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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
34章 いつまでも健康な君で居てくれますように
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第499話 23年前 タイムマシン

 トキは『ガルート号』の船内から出ると、甲板までやってきた。

 『WATER DROP号』へ乗り込んだ五人と通信を取りつつも、人手が必要になった際に乗り込む事が出来る第二チームが装備を整えて待機している。


「苦労をかけてスマンのぅ」

「トキサン」


 その内の一人にトキは声をかける。


「まるで幽霊船(ゴーストシップ)ですよ。人の気配は全く無いのに、歌が放送されてるんです」

「……そうじゃな」


 場に流れるノイズ混じりの歌を恐れる船員達とは裏腹に、トキは冷静と言うよりは一つの安心を得た様な表情をしていた。


「ジョー……確実に生きとるヤツが居る」


 『WATER DROP号』を見上げなから、義娘(アキラ)の歌声が流れる放送から生存者の確信を得ていた。






「……くそ、頭が可笑しくなりそうだ」


 ブリッジに行くためのルートとして船内を選んだのは生存者の痕跡を見つける意図も含まれていた。

 しかし、流れ続ける放送はブリッジへ近づくにつれて大きくなり、状況効果も相まって、マーカスは少し参っていた。


「外で待っててもいいぞ」

「いやいや、ジョージサン。それはもっとヤバい」

「マーカスはホラーが大丈夫でしょ?」

「ホラーゲームも嬉々としてやってるしな」

「俺は笑いながらゾンビを撃つお前をサイコパスだと思ってた」


 ステラ、フェイン、ジョイスは、休憩時間の時はいつもホラーゲームをやり混んでいるマーカスを見ていた。


「俺も自分の事はサイコだと思ってたよ。でも、正常だと知れて良かった」

「精神科医のお金が浮いたわね」


 いつも冗談を振り撒くマーカスが本気で萎縮している現状はやはり異常なのだと3人は気を引き締める。


「ここだな」


 そんな話をしていると船の最上階、ブリッジの扉の前に辿り着く。


幽霊(ゴースト)怪物(モンスター)も無し。脚本としちゃあ、まだ序盤か。それともB級か」

「マーカス、黙ってて。Mr.ジョージ。行きますか?」

「ああ」


 ジョージは銃をホルスターに仕舞い、扉のバルブを時計回りに回転させるが、


「全員、下がれ。もう開いてる」


 その言葉に4人に緊張が走る。鳴ってる放送。開いている扉。つまり、中に誰か居る可能性が高いのだ。


「銃は構えるな」


 扉へ銃口を向けていた4人はジョージの言葉に少し緊張が緩む。

 そして、外開きにバルブ扉をジョージが開け中に入る。


「――コイツは……」


 4人はブリッジに入ると毒気が抜かれた様に緊張が解ける。

 相変わらず薄暗く、灯りは機器のランプのみ。そして、船内放送がONになっている無線機の横には一つの携帯電話が歌を流していた。

 最大の不安要素の原因は、携帯からの音楽を船内放送が拾ってると言うだけだった。


 この世における現象の全ては科学で解決出来る。全員が目の前の“不気味”の原理を理解した故に一気に恐怖心は薄れたのだ。


「マーカス、ステラ。周囲を調べてくれ。フェイン、ジョイス、二人はブリッジの機能を確認してくれ。使えるモノ、使えないモノの選別を頼む」


 その指示に各々は行動を開始。ジョージは携帯電話を手に取り、歌を停止させる。携帯には、見覚えのあるユニコ君のキーホルダーが垂れ下がっていた。


“はい、お義父さんお土産。いやー、驚いたなぁ、海外でユニコ君のキーホルダーが売ってたよ~。僕とお揃いね。鍵でも携帯でも、どこでもつけてちょーだいな”

“親父。即わかったと思うが、アキラはお土産を買い忘れたんだ。それは帰りの船旅で必死に手編みで作ったユニコ君だ。こっちは、オレがイギリスで買ったクリスタルオブジェ。お土産だ”

“ちょっと、将平さん! お土産買ってたならそう言って!”


「…………生きているのか?」


 それはジョージの持つ母屋の鍵にもつけたキーホルダーだった。世界に二つしかないソレを見間違うハズはない。これは間違いなく、アキラの携帯電話だ。


「お知り合いの私物ですか?」

「……義娘のモノだ」


 ステラの問いにジョージは答えると、アキラの携帯を閉じる。


「Mr.ジョージ。少し、疑問に感じたことがあるのです」

「死体か?」

「はい」


 ステラは、ブリッジに来る道中で、本来ならあるハズの死体を全く見かけない事に疑問を抱いていた。


「当時の『WATER DROP号』には船員を含め、257人が乗船していました。何かあったのであれば、遺体の一つは見かけても良いハズです」


 船医として、ステラは遺体の確認には特に気にかける様にしていた。その観点から道中の様子は不自然だと感じたのだろう。

 それどころか、死臭さえも船内から漂って居ないのだ。


「…………二つだけ、ワシの中でその謎に対する回答がある」

「それは――」

「ジョージサン。電源は完全に停止してる。けど、機関部から直接再起動すればつけられるかも」


 すると、コントロール端末を調べていたフェインが報告にやってくる。


「無線はどうだ?」

「無線も壊れてる。動いてる気配が無い」


 周波数や電源を触るジョイスは無線は機能していないと告げる。それもそうだ。無線が無事ならばこんな事にはなっていない。


「なんだ、なんだ? やっぱり俺が一番有能って事か?」


 周囲を探索していたマーカスは一冊の本を掲げてやって来た。


「最も古いアナログ航海日誌(タイムマシン)。これで何があったのか解るっしょ」

「何で筆跡式なのかは不明だけどね」

「『WATER DROP号』の船長はアナログ好きか?」

「船員は苦労してそうだな」


 今時に手書きの航海日誌は、手間でしかない。しかし、今回に関しては助かったと言わざる得ない。


「ジョージサン」


 マーカスは、ジョージへ航海日誌を手渡した。


「貴方が先に見るべきだ」

「すまんな」


 ジョージは受け取った日誌を海図等を広げているデスクに置くと開く。横からライトを当てながら全員が覗いた。


 それは船長の航海日誌。今から5ヶ月前――遭難してから1ヶ月を最後に記録は途絶えている。

 ジョージは更に遡り、6ヶ月前のページから開く。

500話は一旦、外伝挟みます

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