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第485話 多分、不老不死

 母屋への道を進むとドッドッド、とエンジン音が聞こえて来た。

 それは母屋へ近づくにつれて大きくなり、それは血の臭いと共に五感を強く刺激してくる。

 あー、これはアレだな。多分――


「構造は人に近いわね」

「二足歩行するくらいには体幹がある動物じゃからのぅ」


 横たわる熊吉の死体を解体してるばっ様とヨミ婆が居た。

 母屋が目の前なので、二人は解体後はすぐに外置きの冷凍庫へ放り込む形で作業している。

 専用の器具を使って皮を剥ぎ、内臓を取り出し終えて、手足を電動ノコギリで骨ごと切り離している最中だった。

 近くに停めたポンプ車を竜二が調整し、水道の水を清水へと濾過したもので、バラした肉や内臓はハジメさんが洗っている。

 洗い終わった肉は蓮斗が冷凍庫へ運ぶと言う形が一連の流れである。

 飛龍は警戒しつつも近くで伏せていた。


「どーも」


 オレが旗を振りながら、作業中失礼、と存在をアピールする。

 慣れなければエグい現場だ。人によってはトラウマものだけど、蓮斗もハジメさんも普通に作業をしているな。


「お? どうした? ケンちゃんや。解体デートでもしに来たんか?」

「カップルが即解れを連想させる単語を生み出すなや……」

「ほっほっほ。アヤよ、ケンちゃんはとんでもない所に連れ込もうとしとるで。覚悟してな」

「はい!」

「いや、もー、ばっ様! 変にアヤさんに気を使わせるの止めぇや!」


 昨晩の事もあって、そう言う事を意識しちゃうから! まったく……


 オレはこれ以上絡まれると余計に拗れると思い、母屋へ向かう。アヤさんは解体ババァ二人とハジメさんと竜二に頭を下げて続く。


「おっと、アヤの姉ちゃんと鳳の旦那」


 母屋の外門から入る所で冷凍庫と往復している蓮斗と鉢合わせた。


「大変そうだな」

「ご苦労様です」

「何て事はねぇよ。この荒谷蓮斗! 力仕事じゃ右に出る者は居ねぇのさ!」

「適任なポジションだな」

「旦那にそう言って貰えるとありがてぇ限りだぜ! 今後も気兼ねなく、どんどん頼ってくれ!」

「あー、その事なんだが蓮斗」


 オレは改めて彼に言う。


「もう、お前の事は目の敵にはしないよ。今回は本当に助けてもらったからな。今後は対等に行こう」


 今も十分に助けられている。これだけしてもらって、蔑ろに見続けるのも失礼と言うモノだ。


「旦那……俺を許してくれるのか?」

「里やオレの家族の為に動いてくれたんだ。誠意は十分に伝わったよ」

「くぅ! こんな俺を許してくれるなんて、心が広すぎるぜ!」

「大袈裟な奴だなぁ」


 と、銃声がまた二発響く。






 母屋から簡単な肩掛けのバックに必要な道具を入れて持つ。その間、アヤさんは特に質問せず楽しみにしてくれている様だ。


「これから山に入るから、アヤさんも靴をどうぞ」

「ありがとうございます」


 着物と白足袋にサンダルスタイルのアヤさんは平然とついて来てくれたが、ここからは荒れ地を歩く事になる。怪我をしない為にも靴へ履き替える意図は察してくれたようだ。


「ばっ様。靴借りたから」

「おー」


 手が離せない状況に声をかけると、ばっ様は片手だけを上げてそう言ってくる。


「竜二。無線はあるか?」

「これじゃ」


 ロクじぃ達と状況を知る為の無線を持つ竜二は投げて渡してくれる。オレはスイッチを入れて、


「ロクじぃ」

『――どうした? ケンゴか?』

「今から山に入るけど、そっちはどう?」

『今、3頭目を見つけたよ。今は母屋かい?』

「そそ」

『そっちには流れて行ってないね。北へ逃げてる感じだ』

熊吉(ボス)が殺られた場所だから避けてるのかな?」

『多分ね。こっちは午前中には終わりそうだ』

「あんがと」

『“長老”に会いに行くのかい?』

「アヤさんを紹介しようと思って」

『きっと彼も彼女の事は気に入るよ』


 オレは必要な情報を受け取ると竜二へ無線を投げ返す。

 アヤさんにはハジメさんが、付き添いを、と声をかけて居たが、お婆様達を手伝って上げてください、と指示されて一礼して作業に戻る。


 蓮斗とハジメさんはアヤさんの付き人なので、彼女の指示が最優先だ。その事は、ばっ様も了承の上で手伝ってもらっている。


「行こうか」


 そんな作業中の人達の後ろを抜けて、山道へ。


「傾斜に気をつけてね。後、木の音が結構凸凹してるから」

「はい」


 最初は踏み均された、最低限の道を進むが、次第に獣道になっていく。

 久しぶりの道なだけあって、動きやすい服装のオレでも時たま足を取られそうになるのだが、着物のアヤさんは平然と後に続いた。


「凄いね。動きづらくないの?」


 オレはキツイ傾斜で、彼女へ手を貸しなかがら尋ねる。


「ケンゴ様が先を歩きなさっているおかげです。それに、この着物は動きやすい様に特注で作られてるんです」


 アヤさん曰く今着ている着物は、柔らかく、それでいて軽量で動きやすいモノであるらしい。


「そこまで着物に拘る理由とかあるの?」

「農作業をするときは洋服ですよ。今回は、礼節が必要だと思いましたので外行きの和服を持ってきました」

「あらら。今回の件でわかったと思うけどさ……この里に礼節とかいらないからね」

「そんな事はありません。此度の来訪で出会った方々はどなたも敬意を抱きました」

「いや、そう言うことじゃなくてさ」


 オレはアヤさんを傾斜の上に引っ張り上げると、次は下り始める。


「この里じゃ、鎧の紐を締める必要は無いって事。君も家族なんだから」

「――はい。ありがとうございます」


 そう返してくれるが自己の殻が強すぎるアヤさんは開放的にはならないだろうなぁ。

 己を律すると言えば聞こえは良いが……やっぱり、放ってはおけない。


「何となく察してたと思うけど、はい到着ー」


 茂みを抜けて拓けた場所に出た。






 目的地に近づくにつれて、大きくなる水の落ちる音と匂いを感じれば誰でも察せるだろう。


 そこは滝壺が存在する山中の水辺だ。上流と下流の中継地点とも言えるこの場所は知らなければ上空からでも見えない為、穴場中の穴場なのだ。

 里に居た頃の夏は、一度はジジィとばっ様の引率の下、竜二とシズカを連れて納涼に来ていた。

 しかし、一番の見所は大自然ではなく――


「! ケンゴ様!」


 その時、水辺を挟んで対面側に現れた熊にアヤさんが反応する。まぁ、最初のリアクションは誰だってそうだよね。

 ましてや、熊吉との死闘をした彼女からすれば仕方の無い反応だ。


「大丈夫だよ。彼はじっ様の友熊(ゆうくま)。じっ様の子供の頃からの知り合いらしくて、オレや里の皆は“長老”って呼んでる。多分、不老不死」

「……そうなのですか」


 しかし、“長老”は相変わらずだね。ずっと姿が変わんねぇや。小鳥やリスを身体に乗せつつの登場は神格が一段と際立ってやがりますよ。

隠居熊

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