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第396話 やっぱ男ってクソだわ

 サマーちゃんの住む家兼、『ハロウィンズ』日本支部はユニコ君の商店街を抜けた先にある。

 オレは前を歩くビクトリアさんとショウコさんの後に続いて商店街を歩いていると、ユニコ君がいつも通りに風船を配りながら愛想を振り撒いていた。


「…………」


 なんかなぁ。色々なヤバいユニコ君を知ってるだけあって、ノーマルタイプもヤバい物に見えてしまう。腕にガトリング仕込んでいるとか、アホな妄想が頭を過る。


「ん? いや、私は風船はいい」


 と、ショウコさんがユニコ君に絡まれた。風船をスッて差し出されるも、荷物になるから困る、と遠慮している。


「確かにショウコは可愛いけど、あっちに子供もいるからそっちを優先しなよ」


 隣に立つビクトリアさんが言うと、ユニコ君は手を振っている子供の元へトコトコと歩いて行った。見る度に思うんだが、中に入ってる人って誰なんだろう。


「それなりに()れる人が入ってるよ」


 歩いていくユニコ君を眼で追うオレの様子から心情を察したのかビクトリアさんが言う。


「中には悪ふざけで向かってくるヤツもいるからね」

「酔っぱらいとかですか?」

「もっとタチが悪いのもね」

「ビクトリアは前にユニコ君に入ってた時、喧嘩を吹っ掛けて来た暴走族をボコボコにしたんだろ?」


 ビクトリアさんもユニコ君に入る事があるのか。


「北陸爆走なんちゃらの総長とか言うヤツね。気の良いヤツだったから友達になれるかと思ったけど、やっぱ男ってクソだわ」


 でも、ショウコは最高~♡ 抱き着かれると歩きづらいんだが、と二人は仲の良いご様子。オレはビクトリアさんの事が何となくわかってきた。

 男全般を否定しているワケではないらしい。


「そんでもってさぁ。アタシがマザーの所に行ってる間に……何か湧いてるし」


 ギロヌ、とオレに対しては敵意の眼。本当に……オレ何かしたっけ……泣きそう。


「ビクトリア。ケンゴさんを悪く言うのは止めてくれ。彼のおかげで私は救われたんだ」


 ショウコさん……


「それはマザーからも聞いてるよ。でもさ、人ってその人に抱く印象でフィルターがかかる、からね」


 からね、の部分が明らかにヤバい雰囲気を醸し出す。

 一体、オレは何をさせられるだろうか……

 どうやら今回の安全地帯はショウコさんの視界内の様だ。なるべくその範囲に居るようにしよう……






 『スイレンの雑貨店』はこの商店街が出来てから存在する今では最も老舗となる店である。幾度と改築をして、時代の雰囲気に合わせて変わる内装は、魔法の様に前の名残りを残さない。

 その店の主である、真鍋翠蓮(まなべすいれん)は御歳90を越える、老婆だった。


「イッヒッヒ。今月も悪くないねぇ」


 彼女はPCで先月との売り上げを比較し、右肩に上がる利益グラフを見て上機嫌だった。

 特に最近、契約を交わした『谷高スタジアム』との交渉で始めたコスプレレンタルの事業は久々に当たりな部類だった。


「イッヒッヒ。写真を更新したのが効いたのかねぇ。そろそろ、アルバイトでも募集してみるか。イッヒッヒ」


 忙しくなる事を見越して久しぶりに人手を増やす算段をしていると天井に気配を感じて見上げた。


「ローレライかい。黒船のコゾーに建てて貰った新居はどうだい? イッヒッヒ。んん? 店に向かう客足がある? そうかいそうかい」


 スイレンは店の扉に眼をやった。この店を目指してやってくる者など片手で数える程しか知らない。


「イッヒッヒ。写真を取り戻しに来たのかい? お嬢ちゃん」


 先にお昼にするかい。とスイレンは立ち上がると店の奥の闇へ。

 イッヒッヒと言う声が店内に響く。






「サマー、帰ったぞー」

「中庭じゃ、中庭!」


 サマーちゃんの家に着き、二階のPCルームにいると思いきや、家の裏手にある中庭の方から声がする。

 そちらへ行くと、縁側に座ってノートPCを膝に乗せるサマーちゃんと、多分……“ユニコ君『Mk-VII』”の前にiPadを持って立つレツが居た。


「よう来たな! フェニックスよ!」

「くふふ。お久しぶりですねぇ、フェニックス。調子はどうです?」


 オッドアイにギザッ歯なサマーちゃんと、眼鏡に痩けた頬が特徴のレツは相変わらずだ。


「特に問題は無いよ」


 あるとすれば……ビクトリアさんからの敵意くらいだけどね……


「カツ、マザーがお主を呼んでおった。連絡を返しておいてくれ」

「ええ? 何だろう?」


 ビクトリアさんは室内へ。恐らく二階のPCルームへ向かったのだろう。サマーちゃんはハロウィンズの面々はコードネームの方で呼ぶのか。オレは少しだけ気が落ち着いた。


「やはりか、フェニックスよ」

「え? なに?」

「カツはお主を滅茶滅茶嫌っとるだろう?」

「何故か……ね。オレ、知らない内に何かやらかしたかなぁ……」


 ビクトリアさんとは今日が初対面だし、名前は名倉課長から出た程度で知っていたにしても、ここまで嫌われているのは全然わからない。


「あやつは戦地で孤児だった所をマザーに拾われた経緯がある。マザーがハロウィンズに入る前からの家族なのじゃよ」

「そうなんだ。でもそれとオレが嫌われる理由ってなにさ?」

「マザーはお主の事を偉く気に入っておる。例の『Mk-VI』を動かした件も、お主だからこそ許可が出た様なモノじゃしのぅ」

「え? なんで?」

「わしも戻ってから聞いたが、どうやらマザーの過去と関わりがあるようじゃ。詳しくは知らん」


 謎多きマザー。その正体は意外と知り合いだったりするのかなぁ。


「あ……サマーちゃん、そう言うのって言っても良いの?」

「別に構わん。わしらは基本的に隠し事は無しじゃからな。特に日本支部の面々は過去も全て知った上で集っておる」

「くふふ。某も昔はG○ogleでプログラムをやっていましたからねぇ」

「え……? レツ、マジ?」

「くふふ。嘘は言いませんよぉ。ビクトリアに蹴られますのでね。くふふ」


 甘く見ていた。『ハロウィンズ』のメンバーは見た目は完全な変人集団の様だけど、過去の経歴は各々相当なモノなのかもしれない。


「じゃあテツも? て言うか、姿が見えないね」

「あやつは『魔法少女マジカルリリリ』の限定的フィギアを買いに行っておる。幕張までの」

「なんだぁ。テツは普通かぁ」


 テツだけは一般的な生い立ちの様だ。何だか安心でき――


「くふふ。テツは昔はオレンジでしたよ?」

「? オレンジ?」


 聞き慣れない言葉だ。


「Rじゃ」

「? ごめん、全然わからない」

「レスキュー隊員の事だ、ケンゴさん」


 と、何故か答えを教えてくれたのがショウコさんだった。

 しかし、それ以上の衝撃がオレの中に残る。元レスキュー……隊員? テツが?


「くふふ。山下鉄平で検索すれば嫌と言う程出てきますよぉ。何度も国から授賞されているエースだったそうですねぇ」

「……」


 なんだか……ハロウィンズの皆が凄く遠くの存在に見えて来たなぁ……


「ケンゴさん。別に気にする必要はないぞ。私なんか、只のモデルだしな」


 ぽん、とオレに気を使ってくれるショウコさん。けど、君も一部の界隈では有名な一族の一人なんだよなぁ。

 仮面と武器を持てば弾丸を避ける母君に、素手で虎をスレイする伯父さんもいるし……


「ありがとう、ショウコさん」


 そうだね。オレも国公認の処刑人やってたジジィしか身内には居ないわ。

 あれ? 日本支部の『ハロウィンズ』ってオレも含めて実は相当にヤバい?

普通の定義がぶち壊れる

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