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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
3章 ザ・サマー

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第36話 ゲス野郎

 その後は、普通に遊び倒した。

 オレは獅子堂課長に浮き輪ごと抱えられて、海に投げられたり。

 リンカが作ったトンネルのある巨大な砂山をルリちゃんが、かいじゅうがおー、と言って壊したり。

 獅子堂流水遊びをセナさんは的確に乗りこなしたり。

 アイスをかけてルリちゃんと決闘したり。

 自分のもとに泳いで来るルリちゃんを獅子堂課長が、天才だぁ! ルリは天才だぁ!! と感動して叫んだり。

 そんな事をしているとすっかり閉館時間になっていた。


「遊んだな。あっはは」


 オレは疲れているハズなのにどことなく心は満足していた。

 セナさんと獅子堂課長は支払いに行っており、今はリンカとルリちゃんだけ。施設の二階にある人気の消えた休憩室で待っている。


「ん~」


 ルリちゃんは眼を擦って何とか起きようとしていた。一番はしゃいでたからなぁ。


「ルリちゃん、寝てて良いよ」

「うー。けんごとりんかとはなすー」


 リンカが優しく告げるが、ルリちゃんはまだ楽しい時間を終わらせたくないらしい。


「また遊びに来ればいいよ。今度はお父さんとお母さんも連れてさ」

「うん……そうすゆ……」


 と、限界を向かえたのかリンカに寄りかかるようにルリちゃんは眠ってしまった。


「そっくりだよ」

「何が?」

「昔のリンカちゃんに」


 リンカとルリちゃんを見ていると昔の自分を思い出す。


「……あたしはこんなに幼くなかっただろ」

「でも、こんな感じだったよ」


 リンカに妹が居れば良いお姉さんになっただろう。ルリちゃんが懐いているのがその証拠だ。


「今のあたしは……どう見える?」

「凄く魅力的なんじゃないかな」


 オレはリンカが何度も異性に言い寄られてる現場に遭遇している。それは、彼女の容姿がそれらを惹き付ける程に魅力的だからだ。


「学校でも色んな人が君を見てると思う。だからリンカちゃんは、本当に隣に居たいって思う人と一緒に歩いて行くといい」


 その時はオレから卒業か。少し……いやかなり寂しいが、リンカの選ぶ幸せは尊重してやらねば。


「……そうだな」


 リンカは納得したように開いた窓から海を見る。水平線に消えるオレンジ色の光が彼女の表情を照らす。それはとても美しくて、いつの日か誰かのものになるのだろう。


「あたしは……お前の隣がいい」


 オレンジの光でも解るくらいにリンカは顔を赤くしてそう言った。そんなに恥ずかしい事かな?


「つまり、今まで通りって事だね」

「――……はぁ。お前、本当に最低だな」

「WHY!?」


 今度は呆れた表情でジロリと睨んでくる。

 何故だ……オレの回答にミスはなかった……と思うが……


「ちょっとトイレに行ってくるね!」


 これ以上沼を沈む前に次の返答はちゃんと考えねば。オレは気まずい場から逃げる様に休憩室を後にした。






 リンカは逃げていくケンゴの背を睨んでいると姿が消えてから再び呆れる。

 本当に鈍感野郎だ。折角勇気を出したと言うのに――


「……」


 そして、先ほどの告白を思い出し再び顔が赤く染まる。

 いま思えば、とんでもない事をさらっと言ったよなあたし。


「なんだろ……何か考え方が少しズレてるよな……」


 リンカはケンゴの立ち振舞いに妙な違和感を覚える。小さい頃は特に気にした事はなかったが。今と思えば……


「特別が無いのかな……」


 すぐ近くにいて“頼る”のではなく、“知ろう”と思ったから見えてきたのだ。


 ケンゴは関わる人達をみんな平等に見ている。


 その中で特別な人は誰もいない。意図して拒絶しているのではなく、そういう考え方を当然だと思っているように感じる。


「……」


 多分、言葉での好意は伝わらない。リンカは、いっそ襲うか……などと自分で考えて自分で顔を赤くして妄想を振り払う。


「……ああもう……ばかのせいだ」


 やっぱり、ケンゴの事は他とは比べ物にならないくらい好きだと改めて自覚する。独り占めしたいと思ってしまう程に。


「やぁ。今、暇してる?」


 すると、いつの間にか昼間のナンパ達がリンカを見下ろしていた。






「……別に。もう帰る所なので」


 リンカは昼間のナンパ達に囲まれながらも特に焦る様子もなく受け答える。


「そりゃ奇遇だ。俺らも帰る所でさ。乗せてってやるよ」

「それならさっさと帰れば?」

「ほっ! つれないねぇ。俺らもあんまり騒ぎたくないのよ。ほら、小さい子も居るし」


 ナンパ達の言葉にリンカは眠っているルリを庇うように抱き寄せる。


「……さっさと消えないと叫ぶ」

「おぉ~コワイコワイ。叫ばれたら俺らも手が出ちゃうかもなぁ。その子にも」


 へっへっへ。と笑うナンパ達にリンカは軽蔑の眼差しを向ける。時間を稼げば――


「残念だが、連れは来ないぜ」

「は? どういう意味だよ」

「世の中には、どうしようもない暴力ってヤツが存在するんだなぁ、これが」


 リンカの脳裏に嫌な記憶が(よぎ)った。


「だからよ、俺らと帰ろうや。その子は置いて行っていいからよ」


 ナンパの男はリンカの肩に手を置く。下心が見え見えのソレに寒気を感じるも、眠っているルリだけは絶対に護らなくてはならない。


「……誰も傷つけるな」

「ほほ! オッケー!」


 その時、ナンパ男の身体が吹き飛んだ。

 それは、人の身体ってそんなに吹っ飛ぶんだ、ってくらいに横から殴られて滑って行く。


「! おにい――」


 想い人が戻ってきてくれたのだと、リンカはその名を呼び掛けて――


「お前らな。言ってる事とやってる事の辻褄が合ってねぇぞ」


 護るように出てきたのは金髪にイケメンの七海智人(ななみのりと)の姿だった。


「誰?」


 無論、リンカは初対面である。






「……やっぱり、もっと慎重に言葉を選ぶ必要があるよなぁ」


 オレはリンカとの接し方は昔のようではダメだと改めて考え直す。

 そりゃそうか。青春期真っ盛りの花の女子高生だもの。冷静に一歩引いて状況を見れる大人よりも直情的に動く年頃だ。

 それを考慮した上でも少し慎重に――


 オレはトイレで手を洗って、エアタオルで手を乾かして出る。

 二人だけ残すのはちょい心配なので少し早足に休憩室へ。


「――ん?」


 すると、道の真ん中に弁慶の様に立ち塞がる青年の姿があった。


「すみません。通れないんですけど……」


 青年の身長はオレと同じくらいで、ガタイも良い。スポーツでもやってるなら上位選手だろう。


「通す気はない」


 うお。マジの弁慶だった。しかし、映画でしか聞いたことの無いセリフを言われる日が来るとは思わなかった。


「お前が女子を侍らせるゲス野郎と言うことは聞いている。鮫島の所に返すわけにはいかない」


 オレは目が点になった。いや、本当に。全くもって言葉の脈略が掴めない。それにリンカの名前を知っている。彼は何者……


「いや、何を――」


 対話をしようとしたら、返事の代わり青年の拳がオレの顔面に炸裂する。

 これも青春期か……

ファーストコンタクト

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