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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
34章 いつまでも健康な君で居てくれますように
503/700

第503話 23年前 いつまでも健康な君で居てくれますように

「ん? ライトが――」


 『WATER DROP号』へ乗り込んだ梯子から『ガルート号』へ降りようとしていたマーカス達四人は、不意に客船の灯りが照らされた様子に眼を眩しくする。


「Mr.ジョージがつけたようね。恐らく、一旦離れてもすぐに見つけられる様にするためよ」


 日誌でも電灯関係の配線は修理出来たとあったので、落ちていたソレをジョージが起動したとステラは推測する。

 その時、冷ややかな風を肌で感じる。


「うぉ……マジでやべぇな」


 見上げるとまるで映像の早送りを見ているかの様に積乱雲が上空で成長していた。それも、高さ的には相当に低い。

 それに伴って発生する風によって海も荒れ始め、『WATER DROP号』は思った以上に揺れる。

 ステラはマーカスが梯子を降りて行く様を見届けつつ無線をつける。


「Mr.ジョージ。『WATER DROP号』は、かなり危険な状況です。急いでください」

『わかった』


 無線で外の様子をジョージに伝えるとステラは梯子に足をかけて降り――


「――ん?」


 様としたした時、視線の先に子供が居た。年齢は3歳程で東洋人の小さな男の子。一瞬だけ目があったが、彼は逃げるように船内へ駆けて行った。


「生存者!!?」


 生き残り? あの歌の放送があの子がやったのか? 何故、今まで姿を見せなかった?


 様々な疑問が浮かんだが、まずは梯子を戻ろうとした瞬間、発生した突風に煽られて思わず手を離してしまう。

「しまっ――」


 そう口にした時には既に宙へ投げ出され、そのまま海へ落ちる。


「! ブリッジ! ステラが船の後方に落ちた! 急いで救助を頼む!」


 梯子を降りていたマーカスは、吹き始めた突風に耐えながら、持っている無線でステラの救助を要請した。






 嵐が来る。

 海上でソレに見舞われる危険性はジョージも強く理解していた。だが、それ以上に船の揺れ幅が異常だった。


「――今までで一番デカイのが来るか」


 予兆でも巨大な客船をここまで揺らす積乱雲が形成されていると分かる。

 『WATER DROP号』は沈むかもしれない。そう考えるとジョージはどうしても、将平達の部屋には行かねばならなかった。


「――ここか」


 その船員室は他の部屋とは違って、医務室と出入りする様に繋がっている。その為、客室の区画の一番端にあった。


「――」


 ジョージは扉を開けると、そこは幾つかの事務作業をする資料と、寝るためのベッドが二つ用意されており、缶詰や空のペットボトルが散乱している。


「……ここで誰かが生きていた」


 事務作業のデスクを調べるとノートPCと手書きのメモに、バイオハザードのマークがついたケースが開けられていたりと、日常ではない様が垣間見える。

 そして、そのケースの内側には脳と地球を模したエンブレム――


「やはり……『ジーニアス』!」


 思わず横の壁に握った拳を打ち付ける。

 船長の航海日誌を読んだ時から薄々感づいていた。


 国際的テロ組織『ジーニアス』。


 奴らは日本にも根を張ろうとして、前任『処刑人』である大鷲センリを殺害。しかし後任となる自分が数多の協力を得て日本からは完全に退けたのだ。

 その後、何かしらの手がかりを得る都度、その大元を潰しに国外へも出たが、ついにその姿を捉える事は叶わなかった。


「……すまん、将平。ワシの怠慢だ」


 何がなんでも『ジーニアス』の大元を突き止めて潰しておくべきだった。

 このケースは今回の首謀者が持ち込んだモノだ。将平がソイツから奪い、中身を調べたのだろう。

 ケースには三つの容器が入る様な凹みがあるが、全て空になっている。


「中身の事を書いたメモは……ないか」


 メモの筆跡は全て息子のモノ。しかし、殆どが自分では理解できない専門用語や日付に数値ばかりで、即座には解読できないモノばかりだった。しかし、あるメモに――


“もう俺も長くない。アキラとの約束を果たす。後は頼むよ”


「…………あぁ、任せろ」


 それは必ず自分がここに来ると分かっていた息子からの遺言だった。

 ジョージはそのメモだけをポケットに入れると息子のスマホとノートPCを抱え、部屋を出る。

 その時、船が大きく揺れた。


「――っとと」


 片手が塞がっていたので思わずよろけて廊下の壁に手をつける。すると、目の前の通路を人影が横切った。


「――――」


“……凄く疲れたよ。でも、なんとかなったから。母子共に元気です。将平さんは借りてきた猫みたいに病室の前でウロウロしてたみたいだけどサ”

“お前が今までに無いくらいに死にそうな声を上げるからだ”

“あれワザとだよ、ワザと。ゲートコントロール理論って知ってる? 人って痛い時に声を出すでしょ? あれって、声を上げたり泣いたりする事で痛みに対する意識を分散して感覚を和らげてるんだって”

“……お前、なんでそんな事を知ってるんだ?”

“この子も痛みを知るだろうから、母親としてドヤれる事をしなきゃね! きっとこの子は沢山泣くだろうから、そこで僕が包容する。これでお母さんっ子にする予定! にしし♪”

“まったく……”

“ん? 何? お義父さん。この子の名前は決めたのかって? 決めてるよ。この子が僕に宿るずっと前から。だよね? 将平さん”

“……ああ”

“いつまでも健康な君で居てくれますように、って願って――”



「健吾!」


 ジョージは横切った人影――将平とアキラが何よりも大切にしていた息子の名前を読んだ。

 船は風に煽られて大きく傾き、船体が悲鳴を上げる。

章タイトル回収

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