケンゴもこっちに居るから仕事以外の変なトラブルは起こり様がねぇしな」

「無難な分析だな」

「うぬぅ……」


 聞こえているケンゴは唸る事しか出来ない。


「ケイさん。帰っちゃうんか?」

「ん? おう」


 シズカが、二人の話している様子を聞き、寄ってくる。


「居心地は悪くねぇけどよ。残してきたモンも心配でな。今生の別れってワケじゃねぇんだ。そう、悲しそうな顔をするなよ」

「うぅ……」


 三日間は、小鳥遊の仕事を手伝っていたシズカは七海とはあまり絡めなかった。里が落ち着いたら、一緒に遊べると思っていただけに気落ちする様子は他よりも深い。


「七海さんにも事情があるんだ。次はお前が会いに行けば良いだろ」


 そんなシズカをフォローする様に竜二が割り込む。


「兄貴……」

「おお、そうだな。街に来る時は声をかけろよ。色んなトコに連れていってやるぜ」

「本当?」

「俺は嘘は言わねぇよ。竜二、お前も頼りたかったらいつでも連絡しろよ。こう見えても人脈は広い方だからな」

「ありがとうございます。手段の一つとして考えておきますよ」


 竜二は外との接点が出来た事が今回の収穫であった。


「まぁ、無理にずっと居る必要もないからね」


 ロクも七海へ声をかける。


「何も出来ずにただ逃げ回ってただけでしたからね」

「そんな事はないよ。人の強さの度合いは他者に与える安心感の大きさだ。ケイ君が居てくれたおかげで、ユウヒとコエはこうして笑っていられる」

「なんか……そう言われますと照れます」


 父に似たタイプの大らかさを持つロクから褒められて七海は何処と無く恥ずかしくなった。


「ケイさん。今回は本当にありがとう」


 コエもそんなロクの横から声をかけた。彼女の目線に合わせる様に七海はしゃがむ。


「おう。だが、コエ。お前はもうちょっと甘えても良いぞ。その年齢にしては達観し過ぎだ」

「そうかな?」

「ああ。ワガママ言って、欲しいモンねだって、今の内に出来る子供らしい事をやれ。社会に出れば、言おうなしに上下関係に組み込まれるからな。そうなったら甘える事なんて出来ねぇぞ」

「わかった。ロクじいちゃん。ワタシも銃を撃ってみたいんだけど。今から出来る事はあるかな?」

「まずは身体を作る所から始めようか」


 今回の件でコエに新しいの目標も出来た様子に七海は立ち上がる。


「ケイさん! 帰るんですね!」


 新次郎が当然のようにやってくる。ソレを予測していた七海はいつものように対応した。


「お前はどうすんだ?」

「俺も帰りますよ! ケイさんの居ない場所に俺の居場所はありませんから!」

「そーかよ」

「そうか。ならお前も一緒に送ってやるよ、新次郎」

「ゲンさん、本当ですか!? ケイさんと相乗りかぁ……最高ですね!」

「お前は助手席に座れよ」


 いつもと変わらずにぐいぐい来る新次郎に今回の一件においても七海の対応は何も変わらなかった。

 ゲンは、車をとってくるわ、と言って一度場を去る。


「ケイ。帰るのね」

「ヨミ婆」


 何故か包丁を片手にヨミがやってくる。


「そっちも帰るだろ?」

「私はもう二日は居るわ。まだ、解体作業が残ってるし、ジョーの怪我の経過も見ておきたいから」

「そっか」

「ロクに送ってもらうから、足の心配はしなくても良いわ」

「なんか悪いな」

「気にしないで。寧ろ、こんな状況で帰る方が勿体ないわ。生物の脳を直に見れるなんて……病院でも中々無いもの。一部の骨髄神経に微量の電気を流すと眼球が動くのよ。人間じゃ法律が邪魔をして出来ないけど……熊は関係ないわよね。フフフ……」

「倫理観は守ってくれよ……」


 ヨミ婆がナイチンゲールやってたら、兵士が魔改造されて前線に送り返されそうだな。と七海は素直に思った。


「ケイ!」


 と、一番挨拶をするべき相手から声をかけられて七海はニヤリと笑いつつ振り向く。


「おう。元気が良いな、ちんちくりん」


 そして挑発する様にユウヒを見る。


「甘いわ。もはや……そんな安い挑発に乗るアタシじゃないわ! このレディであるアタシを嘗めないでよね!」

「おお。少しは成長したな。その通りだ」


 七海はそんなユウヒの頭に手の平を乗せる。


「他が何を言おうと、お前はお前だ。お前らしく、自分の意志で手を握る相手を選んで前に進めば良い」

「そ、そんな事! 言われなくても分かってるわ! ワタシは――ワタシは……」


 眼を伏せるユウヒの心情を察した七海は目線を合わせる様に屈む。


「お前は立派なレディだよ。ソレをもっと磨いて行け。そうすりゃ、何にでも手が届くさ」

「……ケイぃ」


 と、ユウヒは涙目を隠すように七海に抱き着く。


「おいおい。レディが別れ際に泣いても良いのか?」

「……んん……」


 なんの、んん、だよ。と七海はユウヒを抱きしめながら微笑む。


「……勝負」

「ん?」

「勝負よ、ケイ」


 七海からゆっくり離れたユウヒは目を赤く、鼻を啜りながら言う。


「ケイの得意分野とアタシの得意分野で勝負よ」

「ああ良いぜ。10年後に勝負しよう」


 そう言って七海は立ち上がる。


「お前達に出会えて俺は本当に良かった。何かあったらいつでも呼べ。コエと仲良くな」

「うん」

シズカは七海LOVEだけど、百合ではありません

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