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第465話 108回フルスイング

「あぁ~疲れたぁ……」


 暁才蔵の件で各所に連絡を飛ばしたオレと七海課長とゲンじぃは、やっと今日という一日に一息つけた形になった。

 今は風呂の順番待ち。公民館の大部屋でだらだらしている。


「やぁ、鳳君」

「天月さん」


 相変わらずリンカからの返信が無い事を確認していると、ハイスペック人類の天月さんに声をかけられる。


「聞きたい事があるんだけど良いかな?」

「なんです?」

「ケイさんがお尻を触られたと聞てね。例の忍者に」

「……誰から聞いたんです?」

「ケイさんが怒りのままにそう発言したんだ。次に捕まえたら釘バットで、忍者の尻を108回フルスイングするってさ」


 わぉ。煩悩が消える前にお尻が消えちゃう刑罰だぜ。才蔵の今までの罪は消えないが、今回の件で少なからず助けられたのは事実。

 後ろから排泄物を出せなくなると可哀想なので、もしオレが捕まえたら引き渡すのはお尻警察にしておこう。そっちも地獄だが。


「まぁ……事実ですよ。オレも当時現場に居ましたし」


 正直、あの時の事は思い出したくない。だってあの時の七海課長……本当に怖かったんだもん。


「許されない行為だね。もし、ヤツを捕まえる事になったら必ず俺を呼んでくれ」

「人手が必要になったら候補に上げておきます」


 本社の人間がバカ強すぎて外からの援護は必要ないのだが、こう言っておかないと天月さんは納得しないだろう。


「けど、その件はすぐに片付くと思いますけどね」


 轟先輩はしばらく社長と衣食住を共にする事になった。プライベートでも結構距離の近い二人だし、オレとショウコさんみたいなドタバタにはならないだろう。


「この世にケイさんを脅かすモノは必要無い。もし、忍者以外にも心当たりが出てきたら是非連絡を頼むよ」

「わかりました」

「風呂空いたぞ。どっちか行け」

「俺行きます」


 生粋の愛戦士である天月さんは、ゲンじぃの言葉で風呂へ向かった。彼が出たらオレも入ろっと。






「…………」


 女性陣は男性陣の入浴が終わるまで各々で待機していた。時間的にもまだ夜になったばかりと言う事もあり、眠るにはまだ早い。

 そんな中、アヤは公民館の正面広場で日課の瞑想を行っていた。


 一日を振り返る。今日は多くの事が起こり、多くを見直す必要がある。

 この身を常に望まれる形として成す為には同じ間違いをしてはならない。なのだが――


「…………」


 彼の事が脳裏から離れない。一日を振り替えれば振り返る程、彼の事ばかり湧いてくる。それ自体は良い。しかし、他の見直しも割り込まないのは困る。


 一度目を開けて膝に置いた手を見る。銃を構えたあの時、彼が手を添えてくれたから震えが止まったのだ。

 優しくて、大きくて、安心できる力強さは全てを委ねても良いと思った。

 けれど……私がそんな幸せを願うのは……


“お母さんがとっとくから、お父さんを呼んでらっしゃい”


「……決して許される事じゃないのに……」

「恋しとるな」

「! トキお婆様!?」


 気配もなく唐突に背後から声をかけられて、アヤは正座したまま身体半分ほど跳ねる。トキは、ほっほっほ、と笑っていた。

 アヤは一回、大きくて息を吐いてから立ち上がる。


「譲治お爺様はご無事ですか?」

「そりゃもう爆睡しとる。耳元でジョーの恥ずかしい過去を囁いて、うなされてるのを確認したでな。今頃はワンダーランド並みにカオスな夢を見とるじゃろ」


 眠っていてもからかうのを忘れないトキは楽しそうに笑う。


「お二方のご関係はとても理想的です」

「まぁ、状況が状況じゃからな。ワシらは互いに唯一無二じゃった。ジョーは『処刑人』で『神島』の当主で、家族を護るために国に『楔』を打ち込んだ」

「……御父様より聞いております。時代の流れと共に『神島』を排斥する動きがあったと」


 近代化が進むにつれて『神島』の存在は不要なモノとなっていった。

 古来より継がれる『処刑人』。それは古くから日本を裏から護り、同時に滅ぼす事も可能だった。

 全ての漏洩を危惧した当時の日本政府は『神島』の排除を画策。関係者全員が、“不幸な事故”として執行される寸前に当時の総理の元に神島譲治が現れた。


 彼は日本に三つの『楔』を打ち込んだ。もし、自分達の身内が誰か一人でも不可解な死を遂げたら『楔』を全て解放し、日本を終わらせると。


「まぁ、『政府』と『神島』は一つの組織では無かったからのぅ。雇用主と派遣社員みたいなもんじゃ。じゃから、国はいつでもワシらを切り捨てられると思ったみたいじゃが、甘々じゃったな」


 『楔』を三つにしたのは『政府』が更なる強行手段を取らない為だ。ジョージは生きている内に国へ三回の要請を行うと宣言し、その都度『楔』を引き渡すと告げた。


「三つの『楔』の内、一つはもう使った」


 アヤは何に使われたのか詳しくは知らない。父である圭介も、家族の為だった、としか教えてくれなかった。


「物騒な話しじゃがな。今は昔ほど『神島』の立場は危うくない。ワシらの暴露にビビり散らかす奴らは大半が逃げるように任期を伸ばさずに国会から去ったし、今はミコトにタツヤも次代を見極めておるで。ジョーの判断は大成功じゃったな」


 『楔』は『神島』を普通の田舎にするまでの時間稼ぎ。もし、使わなくとも譲治と鴇が墓場へ持っていくつもりだった。


「じゃからな、アヤ。お前さん達、若い世代が老人の真似をせんでええ。ワシらの問題はワシらが持っていく」

「とても畏れ多い事でした」


 『楔』を打ち込んだのは正しい事では無かったのかもしれない。だが、国を敵に回してでも家族を護ろうとしたジョージの行動にアヤは改めて思う。


「私はお二方の身内で在る事を心から誇りに思います。私達を護ってくれて……本当にありがとうございました」


 自分が父と母の元に産まれて、ここに居る事が出来たのは家族を思って行動した先人達のおかげなのだと、アヤは改めて理解し、トキへ深く感謝する。


「……参ったのぅ。ジョーとケンちゃん以外に泣かされる日が来るとは」


 感極まってトキは緩んだ涙腺を隠すように目頭を押さえる。


「よし、アヤよ。お前さんに一つ任務を与えよう」

「! お任せください!」


 『神島』のNo.2、直々の任務。アヤは穏やかな雰囲気を即座に切り替える。


「今日、一番の功労者。誰かわかるか?」

「私とトキお婆様との考えに相違がなければ、ケンゴ様だと思われます」

「うむ。アヤよ、そろそろケンちゃんは風呂に入る」

「はい」

「その背中を流してやってくれや」

「はい! ……はい?」


 返事をしてしまった。

釘バットじゃなくても尻は死ぬ

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