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第459話 朴念仁×朴念仁

「ハジメ! 待ってくれ!」

「く……くそっ!」


 ユウヒ考案の3本勝負の2本目に負けた蓮斗は、更なる力の源を求めて即座にハジメに詰め寄った。

 対してハジメは逃亡。恥ずかしさから本気でダッシュしたものの、蓮斗は難なく追い付いて来る。


「ハァ……ハァ……」


 恐るべき超人体質。

 ハジメの仕事はデスクワークが主体ではあるが、現場に出る事もあって普段からランニングしたりして身体を動かしている。

 人並み以上に体力はある方だと思っていたが、改めて蓮斗とは基礎能力が違うと思い知らされた。


「ゼェ……ゼェ……ハァ……ハァ……」


 ハジメは逃げるのを諦めた。その場で止まると膝に手を置いて肩で息をする。流石に息苦しいのでマスクをずらして気道を確保する。


「ハジメよ。何で逃げるんだ?」

「社長は……自分が何を言ってるのか解って無いだろ……」


 まだ息は整わないが、何とか会話はかわせる。


「……すまん!」


 すると、蓮斗は頭を下げて謝った。


「俺は……自分の事ばかりでお前の事を考えて無かった。そんなに嫌がるなんて……俺は最低なヤロウだ!」

「あ、いや……ちょっと私も驚いたと言うか……」


 ハジメは思いっきり走った事もあって少し頭の中が整理出来た。

 よくよく考えて見れば、社長の愛だと何だのって恋愛的な意味合いは全く含まれていないだろう。

 自分達は本当の親から、そう事は与えられずに今まで生きてきたのだから。


「社長の言う愛と言うヤツがどういうモノなのか、私には解りかねる。解らないモノを教える事は出来ないが、具体的な事をそっちは理解してるのか?」

「…………よくわかんねぇ」

「やれやれ」


 一つ歳上の幼馴染みは、いつも直感で行動する。今回もその類だろう。ハジメは、うーむ、と悩む蓮斗に助言をする事にした。


「愛と言っても色んな形があるだろう? 『自己愛』『家族愛』『恋愛』。社長の求める“愛”はどれに当てはまるんだ?」

「そうだなぁ……」

「ちなみに、私は『家族愛』だな」


 自分達が育った孤児院『空の園』では、血の繋がりが無くとも皆が家族だった。


「自分の行動原理の源を考えて見れば良い。何かを決断する時に真っ先に何が思い浮かぶかをな」


 蓮斗はもやもやと、さほど多くない“大切なモノ”が頭の中に浮かんでいく。

 『空の園の皆』、『烏間のばっちゃん』、『何でも屋“荒谷”』、『部下三人』、そして――


「ハジメ。やっぱり俺様も『家族愛』みたいだぜ!」

「ま、そんな所だと思ったよ」


 彼は昔から変わらない。単純で騙されやすい所はあるが、無理を押し通して、多くの人の心を変える。

 例え超人体質が無くとも『何でも屋“荒谷”』の社長になっていただろう。


「俺様は真っ先にお前の事が浮かんじまった!」

「まぁ、そっちが5歳で私が4歳の頃からの腐れ縁だからな。実の家族や園の誰よりも永く居たと思えば当然だろう」

「て事は、俺様たちは“家族”って事だな!」

「別に口に出さなくても今さらだろ? どうでも良いヤツの事なんか弁護したりはしない」

「うっ……」


 蓮斗はいつもトラブルを起こした時に火消しとなるハジメに頭が上がらない事を思い出し、詰まった言葉が出た。


「ふっ。私から教えられる愛とやらはそんなモノだな。参考になったか?」

「おう。いつもありがとよ!」


 歯を見せて笑う蓮斗は、うおー! と更なる力を感じて月に向かって吠えると両手を突き上げる。

 そんな蓮斗の様を見ていたハジメは、ふと疑問が浮かぶ。


 彼に感じてる“愛”が『家族愛』ならば、何故私は全力で逃げたんだろうか?

 あの時は物凄い恥ずかしさを感じて逃げる以外の選択肢が浮かばなかった。その場で、こう言う話をすれば良かったハズなのに……


「『家族愛』か……確かに、コイツは俺様にぴったりの“愛”だぜ!」


 ま、彼が納得してるなら今は良いか。

 ハジメは、戻るぞ、と蓮斗に告げて公民館へ引き返した。


 朴念仁×朴念仁が拗らせると関係は中々進展しないのである。






「悪いな熊公。俺様は今、最強だぜ?」

「グァァア!!」


 熊の突進を蓮斗は正面から受け止めた。

 食らいかかる牙を避ける様に小脇に抱えると僅かに下がっただけでその場に留まる。


 動かない……今までどんな獲物でも止められなかったこの体躯が……


「どうした? 予想外か?」


 蓮斗は止まった熊を上から覆い被さる様に掴むと、力のままに持ち上げた。

 抱えられる事など、熊にとっては初めての経験である。


「ぐぬぬぬ……おおりゃあ!」


 そして、そのまま横にぶん投げられた。

 単純に持ち上げて投げられた。ソレは熊にとっては決して無視できない事柄だった。

 本能で体格を武器の一つとしてきた熊にとって、蓮斗の膂力はまさに規格外。

 大半の獲物が逃げるか、避ける事しか出来ない自分を目の前のヤツは持ち上げて投げたのだ。

 地に足がついていれば不自由など無かった熊にとって、いつでも持ち上げられる蓮斗はこれまでに居なかった異物として映る。


「なんだ? 熊のクセにビビってんのか? それも仕方ねぇな! この俺、愛を知る男! 荒谷蓮斗を前に敵は存在しねぇのさ!」


 熊は咄嗟に判断し、立ち上がった。二メートルの体躯が蓮斗と拮抗する。

 背中から抱えられたら抵抗出来ない。ならば……正面から捻り潰す。

愛は人を変える(物理)

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