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第473話 『神島のヒ・ミ・ツ』

「ロクじぃ」


 オレは公民館の外塀に椅子を用意して座るロクじぃに声をかけた。

 椅子に座って日向ぼっこをする老人の様な穏やかさ。ただ、膝の上に猟銃を乗せてる異質感が半端ねぇ!

 ちょうどゲンじぃとも話をしていたので少し待つ。


「ロク……お前、まだ貸しを返しきれて無いのかよ」

「貸しって言うよりも、協力したいんだ。里に居ても二人の為に出来る事は限られてるからのぅ。せめてな」

「まぁいい。俺は止めたからな。二時間後に交代に来るわ」

「よろしく」


 会話が終わるのを待っていたオレにゲンじぃは、気張れよ、と肩に手を置いて歩いて行った。

 気張れ? どういう意味だろ……?


「ケンゴ」


 本来の主旨を忘れる所だった。


「話があるって、ばっ様から聞いたけど」

「大した事じゃない。今はまだ独り身かい?」

「まぁ……そうだけど……」

「いや、責めるワケじゃないんだ。私もケンゴくらいの歳は独身だったからね。結婚したのは35だったし」


 ロクじぃの二十代かぁ。まだジジィがバリバリの最前線な群雄割拠。『神島』も深い闇が機能していた頃だろう。


「ジョーの仕事について、ケンゴは何か聞いてるかい?」

「いや……聞いても教えてくれなかったし。次第に興味失くしたよ」


 すると、足元にすり寄る感覚。眠っていた大和が話し声に起きて来ていた。オレは撫でながら会話を続ける。


「今は社会人だろう? どんな会社だい?」

「えっとね……」


 名刺は持ってきてないので、オレはスマホで会社のHPをロクじぃに見せる。


「ちゃんとした会社かい?」

「少し特殊な形態だけど、支部なんかも日本各地にあって大きいよ。最近は海外展開も始めたから」

「トキから聞いてるよ。三年間、頑張ったね」


 大和を撫でるオレをロクじぃが撫でてくれた。この優しさが身に染みる。曲者揃いのジジィ世代でもロクじぃは本当に癒しなのだ。

 思わずホロリと来たが、この歳で嬉し泣きなど恥ずかしいので咄嗟に拭う。


「そ、それで? 用事は何?」

「ユウヒとコエを扶養に抱える気は無いかい?」

「え? 二人を?」


 唐突な提案にオレは思わず聞き返す。


「ああ。あの子達は今10歳だ。来年からは中学受験もあるし、早い段階で里から出してあげたいと思っている」


 オレが小さい頃とは違い『神ノ木の里』でも過疎化が進んでいる。里の合同学級でも中学生はシズカだけで、他の年少組は街の中学に行くそうだ。


「二人には外に身内がいない。一応、頼れるツテに声はかけてるけど、中々に難しくてね」


 中学生二人だけで暮らさせるワケにも行かないか。


「オレも一人暮らしなので、二人を迎えるには手狭だよ」

「その場合は引っ越して貰っても良い。その資金は全面的にこちらで負担するし、月々の家賃も全て賄おう」

「うーん。今のアパートを気に入ってるから、ちょっと引っ越しは考えられないかな」

「そうか。いや、困らせてすまないね」


 ユウヒちゃんとコエちゃんの事は里の皆が気にかけてる様だ。オレも二人に出来る事があれば……ふむ。


「オレの部屋は無理だけど、同じアパートに住まわせる事は出来るかもしれない」

「それは結構有力な感じかい?」

「大家さんと直接話してくれる方が早いかも。事情はわかる人だよ」


 謎の実力を持つ赤羽さんはオレの知り合いの中でも比較的に良識人だ。事情を深く話さなくてもある程度は察して黙認してくれる。


「まだ、先の話だからね。触りだけでも相談してみてくれないかい?」

「わかった。ロクじぃの携帯番号とか教えていい?」

「構わないよ」


 扶養と言う形で部屋は別。特殊な例だが、提案するだけしてみよう。


「本当に頼もしくなったね。この間まで、大和たちと山の中を走り回ってたのに」

「まぁ……流石に6年も社会に揉まれるとね……国の外にも出てたし」

「その辺りの土産話は明日の楽しみに取っておこうかな」


 誰も想像できない6年だからなぁ。退屈させない自信がありまくる。


「じゃあ、オレはそろそろ寝るから」

「帰ってきて早々、ご苦労様」

「ホントだよ……」


 僅か数時間でこのハードスケジュールだもんなぁ。特殊な例かもしれないが、二度はやりたくない。


「あ、そうだ。ケンゴ」


 寝ちゃうのー? と足回りをウロウロする大和に、ラストで揉みくちゃに撫でてやっていると、ロクじぃの声が背に届く。


「トキに渡して欲しい物があるんだ。寝る前にお願いできるかい?」

「いいよ」

「管理室に置いてある資料なんだけど、それをトキに渡してくれるかい? 後の『神島』に関わる重要な事だって」

「……どういう事?」

「私も詳しくは知らない。トキとジョーが進めてた計画(こと)かもしれない。頼める?」


 そんな重要な資料を公民館の管理室に置いて置くなんて……いや、ジジィが負傷したからばっ様が出して来たのかな? 何にせよ、無視は出来ない。


「渡しとく」

「よろしくね。後、ケンゴ」


 中々に公民館に戻れないオレは渋々振り返る。


「……まだ何かあるの?」

「おかえり」


 順序がおかしいよな。と、思いつつも嬉しくなるのは仕方ない事だった。






 オレは管理室へ向かい、そこに置かれている『神島のヒ・ミ・ツ』と書かれた、いかにも胡散臭い資料を見つけた。その時、


「ケンゴ様?」

「アヤさん?」


 後から入ってきたアヤさんの姿に振り返る。

 彼女は何用だろうか? と、考えていると、某探偵アニメのCMに入る時の様に、管理室の扉が閉まり鍵がかけられた。

 オイ、コラ。

第二ラウンド

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