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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
3章 ザ・サマー

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第39話 雑巾じゃ

(かぁ)! ただいまー」


 祖父と共に帰ったルリは家の玄関に入ると元気に声を上げる。


「ルリ。どこに行ったの? 朝から何も言わずに」


 と、奥から出てくる母は腰に手を当てて娘を見下ろす。


「うー、ひみつ!」

「秘密じゃないでしょ」


 全くもう……、と靴を直しているとルリは、(とー)、ただいまー! とリビングへ走って行った。


「あ、ルリ。靴はちゃんと揃えなさい」

「ガハハ。元気があって良いじゃないか」

「お父さん……あんまりルリを甘やかさないでよ」


 持ち帰った道具を見るに海に行っていたであろうと推測できる。洗濯の為にそれらを受け取った。


「そりゃ無理だ! 俺は死ぬまでルリを甘やかすぞ!」


 ガハハ! と笑う父に頭を抱える。


「そんじゃ俺は帰る。また明日、ヨミと来るからな」

「はいはい」

「じぃ」


 帰ろうとした所にルリが戻ってくる。


「かえるの?」

「おう。明日の発表会、見てるからな」

「うん! よゆーだよ!」

「ガハハ!」

「がはは!」


 ルリがお父さんみたいに成らなければ良いけど……と、母は再び頭を抱えた。






 銃声が響くと山の中の鳥達が驚いたように飛び立った。


祖母様(ばっさま)


 山の中に建てられた母屋に麦わら帽子にワンピースを着た美少女が自転車で来訪した。


「シズカか。どないした?」


 母屋の縁側で編み物をしていた老婆は歩いてくるシズカを見る。


「客じゃ。祖父様(じっさま)を呼んどる」

「今は無理じゃ」


 と、再び銃声。山の中を移動するソレは何かを追っている様である。


「なんぞ? はぐれでも出たんか?」

「人間狩りじゃ」

「え?」


 老婆の言葉にシズカは、嘘ぉ、と眼を向ける。


「最近、じっさまに客が多いじゃろ? 話をするのが面倒じゃから、山に誘って……な」

「な、じゃなくて。……嘘じゃろ?」

「見に行くか?」


 正直な所、じっさまならやりかねない。それだけ俗世からの来訪を嫌うのだ。

 老婆は、そんな孫の顔を見て笑っている。


「ばっさま……タチの悪い冗談じゃな」

「本当じゃて」

「阿呆抜かすな」


 すると猟銃を肩に担ぎ、仕留めた獲物を小さな荷車に乗せた老人が帰ってくる。


「猪か」

「ロクん所の畑を荒らしてたヤツだ。他から来たはぐれじゃ」

「何発使ったんか?」

「二発じゃ。木の間は狙いにくい」


 と、老人は縁側の傍にある水道まで猪を運ぶと、近くに猟銃を立てかける。


「シズカ。後でコイツをバラしてロクんとこ持ってけ。食われた分、食い返してやれとな」

「因果応報じゃな。ああ、そうじゃじっさま。客が来とる」


 水道で顔を洗う老人。その横に編んでいたモノを手に持って立つ老婆は老人が蛇口を止めるのを待ってから手渡した。


「なんやて?」

「客じゃ」

「身なりは?」


 老人は老婆から手渡された少し小さいが厚みのある布で顔を拭く。


「スーツ。ペン。ボイスレコーダー」

「記者か?」

「おん」

「帰れと言え」

「そう言うと思ったわ。電話借りるで、ばっさま」

「1秒10円じゃ」

「ばっさま……」

「冗談やて」


 シスガは母屋に入ると、客が待っている村の宿へ連絡する。


「最近多いのう」

「面倒ばかりじゃな」


 コロコロと笑う老婆に老人は嘆息を吐くと、山を見る。


「ケンくんは大丈夫じゃろ」

「何であのマヌケの話が出てくる?」

「じっさまの顔に書いとる」


 睨む老人の視線に、ひゃー、と楽しそうに逃げる老婆は母屋に猪を解体する道具を取りに行った。


“じっさま、カッケー! オレにも銃の撃ち方教えてくれや!”


「…………阿呆が」


 ここを出て行ったのはテメェだからな、と老人は山に背を向けた。


「ところでトキ、この布なんじゃ?」

「雑巾じゃ」


 老人は顔を拭くために手渡された布を地面に叩きつけた。






「それじゃ、また」


 オレは少し気だるさを感じながらも隣室に入るリンカへ挨拶する。


「さっさと寝ろよ」

「はは。少しネットサーフィンしてからね」

「シ○るならイヤホンつけろよ」

「……気を付けます」


 本来ならもうちょっと正論を並べる所だが、少しばかり今日は疲れた。

 リンカはオレの返答を聞くと隣室に入り、オレも自分の部屋へ。


「おっと……これは凄まじいな」


 足元がふらつく。そのまま倒れてしまいたい衝動に駆られるが……最低限、やることをやって置かなくては――


「水着を洗って……飯を食って……後は――」


 そこで足が言うことを効かなくなった。思考も乱れ、そのまま倒れそうになる。


 やっば……い。これは熱……出てるな……


 最後の気力を使って立ち上がり、冷凍庫から保冷剤を取り出すとタオルでくるんで頭に乗せてそのまま横になる。


「ここ数日……楽しすぎたか……」


 身体が日本に適応しているのだろうと、考えてオレはそのまま眠った。

ガハハ!

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