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第422話 お主に妹が居たらどうする?

「まぁ、今のところはこんなモンで良いじゃろ」


 その後『Mk-VII』を着たまま、シャドーボクシングしたり、ツイスターゲームしたり、ババ抜きをやったりと、色んな事をして、サマーちゃんは納得できるデータが取れた様だった。

 シャドーボクシングは上半身と下半身の連携性。ツイスターゲームは不馴れな体勢での関節域の動性。ババ抜きは指の事細かな動きの検証。

 各々、理に叶ってはいるものの、実際に人に見られながらやるのは恥ずかしかった。実験の猿の気持ちを痛い程に理解できたぜ。


「ご苦労じゃった、フェニックス。おかげで『Mk-VII』は無事にマザーの元へ返せそうじゃ」


 オレはテツに『Mk-VII』を脱ぐのを手伝ってもらいながらサマーちゃんにお礼を言われる。ショウコさんとビクトリアさんは夕飯の買い出しのために不在。野菜は沢山あるので肉類を調達しに行っていた。


「さっきの資料の件ってさ。マザーと話してたみたいだけど、見せてもらう事って出来る?」


 良いと言われていたが、念のために改めて聞く。


「う……うむ。その前にフェニックスよ」

「ん? なに?」


 ハキハキとした口調のサマーちゃんは珍しく口籠る。


「お主は舞鶴琴音の事は知っておるか?」

「舞鶴琴音? オレが産まれる前に活躍した歌手の?」

「うむ」

「調べたけど、凄かったっらしいね」

「凄かったと言うレベルではな、い!」

「くふふ。歌手史上、1000年に一人の奇跡とまで言われた歌姫ですよぉ」


 四十を越えるテツとレツは当事者でもある為に、オレの発言に食いついてきた。


「ラジオで流れれ、ば! 誰もが耳を立て、た!」

「くふふ。歌声の生演奏会場は王族の儀式会場や世界的なコンサートのトリを飾り、戦場でも兵士の為に歌っていたそうですよぉ。紅白も確実と言われていましたねぇ」

「へー」


 今でも音楽業界で時折名が上がる。オレも周囲が凄い凄いと言っていたので少し調べた事があった。

 しかし、二人がそこまで熱弁する程に凄い歌手だったのか。そう言えば、歌謡と民謡を好むジジィも唸る程の歌手だったらしい。ばっ様にも当時の感想を聞いてみようかな。


「しか、し! 惜しまれるの、は! その短命さだっ、た!」

「それも知ってるよ。食道癌だったんだろ? 20代で亡くなって、活動期間は五年もなかったって」

「くふふ。歴史的損失である事は間違いありませんでしたねぇ」


 『舞鶴琴音』は二枚目のCDをリリースしたのを最後に、自らが食道癌である事を世間に公表し闘病生活の為に表舞台から去った。

 押し掛けやファンの突撃を危惧し、闘病先は伏せられ、世界中の人間が彼女の復帰を待ち望んで居たらしい。

 しかしその半年後に『舞鶴琴音』は闘病の末に亡くなったと報じられた。


「当時は凄まじかっ、た!」

「くふふ……世界中が悲しみに包まれましたねぇ」


 彼女の歌声を聴いたことのある、王族、国のトップ、軍関係者、世界中のファンが葬儀に参列したいと申し出たらしいのだが、葬式は身内だけで静かに済ませたと、言われた為に墓参りだけに留まったとか。

 テツとレツも当時を思い出して涙ぐんでるじゃん。そこまで来るとその歌声に興味があるなぁ。


「二枚のCDは希少価値、は! 猛烈に高、い!」

「くふふ。前に一作品目のCDをグリーンウォッチの店で見かけましたが、非売品と言う事で譲って貰えませんでしたねぇ」

「な、に!? レツ、よ! それは本当、か!」

「くふふ。拙僧は嘘をつきませんよぉ」

「はいはい、この話しは今度でいいよ」


 『舞鶴琴音』のCDは音楽界隈で相当なプレミアらしい。


「ごめん、サマーちゃん。相当話が脱線したけど、『舞鶴琴音』がどうしたの?」


 熱の入った『舞鶴琴音』談議は40代二人に任せておいて、オレはサマーちゃんとの会話を再開する。


「お主は自身の両親から馴れ初めを聞いたか?」

「あー、オレさ。3歳の頃に両親を亡くしてるんだ」

「! そ、そうなのか!?」


 あら以外だ。サマーちゃんならそれくらいは調べて、知っとる、とか言いそうなのに。


「事故……でね。だから、父と母の馴れ初めを聞くなんて事を考える前に別れてる」

「……すまん。不謹慎じゃったな」

「ははは。別にいいよ。皆、そんな反応をするから逆に気を使わせてオレの方が悪い気がするからさ」

「そ、そうか……マザーめ。伏せておったな……」


 悪態をついて額を手を当てるサマーちゃん。どうやら資料の関係でマザーと話をしたらしい。


「だから、父と母がどんな恋愛をして一緒になったのかは詳しくは知らないんだ。仕事先で知り合ったってだけ聞いてるけど……今度親戚に聞いてみるよ」


 楓叔母さんなら色々と知ってそう。後、ばっ様も嬉々として語ってくれるだろうなぁ。


「もしかして、何か都合が悪い?」

「い、いや! そんな事はない!」


 今度は慌て出したなぁ。なんかサマーちゃん、変だぞ?


「フェニックスよ。仮に、仮にじゃぞ!」

「うん?」

「もしも、お主に妹が居たらどうする?」


 唐突にとんでもない事を言うなぁ。予測できない発言が飛んでくる所は変わってない。


「そりゃ、死ぬほど気にかけるよ。兄貴は下の妹弟を護るのが当たり前だからさ」

「ほ、本当か?」

「もちろん。どんな事をしても護るよ」


 それはリンカとの関係で答えが出ている。なので、迷いなくそう言いきれるのだ。


「そうか……そうか! うむうむ! お主はそう言う奴じゃったな!」


 バシバシと背中を叩いてくる。全然痛くないがサマーちゃんが嬉しそうなので良かった。


「今日はもう帰って良いぞ! 報酬のPS5に加えてVRゴーグルと好きなソフトを一つ買えるギフトも着けて手配しておく! 帰りに近くのコンビニで受け取るが良い!」

「え? ホント!? マジぃ!? ありがと!」


 1日に何度も殺されかけた苦労が報われた! 労働に似合う対価って本当に素晴らしいネ!


「じゃが、例の資料に関しては、すまんがまだ考えさせてくれるかのぅ?」

「いいよ。オレも無理に知りたいとは思わないからさ」

「後に受け取りのシリアルナンバーをLINEに送るわい」

「ひゃっほー。じゃあ帰るねー! ショウコさんとビクトリアさんによろしく!」


 二人に直接挨拶出来ないのは心苦しいが、今日ばかりは許容して欲しい。

 PS5がオレを待ってるんや!

サマーちゃん上機嫌

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