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第401話 アンタさ、何に怯えてんの?

 人は仮面を着ける。

 それが無意識なのか、はたまた自覚してなのかは分からないが、少なくともオレの“仮面”は――






 組手(ジョーゴ)は勢いを増す。

 回転による遠心力は十全な力を生み、鍛え抜かれた肉体より放たれる“蹴り”はガードごと吹き飛ばす。

 理性と本能。

 それをさらけ出すのがビクトリアの組手(ジョーゴ)だった。故に彼女が混ざる集団組手(ホーダ)では、誰しもが己を理解する為に彼女の前に立つ。


 真っ黒真っ黒。お前は全部、嘘だ。


 ケンゴの仮面。ビクトリアはそれを剥がしにかかっていた。

 蹴る度に、煙が散る様に彼の皮は剥がれて行く。無論、ケンゴもビクトリアへ反撃しようと動くが、それは彼女による誘導であった。

 カポエラの基本ステップである“ジンガ”は常に重心を動かし、相手の動きに合わせて“後の先”で反応する。

 ビクトリア程の熟練者となれば、師範(メストレ)クラスでない限り遅れを取る事はない。


 結果、下手に手を出せば倍返し。カウンターの蹴りは受けるよりもダメージがかさむ。

 組手(ジョーゴ)はビクトリアの一方的だが、彼女は苛立ちを更に募らせて歯噛みする。


「お前みたいな奴さ、無駄にプライドを守って、本当にムカつくよ」

『…………』


 ケンゴは己を出さない。今の自分が自分であると、そう言いたげにガードを固めている。


 稀に居るのだ。自分は対して強くないのに、虚勢を張り続ける下らないヤツが。そう言うヤツはさっさとぶちのめして集団組手(ホーダ)から追い出すのだが……コイツはまだ諦めてない。


「……サマー。まだ続けんの? 『Mk-VII』、本気で壊しちゃうよ?」

「ん? なんじゃ。カツの方から根を上げるとは珍しいのぅ」

「……そうじゃないって。あー、もう。わかった。知らないからね」


 コイツが死んでも――

 ビクトリアは敵意から闘志に切り替える。今までは感情のままに蹴っていただけ。だが、ここからは本気で敵を倒すモノへとなる。

 それは、師範(メストレ)でさえ手に余す程のビクトリアの本気である。


『ユニコ……(自分が……)』

「ん?」

『ユニニニコーン(何者なのかは解ってる)。ユニィ、ユニニニコーコーコーン(だからこそ、もう少しだけ足掻いて見ようと思ってる)』

「ごめん、何て言ってるか分からないわ」

『ユニコーン(デスヨネー)』


 ジンガから流れる様な蹴り。来ると解っていても避けられないのは、ビクトリアの技の繋ぎ目に殆んど間が無いからだ。


 ……またか。


 しかし、ビクトリアの怪訝は深まる。さっきから蹴りに手応えが無い。タイミングは間違い無いし、インパクトも完璧だ。いや……


「生意気に合わせてんの?」


 食らう瞬間に身体を流して威力を分散してる? こんなド素人丸出しな奴に、師範(メストレ)みたいな事が出来るワケない。


 なら……対応してみろよ――


 タイミングを変えた蹴りを放つ。

 その時、奴の真っ黒な顔の奥――その先にあるソレが見えた。






 ようやく剥がれたケンゴの本心。誰にも悟られず、隠して、生きてきた彼の心の奥にあるソレは――


“銃が恐いのか? ビクトリア。それなら別のモノを学んで、皆を護れば良い”


「――」


 ゴッ! と完全なインパクトを蹴りに感じ、それを受けたケンゴは事切れた様にダウンする。ビクトリアは更なる追撃でその頭を踏みしめた。


「ほんっとにくだらないし、死ぬほどダサくて情けないよ、お前」


 踏み締めは顔の横に外し、ビクトリアはケンゴへ告げる。


「でも、殺すのは無しにしておいてやるよ」

『…………』

「何も言えねぇか」

「くふふ。フェニックスは気を失っていますねぇ」

「…………」

「一人言は恥ずかしいのぅ、カツよ」

「……マザーに報告するわ」


 羞恥心で赤くなった顔を見せない様にサマーとレツに背を向ける。


「して、お主的には合格かのぅ?」

「合格とかそんなんじゃないよ。ただ……」


 完全に防ぐ手立てが無いと感じた事で本心が出たのだろう。


「同情しただけ」


 そう言うとビクトリアは手を軽く振って二階へ上がって行った。






「沢山作ったから沢山食べると良い」


 少し時間帯のズレたお昼ご飯は、ショウコさんのサラダだった。解ってた。無論、全て野菜。味付けは彼女の特性ドレッシングのみである。

 それをテーブルに座って各々で突くじる。


「ショウコよ……たまには肉を出してくれんか?」

「これで十分だろう?」

「それは、菜食主義(ベジタリアン)のお主だけじゃ! 野菜だけでは育つもんも育たん!」

「私は十分に育っているが?」

「この突然変異めが!」


 などと言う会話が聞こえて来るが、オレはさっきまで気を失っていたので、意識の正常化にまだ時間を要していた。あー、二日酔いみたいに頭ががんがんするぅ……


「ケンゴさん。大丈夫か?」

「あ、うん。大丈夫だよ」

「『Mk-VII』は車に激突されても装備者は無傷な様に設定されておるでな!」

「くふふ。それでも、中の人間をダウンまで持っていくのは流石はカツと言ったところですねぇ」

「おかげで頭部への異物落下による衝撃データも取れたわい」

「サマーちゃん。もしかして、それが狙いだった?」

「カツは基本的に頭を狙うからな!」


 ハンターじゃん……


「無理無理、アタシの蹴りを完璧にいなせるのは師範(メストレ)だけだよ」


 と、俺の正面の空いている席にビクトリアさんが座る。オレは彼女には苦手意識が生まれていて、愛想笑い。

 ビクトリアさんはオレなど居ないかのように、野菜を自分の取り皿によそうとパクリパクリ。


「うーん。やっぱり、ショウコの野菜は美味しいわ」

「ありがとう」


 オレ食べよう。すると、ビクトリアさんから向けられる視線に気がつく。


「……あの……何か?」

「アンタさ、何に怯えてんの?」


 その言葉にオレは思わず箸を落とした。


「ん? なんじゃ、フェニックスよ。カツにびびったのか?」

「くふふ。カツは容赦しませんからねぇ」

「ケンゴさん。大丈夫だ」


 すると、ショウコさんが側面から抱きついてくる。胸部のクッションで顔が幸せぇ……


「大丈夫になるまで、こうしておこう」

「うわぁい……」


 と、感情がどこへ向かえば良いのか解らずに居ると、明確な殺意だけはハッキリと解った。無論、正面に座るビクトリアさんからである。


「フェニックス。飯を食ったらぁ、またアタシとジョーゴしようぜ。今度は『Mk-VII』無しでさぁ」


 あ、やべ。今度こそ死ぬ。いや……殺されるぅ!


「いや、カツよ。フェニックスには次の指示がある」


 と、サマーちゃんの助け船にオレは光を見た。


「頼んでいたモノを取りに行って貰いたい。フェニックスよ、行けるな?」

「ああ! いいよ! 任せてよ! リーダー! 地球の裏側まで行っちゃうよぉ!」

「うむ。良い返事じゃ」

「チィィッ!!」


 生きてて初めてだよ。こんなにも感情のある舌打ちを人から向けられたのは。


「ショウコと一緒に行ってくれ。名義はショウコで頼んでおるからな」


 ならショウコさんに頼べば良いのでは? とは絶対に言わない。今はビクトリアさんから離れなければならぬ……


「ちなみにどこに行けば良いの?」

「『スイレンの雑貨店』と言う店じゃ」

ビクトリアはケンゴに対して今後もこんな感じです。

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