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第472話 オフタイム

「ユウヒ、コエ。そろそろ眠りや」


 時間も22時を回り、皆でトランプのババ抜きをやっていた所、双子さんが夢の世界へ舟を漕ぎ始めた。

 それを見たばっ様の言葉でお開きになった。


「うん……コエ。行こ」

「そうだね……」


 二人とも今日は怖い思いをした事もあって、オレらで出来るだけ遊んで上げたのだ。

 二人のカードは場に広げられて、ペアを持ってる人が手札を減らす。

 すると、七海課長も手札を置いた。


「俺も寝るわ。もう、今日はやること無さそうだしよ」


 七海課長に疲れた様子は無い。きっと二人を気遣って一緒に横になるのだろう。


「ケイさん……俺も共に在りたい所ですが」

「女部屋に髪の毛1本でも入って来てみろ。両手両足を二ヶ月は失う事になるからな」


 絶対領域へ入る代償は四肢の骨であると宣言して、お前ら寝る前に歯を磨くぞ、と二人を脱衣所の洗面前へ促す。

 オレはその背中に、お疲れ様です、と声をかけると、七海課長は軽く手を上げて去って行った。


「今日は上がった順に寝るかのぅ」

「じゃあ、上がりよ」


 三人のフリーになったカードで手札が終わったヨミ婆が席を立つ。


「明日は熊を大量に解体するんでしょ? 楽しみね」


 珍しく、うふふふ、と笑いながら廊下の闇へ消えるヨミ婆。ちょっと背筋がゾクッてした……


「アイツのここに来た楽しみって、アレだけだしな」


 久岐さんから一枚引いたゲンじぃは、上がりらしい。ペアを捨てて席を立つ。


「ロクと交代について話して来るわ」


 熊吉を倒したとは言え、他の熊はまだ居る。警戒の為の備えは重要だ。その話しにゲンじぃは向かった。


「おっと。私も上がりだ」


 久岐さんは、ばっ様から一枚引いて、ペアを捨て、残った一枚を天月さんに引かれる形で上がりとなる。


 しかし、久岐さんは席を立たずにアヤさんの上がりを待つ。彼女と蓮斗は付き添いの為に来ているのだから、当然の動きか。蓮斗のヤツは既に寝てるけど……


「ハジメさん。お先に就寝なさって大丈夫ですよ」

「しかし……」

「大丈夫です」


 アヤさんの女神笑顔に久岐さんは申し訳なさそうに暫く考えていたが、これ以上気遣わせるのは逆に悪いと思ったのか席を立つ。


「何かあったら気兼ねなく起こしてください」

「頼りにさせていただきます」


 残った面子に挨拶をして、久岐さんは場を後にした。


 マスクを着けた久岐さんの事は、名刺を貰って一通り挨拶を得ている。

 『何でも屋“荒谷”』。少々胡散臭いが、前に蓮斗が国尾さんに渡した名刺と同じフォトンが使われて居たので間違いなく存在する会社なのだろう。


 名刺には弁護士の資格の他に会社を運営する為に必要な資格も多数持っており、語学も英語とフランス語を修めているハイスペック女史だ。

 ウチの4課に入っても十分にやっていける能力を持つ。


 『何でも屋“荒谷”』は小さな便利屋らしく、従業員は蓮斗と彼女を含めて五人。蓮斗と、ショウコさんの時に居た三人の部下が実働人員らしい。

 何か、社員の質が極端すぎない?


「蓮斗さんと、ハジメさんは幼馴染みだそうです」

「へー」


 自己紹介だけでは知りえない情報をアヤさんは把握しているご様子。

 蓮斗の超人体質と久岐さんの能力を上手く使えば別方面で大成しそうなモノなのだが、なぜ小さな会社に留まっているのだろうか。


「超人体質だっけ? 蓮斗君は」

「その様に聞いております」


 天月さんはオレから一枚とってペアになったらしい。手札を全て捨てる。


「身体能力だけなら人類でも比肩する人は早々にいないのは確かだね。けど、競技関係ではステータスに制限があるし、彼自身も色々と苦労してそうだからねぇ」


 何かを隠すのはワケ有りさ、と天月さんは立ち上がる。

 オレは久岐さんに名刺を渡された時に彼女のマスクが気になった。

 その視線に気づいた久岐さんは、傷があって見苦しいものですから、とマナーの悪いことを理解している様で常套句のように謝ってきた。


「ケンちゃんや。悪いトコ出とるで」

「……へーい」


 何故、蓮斗が小さな会社に留まっているのかとか、久岐さんが口の傷を整形しないのとか……オレに何か出来る事は無いかと考え始めた所で、ばっ様に言われて止めた。

 誰かの悩みばかり追っかけてる場合じゃない。オレ自身も解決していない事は山程あると言うのに……


 まずは……リンカに連絡取らないとなぁ。


 オレはアヤさんから一枚取る。すると、ジョーカーだった。


「勝負ですので」


 強かなアヤさんは手を抜く様子は無いらしい。よーし、その気ならモブの維持を見せてやらぁ!






「はい、ケンちゃんビリや」

「くそぅ」


 その後、ばっ様とサドンデスになって散々おちょくられた挙げ句にあっさり負けた。

 やっぱり、ばっ様と向かい合うゲームは駄目だな。絶対に勝てねぇ。

 アヤさんはオレらの勝負の見届け人として微笑んでいる。


「どれ。ワシもじっ様の隣で寝るとするかのぅ」


 幸せでゴメンネー♪ と言いたげに、ばっ様は片付けを任せて立ち上がる。

 相変わらず楽しそうな様子にジジィも退屈はしてないんだろうなー、と6年前から変わらない様子を察せた。


 ちなみにジジィは現在、保健室のような治療部屋に押し込まれている。ここは体裁上は公民館であるが、診療施設としての機能も最低限備わっているのだ。

 


「ケンちゃんや。さっきロクが話があるって呼んでたで」

「え? ロクじぃが?」


 食事時に見たきりで席を外していたロクじぃ。たぶん外を警戒してくれているんだろうけど……

 なんだろ? 熊吉との戦いの状況でも聞きたいのかな?


「6年ぶりじゃし、少しは落ち着いて会話をしたいんじゃろ。明日もアイツはじっ様の代わりに動く事になるからのぅ」


 そうなると、まだドタバタしちゃうか。


「ケンゴ様。片付けは私が」

「じゃあ甘えちゃおうかな。ありがと」

「いえ」


 飛び出した時は里の人には殆んど挨拶しなかったからなぁ。オレは外に向かった。






「アヤ、ちとええか?」

「なんでしょう?」


 トランプを片付けて横の棚に置いたアヤはトキに言われて向き直る。


「ちょっと重要な話がある。『神島』の今後に関わる重要な話しじゃ。準備するで10分後に管理室に来てくれや」

「わかりました」

ばっ様に心理戦で勝てるヤツはいない。

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