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第394話 お巡りさん、アイツです

「!?」

「アイツは!?」

「愛の押し売りマッスラー国尾!?」

「げっ!?」

「国尾君!? どこに隠れてたの!?」


 ナンパ三人と加賀と姫野は、自販機の横から動き出した国尾に気がつき、そして己の浅はかさを恨む。なんでこんな近くに居る“国尾(ヤツ)”に付かなかったのか、と。


「やべ!」

「逃げるぞ!」

「他のヤツにも連絡しろ! 尻を守れ!」

「加賀君! 絶対にややこしくなるから逃げよう!」

「逃がさんぞ! 加賀とオマケの三人! 他人を困らせるナンパは止めて、俺と一緒にサウナに行こうぜ!」

「別に俺はナンパして無いっすよ!?」

「お前は特別枠だ! 国尾EXエステをくれてやるぜ!」

「ひぃー」


 そんな国尾の前に、海と空が滑る様な動きで割り込む。二人は剣豪の様に、姿勢を正しく木刀を抜刀できる様に構えていた。


「待ちなさい」

「止まるのです」


 並みならぬ気配に国尾は、中々に隙がない……良い集中力だ、と抜ける事は難しいと判断し足を止める。


「おいおい。牙を向ける相手を間違えてるぜ、大見シスターズ。迷惑ナンパボーイズのケツを拡張しようとしていたのはお前達も同じだろう?」


 狙いは同じハズだ。と、国尾は二人に告げる。


「いや……別にお尻は狙っていませんが……」

「頭をカチ割るくらいは考えていましたけども……」


 やろうとしている事はヤバい方へドングリの背比べな両陣営。しかし、相対的に国尾の方が無害な人への行動もあると感じた、海と空は彼を止めねばと言う考えが真っ先に浮かんだのだ。


「やれやれ。陸の静止が無いと言うのに常識に囚われてやがる。いいか? これは極めて異常な事態なんだ。お前達はそれを理解しているのか?」

「そりゃ……私たちも国尾さんと同じことをしようとしてましたけど……」

「無害な人は判別できる程度には己をセーブしてるつもりです」


 すると、国尾はやれやれ、と語り出す。


「この世には二つの人間がいる。己を“知る者”と“知らない者”だ。この両名における明確な違いは行動範囲の広さにある。“知る者”は無限の可能性を追求し己の足で多くに触れる。対して“知らない者”は可能性を他に合わせて同調しやすい」

「??」

「何が言いたいのですか?」

「つまりだな。お前らは常識に引っ張られ過ぎていると言う事だ。しかし、お前らが常識囚われるても俺はそれを否定はしない。人類は誰よりも自由を愛し、自由な自分を愛するべきなのだから。故に、俺がこれから行う捕獲行動に対してお前らが常識に従い、止めるのも自由。警察を呼んだって良いくらいだ」

「???」

「え? なんか言ってる事、おかしく無いですか?」

「よく気づいたな。俺もそう思ってる所だぜ」


 そう言って、国尾はスタスタと海と空の横を抜けて歩いていく。

 巧みな話術で防衛ラインを越えられた海と空は、ハッと我に帰る。


「どうやら……」

「言葉では止められないようですね!」


 やぁぁ!!

 たぁぁ!!

 と、海と空は木刀を抜き放ち、国尾の背後から交差する様に斬撃を見舞う。その動作の流れで、再度国尾の前に回り込むと、納刀。人目が多い為に刃を見せるのは一瞬だけだ。


「ほっほぅ。初めてお前らの攻撃は受けたが……流石は大見さんの血を持つ者たち。中々にヤるねぇ~」

「今のは掠めました」

「次は当てます。嫌なら諦めて――」


 二人は一糸乱れぬ動きでシンクロしつつ振り返ると、先程の攻撃で国尾の短パンの紐が切れて、パサリ、と落ちた。


「おいおい。俺はここで勝負パンツを見せるつもりは無かったんだぜ?」

「!!!?」

「うわー! ごめんなさい!」


 下半身がブーメランパンツだけになる国尾は、恥ずかしがる様子もなく堂々と腕を組んで立っている。


「しかし、中々の切れ味だ。やるじゃん!」

「今は褒めなくて良いですから!」

「前を……前を隠してください!」

「わかった!」


 と、次に国尾は横の自販機に抱きつく様に前面を隠す。しかし、尻は隠しきれず、自販機がグラっと揺れた。


「危なかったぜ……同サイズの自販機が無かったら捕まってた所だ」

「「あの……代えの服なんかは……」」

「持ってきて無いぜ! だか、何も問題ない。これからお前達が加賀とナンパボーイズの捕獲を手伝ってくれれば、すぐにサウナで脱ぐ――」

「お巡りさん、アイツです」


 と、姫野は近くを巡回していた警官に国尾の事を通報していた。


 姫野ぉ~。貴様……やってくれるぜ!


「国尾さん……また貴方ですか。今度は下半身丸出しで自販機に張り付いて……」

「ナンパや痴漢の被害者は皆貴方に感謝しているので、これまでは大目に見て来ましたけれども……」

「ま、待ってくれ! 俺はまだ何もしてない! 自販機に張り付く事が罪になるなんて――」


 反論しようとした国尾へ警官は、パサリ、と上着を被せる。こうすると彼は大人しくなるとこれまでの経験からの判断だった。


「とりあえず、人目もあるから交番に行きましょう」

「すみません……」

「私たちも騒ぎに一役買ってます……」


 国尾が連れていかれる事に負い目のある海と空も彼と共に交番へ向かった。






「えっと……あ! カレンさーん」

「お? 来たね」


 国尾によって、ナンパ共がどこかへ去ったカレンの元へは手を振りながらリンカがやってきた。


「待った?」

「少しだけね。まぁ、面白いモン見れたし」

「? なんだか騒がしいね」

「ま、行こっか。先にお昼でも食べよう。敵陣視察にしたいし」


 そう言って二人は歩き出す。

 国尾と海と空は交番へ。加賀と姫野はPS5を買いに。

 各々の休日を過ごしていく。






 そして、リンカとは一時間程ズレたJRに乗ったケンゴもまた、その駅にやってきた。


「やれやれ。相変わらず騒がしい駅だぜ」

「その台詞は毎回言っているのか?」

「どふぃー!?」


 ニヒルに決めたと思ったら、背後から声をかけられて飛び上がる。


「ショ、ショウコさん! お、お久しぶり……」

「久しぶりと言っても二週間程だがな」

「それと……隣のは誰ですか?」


 そこに居たのは淡々と、やぁ、と手を上げるショウコと、褐色の肌にサングラスをかけたブラジル系の女である。

 彼女はケンゴよりも身長は頭一つ高く、こちらを見下ろしている。


「ふーん。あんたがコード“フェニックス”ね」

「えっと……鳳健吾です。よろし――」


 と、挨拶をした所でガシっと頭を掴まれる。


「ビクトリア・ウッズだ。コード“カツ”。よろしく、ボウヤ」


 ケンゴはビクトリアから謎の威圧を感じた。

正しい事をしたのだ

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