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第424話 ぶっぶ~

「ただいまー」

「お帰り~リンちゃん~」


 アパートに帰ると母が夕飯を作っていた。母は本日は休み。どうやら家でゴロゴロ昼寝でもしていたらしく、ピョンと寝癖が跳ねている。居間では猫のジャックが丸まって眠っていた。


「ジャック来てたんだ」

「外を適度に散歩してたら出掛ける赤羽さんに頼まれてね~。夕飯をお願いされたの~」


 とは言っても既に猫缶とフードを平らげてる様だ。幸せそうな寝顔をしていたので、撫でてあげるとゴロゴロと喉を鳴らす。


「ねぇお母さん」

「なに~?」


 あたしは、自分のアルバムを作る手間の無いほどに働いてくれてる母へ、コスプレのカタログを――


「え、あ! しまった……」


 カタログを見せようとしたのだが、お婆さんに返してしまった事を思い出した。

 破棄する様にお願いもしたので、もう手遅れだろう。サイトの方も確認するが、既にショウコさんとカレンさんに差し替わっている。


「しまったなぁ……」


 削除をお願いした手前、前の写真はありますか? なんて聞けないし頼めない。


「あらあら~。それってカレンちゃんとショウコちゃん~? 可愛い~」


 肩口からスマホを覗き込む母はバニーや浴衣のコスプレをした二人の画像を楽しそうに微笑む。


「リンちゃんの今日の用事って~カレンちゃんの付き添いだったの~?」


 家を出る当初はバニーなんて撮られた恥ずかしさから母には適当に誤魔化して出てきたのだ。今となってはそれが悔やまれる。


「ふふふ~。カレンちゃん、楽しそうね~。ショウコちゃんは相変わらず無表情~」

「……お母さん。実はね、あたしも前はここに写ってたんだ」


 普段とは違う様子のあたしを母に見てもらいたかった。


「知ってますよ~」

「……え?」

「忘れたの~? 誕生日の日に~ブレスレットと一緒に入ってたじゃない~」

「あ……」


 そう言えばそうだった……消したい事だったから、完全に無かったモノとして記憶から消去していた。


「ふふ」


 と、母は優しくあたしを後ろから抱きしめる。


「アルバムなんて無くてもいいのよ。リンちゃんがすぐ近くに居てくれるだけでお母さんは幸せだから」

「……あたしもだよ、お母さん」


 母の深い愛情を改めて感じたあたしは、母には隠し事は一切しないと誓った。そして、ふと昔の記憶がフラッシュする。


 それは、もう片方の手を握ってくれた父の存在だ。顔や口調などは全く覚えてないが、母と同じくらいの愛情を向けられたのを思い出した。


「お母さん」

「ん~。リンちゃんは~お日様の匂いがするわね~」

「お母さん……火着けてるんでしょ?」

「あらあら~」


 母はずっとスリスリしそうだったので料理の途中である事を教えて上げた。

 ホールドを解除した母は台所へ戻り、料理を再開する。


「お母さん」

「あらあら~お母さん3連呼でなにかしら~?」

「お父さんの事、教えてくれない?」


 と、その言葉に一瞬だけ母の動きが止まる。しかし、すぐに動き出した。


「リンちゃんは~お父さんはどんな人が良い~?」


 この返しは……まだ話す気は無いと言う母の意思表示だ。あたしが知るにはまだ早いと言う事らしい。


「お母さんの側にずっと居てくれる人」

「あら~♪」


 上機嫌に鍋をかき混ぜる母。良い返答であった様だ。

 そうだ……父が側に居なくて一番辛いのは母なのだ。父の事を殆んど覚えてないあたしと違って、母は心から父と愛し合ったのだから。

 好きな人と会うことが出来ない。その辛さはあたしが一番良く知っている。


「そうね~じゃあ~リンちゃん当ててみる~?」

「当てられるモノなの?」

「ヒント~多分、リンちゃんはもう会った事があります~」

「…………え?」


 それは完全に目から鱗だった。

 既に会っている? どういう事だ? 一体どのタイミングで……?


「それっていつ?」

「ふふふ。ヒントは一つだけよ~」

「うぬぬ……」


 思い付く成人男性は……そんなに多くはないが……会った事があると言われると更に絞れそうだ。

 その時、あたしの中に電流が走る! それなりに合致する人が思い浮かんだのだ。


「まさか……火防さん?」


 あたしは、彼と行った社員旅行で遭遇した火防さんの名前を上げる。

 彼は甘奈さんの父親であるものの、今は片親のようだった。年齢的にも合う……もし、そうなれば甘奈さんとあたしは姉妹――


「ぶっぶ~」


 不正解のブザーを口で再現する母。その様子はどことなく楽しそうだ。

 火防さんは違う……となれば!


「もしかして……阿見笠さん?」

「ふふ。リンちゃんにもその内にわかるわよ~」


 あ、このリアクションはハズレの口調だ。しかも、解答権はもう無いヤツ。


「♪~♪~」


 少しだけ、もやもやするけど仕方ない。

 鼻唄を歌い出した母の様子から、父とは仲を悪くして別れたワケでは無い様だし。

 その時になって、お前かい! とツッコム準備だけしておこう。


「夕飯はケンゴ君を誘う~?」


 その言葉に、あたしは確かめなければならない“使命”を思い出した。

 あたしが家を空けていた2日間の夜に起こった事を聞き出すと言う“使命”を――


「お母さん。ちょっと相談があるんだけど」

「なに~?」

アイツです

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