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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
4章 盆休みケンゴ編 灼熱の中で輝く

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第50話 シズカの告白

 オレは意外な形で三年ぶりに再会したダイキと卓を囲っていた。傍らには各々の知人である、嵐君とシズカが席に着いている。


「オレは鳳健吾。こっちはイトコの小鳥遊静夏」

「僕は音無大騎です。諸々の事情で帽子と眼鏡は取れないのでご容赦を」

「嵐浩司です! シズカちゃんって言うのか! よろしくな!」

「よろしくだ――です」


 思わず田舎言葉が出そうになったシズカはギリギリで標準語に戻す。

 にしても嵐君はテンション高けーな。


「二人は白亜高校だっけ? ここにいるって事は野球部かな?」

「ウッス! 四番打ってます!」

「僕は一番」

「ゴ兄、ゴ兄」


 と、シズカが袖を引っ張る。オレらの会話に少しだけ追い付けない様子だった。


「白亜高校は今の甲子園で戦ってる。二回戦も余裕だったよね」


 リンカ達の高校を難なく破った白亜高校は、二回戦も主力投手を温存してトーナメントを上がっている。


「お言葉ですが、鳳さん。余裕なんて無いッスよ」


 シズカに惚けていた嵐君はスイッチが切り替わった様に高校球児の顔つきになる。


「一回戦も二回戦も楽な相手じゃなかった。最初から最後まで油断と隙を狙って互いに牽制をし合ってたんです。一歩踏み外せば、負けたのは俺らでした」


 決して己の実力を驕らない嵐にダイキは、だから彼が四番なのだと笑みが浮かぶ。


「そっか。流石、甲子園常連の四番だね。心構えが凄い」

「嵐さん……カッコいいべ!」


 キラキラしたシズカの眼に、部員皆そうッスよ~、と再び惚ける嵐君。


「ケン兄ちゃんは、甲子園を見に来たの?」

「いや、目的はフードフェスの方だ。オレは観戦はテレビ派だからな」


 大竹さんの解説が普通に面白いので、球場に足を運ぶよりもそっちの方が楽しめてる。


「まぁ、ヒカリちゃんもお前の試合はちゃんと観てるよ。一回戦の時は、打ったれ! 打ったれ! て、テレビの前で熱くなってたし」

「ほんと?」


 嬉しそうに少年の顔に戻るダイキ。ヒカリちゃんの事になると相変わらずなのは変わらない。


「鳳さん。その“ヒカリちゃん”ってのは何者ですか?」


 オレらの会話に嵐君が割り込んでくる。そっか、野球部みたいな男の園では色のある話題は上がりやすいのか。ダイキは名前を全国公開してたし。


「オレが、ダイキの小さい頃からと一緒に面倒を見てた同年代の女の子」

「つまり、幼馴染み、と」

「そうだよ」

「ケン兄ちゃん。それ以上は……」


 おいおい音無ぃ、それは野暮だぜぇ~、と肩を組む嵐君に、カンベンしてくださいよ~、と苦笑いするダイキ。


 唯一、一年のレギュラーという事で部内では妬まれると少しだけ気にかけていたが、二人の仲を見ると取り越し苦労だった様だ。


「ゴ兄、“ヒカリちゃん”ってこれ?」


 と、シズカは背負っていたリュックからファッション雑誌の特別号を取り出した。

 表紙にはヒカリちゃんが載っており、オレも特別号を貰っていたので、昨晩盛り上がった話題だ。


「まぁ、これだけど……お前、何で持ち歩いてるんだ?」

「ウチのお気に入りじゃ」

「音無ぃ~ヒカリちゃん、めっちゃ可愛いなぁ~」

「先輩! 万力みたいになってる! 痛い痛い!」


 ダイキは料理が来るまでの間、ホームランを量産するパワーにシメられていた。






「今日は試合は無いのか?」

「明日だよ。相手はインターナショナルハイスクール」

「略して“インナイ”って部内では呼んでるッス」


 有名どころのカレーを食べながら白亜高校の試合模様を直に話す。


「確かに、外国人ばかりのチームだっけ?」

「結構新しい設備とかで鍛えてるみたいッス。純粋な身体能力の総合ならあっちが上っスね」


 確かインナイは、一回戦と二回戦は相手にダブルスコアをつける程に攻撃特化なチームだと記憶している。


「唯の脳筋集団ならやり用はいくらでもあるけどね」

「一筋縄では行かない、と?」

「それなりに理論でやってるっぽい。まぁ、メジャー監督が就いてるらしいからその辺りのノウハウも深いんだと思うよ」

「でも、勝つのは俺らっスよ」


 嵐君の自信満々な言いぐさは、自分達が負けるとは微塵も想定していない。

 その精神の強さが、白亜高校の強さなのだろう。


「はは。やっぱり最前線で戦う男達はカッコいいね」


 あの、転んでばっかのダイキも今や全国に顔が知れた高校球児かぁ。子供ってのは成長が本当に早い。


「まぁ、次の試合できっちりホームラン叩き込みますよ」

「嵐先輩、ずっと敬遠されてますもんね」

「敗北を知りたいぜぇ。シズカちゃんも俺らの試合は明日だから見ててくれよな」


 嵐君、完全にシズカに気があるな。まぁ、地味な服装でも隠しきれない容姿だ。でもな嵐君、シズカは中学二年生だぞ。


「……」


 その視線にシズカも嵐君からの好意を察している様だ。まぁ、今まで幾度とそう言う眼を向けられたからだろう。


「嵐さん……嵐さんはウチの秘密を知っても同じように見てくれますか?」

「当然よ! 何か困ってるなら頼ってくれ!」

「シズカ。良いのか?」


 おそらく嵐君が考えている事と、シズカが話そうとしている事は全く違うだろう。


「……ゴ兄、嵐さんの気持ちは無視できんよ」


 シズカは少し辛そうに笑う。

 そして、一呼吸置いて意を決した様に己れの秘密を口にした。


「ウチは“男”なんです」

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