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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
4章 盆休みケンゴ編 灼熱の中で輝く

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第48話 シズカとケンゴ

小鳥遊静夏(たかなししずか)です。ご迷惑をおかけしました」

七海恵(ななみけい)だ」

鬼灯詩織(ほおずきしおり)です」


 シズカは助けてもらった国尾とケイとシオリに礼を言う。

 国尾に至っては、三人の証言から厳重注意でギリギリ何とかなった。今は上半身に伸縮性のインナーを着ている。


「大事が無くてよかったな。ちなみに、君を助けようとした他二人も居たぞ」

「アイツらはほっとけ」


 リョウとノリトは全力逃亡してから戻ってこない。それほどの恐怖を国尾は植え付けたのだ。


「じゃ、俺はジムに行くんで。今度は気を付けなよ」

「お前は普段から予備の服持ち歩いとけよ」

「あんがと~」


 シズカは思わず地元の言葉使いが出て恥ずかしさに口を抑える。


「良い味出してる!」


 国尾はシズカに、わっ、と笑顔でそう言うと歩いて行った。


「アイツの脳回路、どうなってんだ?」

「ふふ。シズカさん、貴女は行きたい所があるの?」


 ケイとシオリは事の発端になった経緯を聞いていた。


「従兄の所に行きたいんです」

「一人旅行? 従兄さんに連絡はしてるの?」

「いえ……ちょっと事情があって……」


 中学生一人が荷物を持って歩いている現状は少し放っておけない。既に日は落ちて夜になってしまっている。

 特にシズカの容姿は地味な服装でも隠しきれない程に類を見ないレベルの美形だ。一人にすれば何が寄ってくるかわからない。


「じゃあ、俺らが送っていくか」

「そうね。それが良いかもね」

「何から何まですみません」

「気にすんな」


 端から見れば三人とも美形であるが、集まった事で逆に話し掛けづらいグループとなった。

 これ、とシズカは住所の書かれたハガキを二人に見せる。

 なんだ近くじゃねぇか、と最悪タクシーを使おうと思っていたケイは手早く済みそうだと喜ぶ。


「あら」


 シオリにとってはそこは良く知っている場所だった。






「ふむ。ハズレか」


 オレは事前情報無しで適当に見つけたB級映画の視聴を終えた。


『エンダーマンVSフェニックス』


 パッケージは面白そうだったんだけどなぁ。雑なCGと強引なストーリーは、MCUを見続けたオレの眼にはハズレとしか言わざる得ない。


「次は海外ドラマでも借りてくるか」


 大半の映画は観つくしてしまったので、次はドラマシリーズに手を出すとしよう。


「とりあえず、ゴールドラッシュを――」


 取り扱って居そうなレンタルビデオ店をネットで調べていると、インターホンが鳴った。

 誰だろ? と鍵を開けて客へ対応する。


「どちら様――」

「よう」


 そこには殆んど接点のない私服姿の七海課長が立っていた。


「えっと……何かミスしました?」


 七海課長がわざわざ訪ねてくるなど仕事の件以外に考えられない。


「こんばんは。鳳君」

「鬼灯先輩?」


 別の聞き慣れた声にそちらを見ると私服姿の先輩が手を振っている。

 誘う程の接点がないオレとしては、先輩の私服を見るのはかなりのレアケースだ。泉のヤツが見たら卒倒するな。


「えっと、お二方は一体何用で?」


 二人が親友である事は薄々気づいていた。会社は特定の人間以外は盆休みなので、それを利用して遊びに出ていたのだろう。


「リンカさんは留守なの?」

「母方の実家に帰ってます」


 リンカに会いに来たのだろうか。タイミングが悪い。


「お前は一人か?」

「そうですけど……」


 何だ? 七海課長の視線が刺々しい。リンカとは違った(プレッシャー)がある。


「用事があるのは私達じゃないの」

「それはどういう――」


 と、二人の最後尾から帽子を被った美少女が現れた。

 ぬお?! 誰これ!? 地味な服装では隠しきれないオーラにオレは一瞬眼が眩む。


 流れるようなストレートの黒髪。程よくバランスの整った体躯にある胸は大きくも小さくもない。白い肌は箱入りでもされていたかのように美しく、触れれば崩れてしまいそうな程の美少女――


「――お前、シズカか?」


 オレの記憶にある小学生のイトコと目の前の美少女の姿が重なった。


「ゴ兄!」


 言葉に美少女――シズカは嬉しそうに微笑み、飛び付いて来た。






「シズカに何かあったら国尾をけしかけるからな」

「ふふ、またね。シズカさん」


 そう言い残して、七海課長と鬼灯先輩は帰って行った。

 シズカは荷物を持ってキョロキョロと部屋を見回している。


「適当なとこに置いてていいぞ」

「おん」


 田舎言葉を遠慮なく使えるのが嬉しいのか、シズカは楽しんでいる様子だった。


「そんで、何でオレんとこ来た?」

「……秘密を(かか)に話した」

「ほんとか? 楓叔母さんに?」

「うん」

「……そうか。何か理由があるが?」

「見合いを言われたわ」

「……ほあ?」


 シズカの言葉にオレは少しだけ目頭を抑える。


「お前、いま幾つだ?」

「14」

「相手は?」

「二十歳」

「じっさまは何も言わんかったか?」

「まだ本決まりじゃなかで」


 都会に居るからか……いや普通に考えても非常識だ。14の子供を娶るとか、戦時中でもなけりゃあり得ねぇ話しだぞ。ソイツ法律知ってんのか?


「それで、逃げてきたか?」

「逃げた理由は秘密の方じゃ。見合いの件よりも強烈じゃったで」


 シズカの秘密は、本人の人生を左右するどころか他も巻き込みかねない程の代物だ。叔母さんもさぞ驚いただろう。


「そんで、じっさまに相談したらゴ兄の所に行けって」

「ほんとか?」


 あのジジィ……いや、今のシズカにとって村は肩身が狭い。

 悔しいが、ジジィの判断はファインプレーと言わざる得ないだろう。


「なら、しばらく居ったらええ。オレも休みやし」

「あんがと。ほんとはな……ゴ兄が変わってしもたかって心配だったんよ」


 少し安心して涙ぐむイトコの頭に手を置いて撫でてやる。


「オレは変わらんよ。いつまでもシズカの従兄じゃてな」

「うん」


 盆休みの初日から意外な同居人が増えたのだった。

男バスター国尾

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