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第393話 とりあえず、姫野は邪魔だ!

「ねぇ、お姉さん、ヒマ?」

「待ち合わせ中」


 カレンは最寄りの駅の看板柱の前でリンカを待っていた。スマホからイヤホンを伸ばし、チヒロにお勧めされた音楽を聞きいていた所をナンパの三人組に声をかけられたのである。


「じゃあ、待ってる間、俺らと話をしようよ」

「一人じゃ退屈しょ?」

「なんならカフェ行く?」

「いや、だから人を待ってんだって」


 迷惑であると威圧するも、童顔なカレンではあまり効果がない。ナンパ達も、お姉さん可愛いねぇ、と引く様子はなかった。

 しつこい様子にカレンもイラつき始める。

 そんなナンパの様子を見つけた双子が居た。


「相変わらず見苦しい奴が多いね、海」

「黙らせないと、皆迷惑するよね、空」


 私服で不敬な輩を断罪する為に徘徊していた双子の姉妹――大見海と大見空は、カレンに絡むナンパどもをロックオンしていた。

 双方の背にある竹刀袋。その中にある木刀の出番が近いと考えて背から腰に回す。


「待ちな」


 その断罪執行を止める様に二人は更に背後から声をかけられた。


「あなたは……」

「国尾さん……」


 そこに居たのは常人の倍の筋肉と体格を持つ愛のマッスラー、国尾正義である。

 彼は、帽子、タンクトップ、短パン、サンダルと言う涼しげなスタイル。布面積の少ない事からも鍛えぬかれた上腕二頭筋や僧帽筋は惜しみ無く強調されている。

 意外と目立たないのは、隣に同じサイズの自販機の影に立っているからだった。


「まだだ。大見シスターズ。まだ泳がせるんだ」


 国尾は腕を組んで悟る様に告げる。

 会社では三人は共に4課に所属する同僚。海と空にとって国尾の方が先輩であるため、動くよりも先にその言葉の真意を問いただす。


「国尾さん。アレはどう見ても迷惑こういですよ」

「ああ、言うのの更正は不可能なのです。今の内に来世に転生させた方が世のためですよ」

「勘違いするな、大見シスターズ。俺は別にお前達の断罪を止めてるワケじゃないんだぜ?」

「では何故声を?」

「そもそも、国尾さんは何でこんなところに?」

「“狩り”さ」

「「狩り?」」


 国尾の返答に意味を求めて二人は聞き返す。


「ここの駅は昔からユニコ君の商店街が近くにある事からも乗り降りする人間は多く、必然と人の交流や接触が多くなるんだ。そうなると相対的に見知らぬ男女が交わる事になり、ナンパと言う状況が発生しやすい」

「? それはわかりますが」

「国尾さんの言いたい事を話してください」

「わからないのか? つまり、そう言う過程で生まれるナンパは、揉め事を生みやすいと言う事だ。故に言い逃れ出来ない状況まで泳がせて、正当に防衛する。それがオレの目的さ」


 海と空は、意外と筋が通ってる……と、OFFの国尾からは考えられない程にまともな様子に少し驚いた。


「つまり、国尾さんは自主的に警邏活動をしていると言う事ですね」

「ただのゲイじゃ無かったのですね」


 暴力ではなく、法を使って下賤な輩を成敗する。普段は理解不能な行動が目立つ人間だが根っこはきちんとした弁護士であると、海と空は改めて国尾に敬意を抱く。


「それは少し違うな」


 しかし、国尾自身がそれを否定し、海と空は頭に?を浮かべた。


「俺はナンパを防衛すると言う名目を盾に男共の尻を成敗してやるのが目的なんだ。中々に成功率が高くてな。被害者の女性からも感謝されて俺も性的欲求を満たせて一石二鳥なのさ。だから、二週に一度は駅を変えて網を張ってるんだ。ここは発生率10割のスポット。だから――」


 駅員とか警察が来ない様に見張っててくれよ?


 と、怖い話の最後のようにその言葉で締めくくる国尾。どうやら思った以上にヤバい考えの元に行動していた様だ。


「なんとおぞましい……私たちはそんな事に手を貸しませんよ」

「何故この人は、捕まらずに弁護士を続けられているのでしょうか……」


 やだわ~。と海と空は身を寄せ合う様に互いを抱き締める。


「ほら、加賀君。早く行くよー」

「元気っすね、姫さん」

「「この声は……」」


 海と空は三人は聞き覚えのある声に振り向くと、姫野と加賀が私服で歩いていた。


「ほらほら。PS5が待ってるよ!」

「どこも売り切れって聞きましたけど?」

「ふっふっふん。実は事前に購入予約をしておいたのだよ。電話番号と名前と生年月日でもれなくゲット待機」

「俺は必要です?」

「必要必要。結構重いらしいから、加賀君に持って貰おうと思って」

「さいですか」

「ご褒美に姫ちゃんの部屋で一緒にセッティング&プレイする権利を与えましょう!」

「なんか、一昨日の説明会の時からテンション高くないっすか?」


 カレンをナンパしている男共は通過する二人(主に姫野)へ視線を向ける。

 並みいる通行人の中でも頭三つほど抜けた美女である姫野は、否応なしに眼を引く存在だった。


「加賀君と姫さんですね」

「デートでしょうか? 微笑ましい」


 一見して外を歩けば姫野が目立つ。加賀の存在はその光でかなり隠れている。


「なっ!? アレは加賀か!?」


 しかし、国尾はその光の影にいる加賀を的確に、というよりも確実に見つけていた。


「マジかよ……インドアなアイツが昼間から外に居やがるとは……一石五鳥……いや四鳥か。とりあえず、姫野は邪魔だ!」


 はぐれメタ○とエンカウントした小学生の様にテンションが爆上がりする国尾。そして、海と空に告げる。


「見張りは頼んだぞ!」

「「え?」」

「状況がわからないのか!? 俺が加賀とナンパボーイズを捕獲するまでの間、周囲を見張っててくれ!」


 山が動く。

ロックオン

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