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第489話 彼女の一番大切なモノ 中編

 『ハロウィンズ』の事は圭介も知っていた。しかし、直接話をするのは今回が初めてである。


「【ハロウィンズ】か。どうやってこの番号を知ったのかはわからないが、悪ふざけはそれ相当の報いを受けると思っていたただこう」

『我々は信用される組織ではありません。しかし、警告を出さなければならないと判断し、こうして連絡を差し上げた次第です』

「警告だと? こうして、本来の電話先でない者の言葉に何の価値がある?」

『貴方は彼の友人ですので』


 彼の友人。その単語に電話を切ろうとした圭介の手が止まる。


「……将平を知っているのか?」

『大鷲将平とは私個人に深い縁があるのです。ですが、その事を説明している時間がありません。会場に驚異が迫っています』

「問題ない。私が居るし、警備の者も我が剣術の熟練者だ。皆が名実共に信用に足る」

『『ジーニアス』はどこにでも潜り込みます。我々は入念に準備し『ジーニアス』を壊滅させる手筈を整えました。ですが……リストのトップにある名前はその前に襲われる可能性があったのです』

「誰の名前だ?」


 すると、アヤはバルフレルと彼の連れてきたメンバーと共に弦楽器を使って演奏を始めようとしていた。


『貴方のご息女、白鷺綾さんです』






「私が真ん中で宜しいのですか?」

「君の為に呼んだのだ。パーティーに彩りを加えようではないか」


 バルフレルと共に軽く音を合わせるアヤに他のメンバーも各々の楽器の調整を行う。

 その内の一人が何気なくトランペットをアヤに向け――


 一発の銃声が響いた。


「!!!」

「キャァァ!!」


 会場が騒然とする。本来なら入念な検査により、持ち込むまれるハズの無い銃声が響いたからだ。


「……ちっ!」


 トランペットを持っていた男は、横から投げられた皿が当たり、射線が外れた事に憤慨する。

 皿を投げたのは圭介だった。咄嗟に近くのテーブルにあった空いた皿を投擲し、アヤを護ったのである。


「警備! その男を抑えろ!」


 圭介は駆け寄りながらイヤホンマイクで警備の者達へ指示を出す。


 しかし、トランペットと男は別の楽器を手に取った。仕込み武器は一つではなかったのだ。仕込み銃は一発きりだったのか、楽器がスライドして現れたのはナイフ。

 この会場に侵入した時点で只者ではない。あのナイフは十分な殺傷能力を秘めている。


「アヤ! バルフレル様を連れて離れなさい!」


 狙いは娘だ。しかし、警備が取り押さえるよりも、男の凶刃が襲いかかる方が早い。


「アヤ……私の後ろに隠れなさい」

「大丈夫です、バルフレルお爺様」


 本来なら萎縮する場面でもアヤは逆に戦意をまとい、前に出る。


 男のナイフは鋭く、瞬きよりも早い突きが襲う。しかし、それよりもアヤの動きの方が洗練させれていた。


 御父様の真剣の方がずっと恐ろしいです。


 『白鷺剣術』には無手による武器の制圧も存在する。アヤは何よりも先に、それらを圭介より叩き込まれていた。その鍛練方法は、圭介の真剣を避けると同時に刀を奪うか――


「貴方では練習にもなりません」


 持ち手を掴んで投げる。ナイフを突き出した男は自分が投げられたと感じる間も無く、天地が回転、地面に背中から落とされた。

 その衝撃に男はナイフを手放し、アヤは身動きが取れない様に腕を立てる様に捻って押さえ付ける。そして、警備の者達が駆けつけた。


「お嬢様! お怪我は!?」

「大丈夫です。彼をお願いします」


 アヤは警備の者達に男を引き渡すと、会場の面々に何事もない微笑みと一礼を行った。

 その見事な撃退劇に招待客は、オォォ! と歓声を上げる。


「なんとアメージング!」

「素晴らしい! 『白鷺の姫君』は着飾るだけの存在に在らずか!」

「凶刃を前に迷わぬ動き。『白鷺剣術』は護身にも長けるか!」


 まるでイレギュラーな事にも問題の無い対応を見せたアヤに圭介も駆け寄る足を遅めた。

 やれやれ。問題はないと思っていても胆は冷えるな。


「警備、男は警察に引き渡す前に尋問する。逃がさぬ様に見張りをつけておくように」

「ケイスケ! アヤは本当に素晴らしいな!」

「閣下、あまり娘を褒める事は無きようにお願い致します」

「ハッハッハ。親は子に厳しくあらんとな!」






「なんと言うことだ……ホーキンス! 何故こんな事を!」


 バルフレルは両脇を取り押さえられた襲撃の男――ホーキンスが連れていかれる前に問い詰める。


「……優秀な遺伝子だ」

「なに?」

「我々はどこにでも居る」


 ホーキンスは一度アヤへ視線を送る。その目は人を人として見ない、別の生物のような視線をしていた。


「素晴らしい。神は時折、我々に贈り物を下さる」

「……連れて行ってください」


 気味の悪い視線をアヤは受け止めていたが、耐えられなくなり先に眼を反らす。ホーキンスは手錠をつけられて連れていかれた。


「アヤ……なんと言っていいか……本当にすまない」

「大丈夫です。バルフレルお爺様は無関係であると調べればわかります。こんな事で気を落とさないでくださいませ」

「それでは私の気が済まない。今後、何かあれば『ノーツ家』は真っ先に助力すると約束しよう。『白鷺』と君の双方にだ」

「それはとても嬉しいお話です」


 そして、メンバーとその所有物を再度入念に調査する事になり、演奏会は取り止めとなった。


「アヤ!」

「御母様――」


 間髪を居れずに奏恵(かなえ)は駆け寄るとアヤを抱き締める。


「もぅ、無茶をして! 警備の人が居るのだから、貴女が技を使う必要はないのよ!」

「私が前に出れば最小限の被害で留まると思ったからです」

「それでも、貴女は私とお父さんの大事な大事な娘なの……お母さんを心配させないで頂戴」

「……はい」


 母からの深い愛情を感じながらアヤは抱き締め返す。


「アヤ、貴女はもう休みなさい。護衛はつけてもらうから」

「何て事はありません、御母様。伊達に鍛えられていませんよ」


 アヤは、ふんす、と鼻息を吐く。そんな心身ともに強く育ってくれた娘に奏恵は仕方なしに微笑んで返した。


「それよりも会場が台無しになってしまいました」

「そうね。それなら、お母さんとお父さんで一曲踊りましょう。そのまま波に乗せて会場をダンスホールにしちゃいましょうか」


 奏恵は圭介を見ると、その視線に気づいたのか、警備と連絡するフリをして離れて行こうとする。


「御父様は逃げる様です」

「ふふ。アヤ、お父さんを連れてらっしゃい。お母さんがここを見ておくから」

「はい」


 一瞬の緊張から解き放たれた会場では『白鷺の姫君』の話で持ちきりだった。

 窮地を越えたとして気が緩む時。

 故にソレを咎める事は誰にも出来なかったかっただろう。警備の中にもう一人、襲撃者が混じって居たことに反応が遅れるのは――


「アヤ!!」


 唯一、娘を見ていた奏恵だけが咄嗟に反応し、放たれた銃弾を娘の変わりに受けたのだった。

『ジーニアス』は作中通しての諸悪の根源

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