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第494話 私の新しい家族

 昼食を終えた『神ノ木の里』は今回起こった事の片づけに入った。

 ジョージは銃士の面々に改めて指示を出す。


「封鎖規制は解除するが、まだ油断するな。山は一ヶ月間、様子を見る」


 今回の一件で全ての熊を仕留めたワケではない。奴らが再びやってくるかどうかは、銃を持つ自分達の動きにある。


「罠を仕掛け直し、二人一組で日に二回確認する。熊を見かけた時は鈴を鳴らし、威嚇射撃。向かって来ない限りは仕留めなくていい」


 そうする事で、現れる事の多い個体は鈴が鳴れば撃たれると認識するだろう。


「工場は熊の死体処理を頼む。一から十まで無駄にするな」


 自分達がこの辺りを支配するからこそ、現れた資源は決して無駄にはしない。ジョージのその思想には里は誰もが賛同していた。


「明日には里の外に居る皆を呼び戻し、今回の成果を見せよう。今夜は各々で過ごせ」






「旦那様、例の件の報告書です」

「あぁ、残火処理の件かい?」

「宛先はありませんが……ジャック・オー・ランタンのマークが封書にあります」


 圭介は己の領地にある麦畑に設けられた小屋のテラスで側近のリタから、自分も参加した作戦の処理報告を受け取った。


「ふむ……資産も全て凍結。重要標的の死体を全て確認。研究資料も全て破棄。リタ、君はこれをどう見る?」

「『ジーニアス』は完全に消滅したと見ても良いかと」

「うむ。私も同意見だ」


 圭介はパサッと資料をテーブルに投げると椅子に体重を委ねる。


「こんなモノが世界の闇に蠢いて居たとはね。しかも100年以上も前から」


 あの後、捕らえたホーキンスとリックを調べたら、彼らは整形した偽者だと言う事が判明した。本人達は自宅で殺されており、死後半年は経っていたと言う。

 その組織的かつ、綿密な計画の元に今回の襲撃があった事を即座に把握。

 その後、圭介は警告をくれた『ハロウィンズ』のトップ、“マザー”と接触し、『ジーニアス』の掃討作戦へ参加した。


 『ジーニアス』の研究施設三つと世界各地に散るメンバーの排除。それらの情報を得るために敵戦力と正面からぶつかるも、それを全て撃破。

 戦闘の陣頭に立ったのはエージェントカラーズの一人、コード“ブラック”。

 圭介から見ても常人離れした身体能力を駆使し、難所をこじ開けて『ジーニアス』のセントラルを制圧したのである。

 研究施設とセントラルを失い、更に関与のある各界隈の協力者を全て終らせて、事は終息に向かった。

 これら全ては、アヤには秘密裏に行われた。


「奥様とお嬢様には……」

「話さなかったよ。話す事でもない。特にあの子は今、自分の運命に直面している。親としては心置きなくそっちに集中させてあげるものさ」


 世界の半分を掌握しようとした組織との戦いを何でもないと言う圭介。すると、携帯に連絡が入る。


「おっと、噂をすればだ」


 今は側に居ない娘。その声を聞けるだけでも嬉しくなる。


「もしもし?」






「御父様」

『やぁ、どうだい? そっちの空気には馴れたかい?』

「はい」

『それは良かった』


 父の声を聞くとアヤも嬉しくなる。僅かな間でも軽いホームシックになっていたと感じた。


「皆さん、とても良くしてくれています。お友達も沢山出来たのですよ?」

『アヤはいつも人気者だからね。その点は心配していないよ』

「御父様。私は……一度そちらへ帰ろうと思います」

『……そうか』


 アヤの言葉に圭介は一呼吸置いてから大体を察する。


『やはり、譲治さんとは相成れなかったかい? すまないね、お父さんのせいだ』

「いえ、そうではございません。御父様……一度譲治おじいさまと、お話くださいませんか?」

『……私にそんな資格はないよ。譲治さんを裏切ったのだ。どの顔で話せばいい?』

「御父様。アヤは今回、御父様の故郷に赴き多くの事を教わりました。そして、感じたのです」


 この里にいる誰もが自分の為だけでなく――


「皆さん、己の隣に居る家族を想って戦いました。そこに、過去も未来もなく、里の者たちを皆、“家族”として支えあって居るのです」

『…………』

「もちろん、それには御父様も含まれております。支え合う家族を誰が蔑ろにできましょうか?」

『アヤ……。そうだな……お前の言うことはもっともだ。わかったよ。お前が帰ってきたら、前向きに検討しよう』

「――はい!」


 圭介はアヤに説き伏せられた事で、“自己の殻”を全て破って飛び立った娘に、教えることは何もない、と嬉しく感じる。


『可愛い子には旅をさせよ、か。やはり、ケンゴへ紹介して正解だったかな?』

「はい……あの方に出会えた事は……アヤにとっては生涯の財産です」


 ケンゴは乗り気ではなかったが、娘の様子を見るに関係は十分に進展したようだ。


『なら、挙式は盛大に上げようか。どこでやる? 和式と洋式のどっちが――』

「御父様、早計です。お兄様とは、その様な関係ではございません」

『そうなのかい? ……ん? お兄様?』


 疑問に言葉が止まる圭介にアヤは心底嬉しそうに、


「御父様、アヤに新しい家族が出来ました」

ケンゴは最初からそのつもり

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