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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
3章 ザ・サマー

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第41話 悪夢よりタチの悪い呪い

 何が……? と思いつつもオレも男である。その言葉の意味が性的な方へ向くのは当然な事だろう。


「……えっと……」


 オレも熱で脳が壊れてるようだ。密着する彼女のふくよかな胸と匂いは性的な本能を刺激する。


 二人だけの空間。夕闇の室内。たまに通る車の音だけが部屋に響く。


“今日からお前は『(おおとり)』だ。その意味を忘れるな”


 己を律する祖父の言葉が脳裏に過り、性的な事で埋め尽くされそうになった脳内はすぐに憎たらしいジジィの顔で埋まった。


 魂にまで刻まれた呪いだ……悪夢よりタチが悪い……


「……」


 しかし、リンカは覚悟を決めているのか抱き締めたまま離れようとしない。

 まぁ、当たるモノは心地良いんだけど……どうやったら彼女が納得出来る形に収まるのか……無茶苦茶難易度の高い状況だ。


 オレはアレがイキリ立たない様に犬のバトル漫画を脳内で再生しつつ、神の一手を模索していると、別の神のが助けてくれた。リンカの携帯が鳴ったのである。


「……携帯鳴ってるよ」


 着信に驚いたように、びくっとなったリンカだったが、


「…………出なくていい」


 と、言って離れようとしない。

 むうぅ……“止まれ”の標識を自ら無視して行くとは……オレの脳内のジジィと犬のバトルも少しずつリンカの匂いに侵食されていく。

 すると、今度はオレの携帯が鳴り出した。


「……出ないと」

「……出るな」


 懇願するリンカの声に流されそうになるも、


「いや……仕事の電話かもしれないし……」

「……」


 すると、リンカは納得行かない様子だがようやくホールドを外してくれた。

 オレは這いながらコンセントの近くで充電しているスマホを取る。


「ひゃい、どうもー」


 すがるように出た為、相手を確認しなかった。オマケに噛んだ。


『あら、どうしたのケンゴ君。ごはんを食べてたのかしら?』


 相手はセナさんだった。電車を待っているのかホームの賑やかな音が聞こえる。


『リンちゃんはそっち? 携帯に出ないんだけど』

「ちょっと風邪を引きまして……リンカちゃんに助けて貰ってました」

『あら、ごめんなさいね。邪魔しちゃったかしら~』


 電話越しでも楽しんでいる様が聞こえる。


「いえ。色々と助かりました」

『うふふ。それなら、ケンゴ君も一緒にご飯食べる?』

「これ以上、気を遣ってもらうとぶり返しそうなので。またの機会に」

『そう。ならリンちゃんにも今日は引き上げるように言うわ』

「お願いします」

『身体は社会人にとって資本よ。気をつけなさい』

「はい」


 セナさんも休日出勤、ご苦労様です。


「代わります。リンカちゃん、セナさん――」


 スマホを渡そうと振り向くと、リンカは顔を(そむ)けて手だけをこちらに差出し、よこせ、と催促している。

 耳が真っ赤だ。少し間が置かれた事で理性が戻ったのだろう。

 オレは、はい、と手渡すと冷えた飲み物を取りに立ち上がる。


「よし、だいぶ行けそうだな」


 冷蔵庫から綾鷹をコップに注いで体内に取り込むと染み渡る。

 身体の調子は問題ない。後は消化に良い物を食べて、念のため風邪薬を飲んで寝れば、潜伏してる夏風邪ウイルスも完全に殲滅出来るだろう。バイバイキンだ。


「……」


 オレは丁寧に洗われた食器も見て、リンカの看病も大きな要素だったと悟る。

 すると話を終えたリンカは勉強道具を片付けて帰る準備をしていた。


「今日はありがとう、本当に助かったよ」

「……」

「それと……寝言の件は忘れてくれるとありがた――」


 勉強道具とスマホを持ったリンカは目を合わせずに、そそくさと、オレの橫を通りすぎるとサンダルを履く。


「えーっと、リンカちゃん?」

「……二度としない」

「ふぉ?」


 リンカは、まだ赤みがかった顔を横目にして睨みながら、


「お前の看病は二度としない!」


 そう言って、バタンッ、と勢い良く扉が閉められた。


「……さて、どうやって機嫌を取ろうかしら」


 次にリンカと話すときまでに、貢ぎ物を用意せねばなるまい。






 リンカは隣室に戻ると扉を閉め、そのまま寄りかかる。


「……」


 思い返し、今更ながら自分はとんでもない事をしていたと認識した。

 今まで部屋で二人きりなど幾らでもあった。しかし、今回に限っては昔と違う感情が強く現れたのだ。


「――――大きかったなぁ……やっぱり」


 いつも、自分を優しく包んでくれる彼の身体。それが弱ってるとは言え、少しでも支えてあげる事が出来たのはリンカとしてはとても嬉しい事だ。


「……まずは……キス。うん……キスからにしよう」


 段を飛ばしすぎると足を踏み外して大怪我をするかもしれない。


「……」


 同時に彼の寝言も気になった。

 悪夢は最も嫌な記憶が襲ってくると知っている。それを言葉に出してまで拒絶するなど、相当に思い出したくない出来事だったのだろう。


「いつか……話してくれるかな」


 その時は、彼にとって特別な存在になっているといいな、とリンカは思うと夕食の準備を始めた。






 後に、獅子堂課長から送られてきたルリちゃんの発表会の映像をセナさんを含めて一緒に見ることで顔を合わせる事が出来た。

 映像の中でルリちゃんに感激する獅子堂課長の声が一番デカかった。

ジジィロック

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