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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
4章 盆休みケンゴ編 灼熱の中で輝く

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第45話 シズカの冒険

 自分の秘密を他人に話すには勇気がいる。


 それを口にする事により、周囲との関係がガラリと変わる可能性があるとしても、言わなければならないと彼女は察したのだ。


「……」

「シズカ。来とったんか」


 納屋の猟銃の管理を終えた老人は孫娘が母屋の縁側で寝そべってるのを見つけた。


祖父様(じっさま)……」

「宿題は進んどるんか? 休みも半分過ぎたじゃろ」

「日記以外は終わっとる」

「そうか。スイカ食うか?」

「食べる」


 老人は原泉垂れ流しの裏手で冷やしているスイカを取ってくると、四つに切って縁側に持ってくる。


「全部やる」

「じゃあ、じっさまに半分やるわ」


 シズカは身体を起こすと、スイカをもふもふと食べ始めた。

 老人もその隣に座って、目に見える種を指で取ってから食べ始める。


「竜二と喧嘩でもしたんか?」

「喧嘩したんは兄貴ちゃう」

「楓か?」

「……」


 どうやら母親と揉めたらしい。

 老人からすれば、シズカはとても優しくて村でも年下には人気のお姉さんだ。家族とも仲は良かったハズ。


「じっさま」

「どした?」

「じっさまは……秘密を話して否定されたらどうする?」

「なんか抱えとるんか?」

「……今日、見合いの話し出されたわ」

「相手は?」

「良くわからん。偉い人の息子やて。二十歳」

「お前、まだ14やろ?」

「んだ」

「アホか」


 老人は気が早すぎる息子夫婦に目くじらを立てる。

 確かにシズカは身内でも群を抜いての美形だ。都会に放り出せば、間違いなく数多の者達が声をかけるだろう。

 実際に、田舎を撮るドキュメンタリー番組でシズカが全国放送された時は、連絡や手紙が暫く止まなかった。


「でも、喧嘩の原因はそれじゃない」


 それ以上の原因があるらしい。


「言え」

「……」

「笑わんし、否定もせん。俺を並みだと思うなや」


 スイカをしゃくる老人は、噛んだ中に種を見つけ、ぶっ、と吐き出す。

 その言葉に安心したシズカは己の人生を左右する程の秘密を老人に話した。

 話し終えて気落ちした様子で、


「……気持ち悪いじゃろ?」

「阿呆。んなわけあるか」

「……でも、(かか)は困惑しとったわ」

「他に知っとるヤツは居るんか?」

「母が広めんかったら……後はゴ兄だけ」


 と、老人は立ち上がると五万円と一枚のハガキを持ってくる。


「じっさま、これは?」

「楓とは暫く時間を置いて、盆はあのマヌケの所に行っとけ」

「……ええんやろか」

「今回の件は互いに考える時間がいる。楓はお前の親だ。必ず理解してくれるわ」

「……じっさま。あんがと」

「じゃが……着替えは……どうすっか」

「家出のつもりで色々と持ち出して来たから大丈夫じゃ」


 そう言ってシズカは居間に置いてある大き目の肩掛けバックを見る。


「でも、急に行ってゴ兄は困らんやろか?」

「アレの都合は知らん。なんかあれば連絡せぇ。迎えに行く」


 何から何まで背中を押してくれる祖父にシズカは心からお礼を言うと、ハガキの住所――ケンゴのアパートの場所を見た。






 村から電停までは歩けば二時間、自転車で一時間。

 四時間に一本の電車を待つ間、顔見知りの年老いた車掌さんに目的地までの道のりを聞いて、乗り継ぐ駅などをメモに取る。


 スマホは持っているが、使える機能は通話のみ。

 涼しい待合室で車掌さんと談話に盛り上がっていると、いつの間にか来ていた電車に慌てて乗り込んだ。

 車掌さんは、ケン坊によろしくな~、と手を振って見送ってくれた。


 帽子に半袖Tシャツにズボンと言う姿でも空いた席を吟味する中で何度か視線を感じた。


 田舎を初めて離れる不安はあるが、それ以上に秘密を話した家族と顔を合わせる方が怖かった。

 祖父はソレを察して一旦、家族から離れろと提案したのだろう。


「やっぱ、じっさまはカッコェェわ」


 祖父の事は昔は怖かったが、ケンゴを通して、不器用なだけだと知れて段々憧れになって行ったのだ。


「ゴ兄は……変わってないじゃろか」


 最初に秘密を打ち明けた従兄が村を出てから六年。あれから一度も会ってないし、会話もしたことがない。海外にも行っていたらしいし、昔と変わってしまっていたら、と少し不安になる。


“気にすんな、シズカ。オレの過去も教えてやっから、それでお互いに秘密を盾にし合おうぜ。ただしオレが喋ったって、じっさまには言うなよ? 口封じに埋められる”


「……ふふ」


 何かと優しかった従兄との会話を思いだし、シズカは笑った。






 電車の乗り継ぎも、ぎこちない都会言葉で確認して何とか目的の駅に降りる事が出来た。


「ふわー、すごかの~」


 村を出発したのが昼頃だった事もあり、目的の駅に着くと、夕刻の模様へと変わっている。

 煌びやかなイルミネーションに、硝子張りの店観。絶えず行き来する人達。その大半が村では見ないようなおしゃれをして歩いている。

 駅員さんに駅から近い交番を教えて貰い、そこでハガキの住所まで聞こうと行動を開始する。


「……うーん。やっぱり、田舎丸出しかぁ」


 道行く人たちはシズカを一瞥しては、すれ違って行く。

 当人は帽子、Tシャツ、ズボンだと他に比べて色褪せるか……と思っていた。

 事実は、同性までもが一度は振り向く程にシズカが美麗な容姿をしていたからだった。


「ん?」


 駅の売店で一つのファッション雑誌に目が止まった。

 少し足を止めてソレを手に取る。可愛い女の子が表紙を飾っており、特別号と強調されている。


「可愛ぇぇな……」


 じっさまから、好きに使え、と五万円の軍資金を貰っており、電車賃で二千円ほど減ったが、まだ余裕がある。

 中身が気になったのでその雑誌を購入した。店の人からは、運が良いね。それ最後の一冊だよ、と教えてもらった。


「よいしょ」


 駅の入口付近にて少しだけ座って休憩する。

 すると、道行く人達は相変わらず自分を一瞥していく。

 うーん。そんなに田舎感がにじみ出てるかのう……


「やぁ、君。どうしたの? 誰かと待ち合わせ?」


 と、ガタイの良いスーツ姿の一人の男がシズカへ話しかけてきた。サイズが合ってないのか、スーツがパツパツであり、肩が少しだけ裂けている。


「えっと……休憩中です」

「ほっほう! 夏休みを利用しての冒険か? いいね! しかしこんな時間に幼い女の子一人で出歩くのはNGだぜぇ」


 男はゴソゴソと内ポケットから一つの名刺を差し出した。シズカは流れで素直に受けとる。


「国尾……さん。弁護士?」

「Yes なんかあったら連絡しな。こんな時間に女の子一人は危ないぜ!」

「は、はい!」

「ちなみに、ナンパでもないぜ!」


 そうそう、番号をね。登録してね。と国尾に言われてぎこちなくシズカは電話帳を弄る。

 携帯には家族以外に国尾の名前が加わった。


「気になるなら消しても良いからね」


 じゃ、と国尾は去って行った。


「ほえー。都会では知らん人と番号交換するんだなぁ」


 ちなみにそんなことはありません。

普通に良い人な国尾

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