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第464話 急いで公民館に戻るよ!

 虫の鳴く夜道は昔ながらの里を思い出させるモノだった。

 外灯のない田舎道。本来なら懐中電灯でもあれば良いのだが、夜目に慣れた今は月明かりだけで十分だろう。


「あ、あの……ケンゴ様。そろそろ自分で歩けます……」


 オレは熊吉にトドメを刺した猟銃でアヤさんのお尻を支えつつ、彼女を背負って帰路についていた。


「もう少しで公民館だから。このまま送るよ」


 アヤさんは疲労から熊吉討伐直後は起き上がれなかった。なので、オレが背負ってあげてるのだ。

 最後の一発は熊吉の頭部を綺麗に抜いた。正直言って、結構まぐれに近い当たり方だっただろう。

 熊吉は三足で頭の角度が正常ではなかったし、オレもジジィやロクじぃみたいに腕の立つ銃士(ガンナー)じゃない。

 しかも添え撃ちで頭蓋骨に弾かれず、綺麗に貫通したのは熊吉の運命だったとも思える。


「…………ケンゴ様はいつもああなのですか?」

「ああって?」

「自ら……あの場に残った心意気です」

「アレね。熊吉にがっちりホールドされてたからさ。逃げられなかった」

「それならば……助けを求めてくださればよかったのでは?」

「んー、正直言うと、何とか出来たからね」


 するとアヤさんはオレを抱き締める様に身を寄せる。


「……そう言う事ではございません」


 消えるようなアヤさんの言葉は少し震えていた。

 まぁ……端から見たら二メートル半の巨熊に食い付きホールドされる場面は死の秒読みに見えただろう。

 煙幕で何とかなったとは言え――あ、そう言えばヤツはどこだ?


「御免!」


 その時、シュタッ! と片膝に頭を垂れた変態忍者こと、暁才蔵が目の前に現れる。


「この暁才蔵。婿殿を侮っておりました。あの悪熊を一人で押さえ込み、姫と共に討伐せしお姿……実に見事! もやは、姫の側に才蔵は必要ありませぬ!」


 コイツ、何様気取りだよ。


「姫。可能であれば、全てが終わるまで仕える事をお約束いたしとう御座いますが……その役目は婿殿こそが相応しい。今宵にて某は在るべき場所へ戻ろうと思います」


 おー、そうか。さっさと牢獄へ戻れ。七海課長がお前を見つけたらホントに面倒な事になるからよ。


「才蔵も、ありがとうございます。貴方のおかげで多くの方が救われました。その力は正しき事に」

「勿体なきお言葉。必ずや甘奈姫を御守り致しましょう」


 ん? コイツ、今何て言った?


「それでは御免!!」

「あ、おい! ちょっと待――」


 才蔵は身体を起こすと忍者走りでシュタターと結構な速度で走って行った。


「面白い方でしたね、ケンゴ様――キャッ!」

「アヤさん! 急いで公民館に戻るよ!」


 唐突に走り出したオレにアヤさんは驚いてしがみつく。やべぇぞ! 犯罪者が野放しだ! 急いで轟先輩に連絡して防御陣を敷かなくては! お尻ハンターに出動要請をかけなきゃ!






「ユウヒ、コエ。風呂に入れよ」

「もうちょっと待つ」

「ワタシも」


 公民館に戻った二人はゲンとロクが向かった、ケンゴとアヤの帰りを待っていた。

 その様子を七海も外に出て共に見守る。

 

「痛てて。ハジメ、それめっちゃしみるぜ」

「怪我をした者の宿命だ」

「蓮斗。一応、抗生物質を打つわ。熊の爪は雑菌だらけだからね」


 ヨミとハジメに腕の手当てを受けている蓮斗。目立った怪我は彼だけだが、急いでゲンとロクが二人を助けに戻った様子からまだ、帰らない二人は危険な様子であると面々は悟る。

 三犬豪もゲンに声をかけられてケンゴとアヤを助けに向かった。

 すると、程なくして――


「あ!」


 ケンゴたちが帰ってきた。ゲン達がすぐに引き返して来た所を見ると、全部終わらせて途中まで歩いてきたのだろう。しかし、


「なんで、全員走ってんだ?」


 まるでリレー競争のように全員が全力疾走だ。疑問を浮かべる七海へケンゴの声が届く。


「七海課長! すぐ……すぐに社長に連絡してくださぁい!! あの忍者が……轟先輩に迫ってます!!」


 その言葉に七海は聞き返す。


「はぁ!? どういう事だ!? 何でクソ忍者がこんな所に居やがる!」

「七海ぃ! 詳しい事は後だ! 俺は弥生に連絡する! トキ! お前は警察に連絡しろ!」


 ゲンも事態の緊急性に迅速な対応が必要であると叫んだ。


「警察はあまり意味ないぞ。ヤツを捕らえるには特殊対策チームが必要じゃからな」

「無駄に面倒なんだよな! あの変態忍者!」


 そんな大人達の様子にユウヒとコエは、あはは、と笑った。






「…………」


 背負われると言うのは何年ぶりでしょうか。私は彼に背負われて、御父様に背負われた時と同じ安心感を覚えています。

 皆が幸せになる為に彼がどんな殿方でも一心に仕えるつもりだった。でも……


「本気で……貴方と共に在りたいと思います」


 必死に走る彼には聞こえないだろう。今はそれで良い。だって……私たちの時間はこれから始まるのだから。

ニンジャスレイ失敗

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