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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
3章 ザ・サマー

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第35話 オーバーウェア、ウォーターアウト

「お前さ。折角、金払って来たんだから少しは笑えよ」

「受験勉強の最中で呼び出したお前が悪い」


 大宮司は別の高校に通う悪友――七海智人(ななみのりと)に呼ばれて、半ば強引に外に連れ出された。

 二人は外ではなく施設内の飲食ブースの日陰でのんびり過ごしている。


「謹慎中も勉強してたんだろ? 今日は心の広い俺の奢りなのに、少しは気楽になれよ」

「心が広いなら勉強の邪魔をしないでくれ」


 大宮司と七海の性格は全くの正反対だった。

 整った顔立ちで口もよく回り、女子に人気がある七海。

 寡黙で融通の利かない性格を地で行く大宮司。

 本来なら接点のない二人だが共通している事が一つだけある。


「なんにしてもお前らしいよ。女の子助けるために、町の三分の一を掃除しちまったなんてな」


 今年の5月。大宮司は同じ高校の制服を着た女子生徒が町中で絡まれてる場面に遭遇。

 嫌がる女子生徒は、強い抵抗も出来ぬまま路地へ連れていかれそうになった。


「……警察に通報するべきだった」

「それじゃ間に合わなかったんだろ? それに警察は事件が起こってからじゃないと動かねぇしな」


 大宮司は迷わず彼女を追い、裏路地に入ると明らかに暴行しようとしてる現場だった。

 声を出せない様に押さえつけられた彼女の助けを求める眼は大宮司が拳を握るには十分な理由だった。


「けど次からは俺も呼べ。ていうか、俺にも戦らせろよ」

「お前の方が俺より沸点は低いよな」


 その後、女の子は無事に帰し、大宮司は連日のようにその報復を受けた。そして、それを全て返り討ちにし、ヤクザの幹部に気に入られて事は終息する。

 何か困った事があったらウチに来い、と名刺まで渡された。


「ったり前だ。女の子を泣かすクソ野郎は人類の敵だ。魔神のランプがあったら間違いなくそいつら全員を去勢させるぜ」


 お前も半分はそれに入ってないか? と大宮司は思った。

 二人の共通点は助けを求める者の為に暴力も辞さないという事だった。


「それよりもお前、今日は彼女を誘わなくてよかったのか?」

「別れた。あっちに好きな人が出来たらしくてなぁ」


 触れてはいけない話題だったと大宮司は反省する。


「そうか。……なんかすまん」

「しゃーねぇよ。人間だって動物だ。目移りくらいするさ。だがな、亮。俺は新しい恋を見つけたぜ!」


 立ち直りの早い親友に必要のない心配をしたと、大宮司は嘆息を吐く。


「姉貴の友達なんだけどよ。スッゲー美人なの。スタイルも良いし、性格もまさに女神!」

「ケイさんの友達って事は社会人か? 名前は?」

「鬼灯詩織さんって人。しかも弁護士の資格も持ってるってよ。超優良物件だぞ、ほんと」

「それなら彼氏の一人くらいは居るだろ」

「ああ。姉貴が言うには居るらしい。だが、俺は諦めねー!」


 女の子に見境なく話しかける悪友が、ここまで熱を上げるのは初めて見た。


「ま、頑張れ。ていうかお前も受験勉強しろよ」

「それは問題ない。○○大学のA判定貰ってるからさ」

「唯一、お前のそういう所は腹が立つ」


 七海はいわゆる天才児(ギフテッド)であり、髪を染めて遊び倒しても許容されるのは、誰も文句をつけられない成績を周囲に見せつけているからであった。


「なら、次からは俺を巻き込めよ。何のために空手やってるのかわからねぇ」

「少なくとも暴力の為じゃない」

「なら、お前は正しい使い手だ」


 今回の謹慎に誰もが否定的に大宮司を見る中で七海だけは、変わらずに味方としていてくれる。


「……もう一人いてくれたな」


 そして、彼と同じ眼で自分の事を見てくれる女の子も知っていた。


「よう。亮君」


 そこにナンパ男達が現れる。彼らは大宮司が謹慎になった一件で知り合った者たちだった。






 獅子堂流水遊び。

 それは獅子堂課長をエンジンにして、浮き輪を超高速で引っ張る、遊び? だ。


 原理は簡単。

 獅子堂課長の身体にロープを巻く。

 ロープの反対側を浮き輪にくくりつける。

 浮き輪に乗る。

 課長が泳ぐ(バタフライ)。

 時速30キロが出る。以上。


 その筋肉遊具の重さ制限は70キロほどらしいが、リンカとルリちゃんを同時に乗せて引っ張っても速度が落ちないのはマジでヤバい。

 オレは安全確認の為に試し乗りしたが、Uターンで振り落とされた。救命胴衣いるぞこれ。


 リンカも顔を強ばらせて浮き輪の取っ手を握る。ルリちゃんは慣れたように、じぃ! はやーい! と楽しんでいた。

 他には真似できない。そりゃ、ルリちゃんがじぃを好きになる理由も解る。

 あ、Uターンでリンカが落ちた。あそこ、Gがやべぇんだよな。ルリちゃんを考慮して浅瀬だったのですぐに足はつく。


「――!」


 顔を出したリンカはすぐに再び首から下を海の中へ。どうしたんだろ?


「ケンゴ」


 と、ロープの先と繋がった浮き輪を尻尾の様にした獅子堂課長が水泳ゴーグルを投げてくる。


「助けてやれ。多分アレだ」

「アレっすか」


 アレってなに? と良く理解せずオレはキョロキョロと辺りを見回すリンカへ近づく。


「リンカちゃん、どうし――」


 と、オレの声にリンカは咄嗟に背を向けた。どうしたのかな? と再び話しかけようとした所でオレは彼女の異変に気がつく。


「……落とした?」

「落とした……こっち見るな」


 リンカは水着の上を獅子堂流水遊びによって失っていた。それを探していたようだ。


「探すの手伝うよ」

「……こっちを見たら潰す」

「……一応聞きますけど何を?」

「二つとも潰すからな」


 上と下のどっちの事だろう。聞くのが恐いのでリンカには海面を任せてオレはゴーグルを使って海中を探す。


「…………!」


 少し離れた所にクラゲを確認。いや、このビーチにはクラゲはいないので、リンカの装備だろう。


「あったよ」


 少し離れた所から顔を出したオレは回収した水着をリンカへ持って行く。


「ありがと……」


 彼女は申し訳なさそうに受け取り、オレは見ないようにして陸へ戻る。

 セナさんとルリちゃんは、砂山を作って遊んでいた。


「あ、待って」


 呼び止められてオレは振り返って良いものかと少し考える。


「……後ろ。結びづらいから」

「えーっとそれはどういう……」

「水中じゃ結びづらいから! お前が……結べ……」


 はやく! とリンカが急かすので不可抗力で振り向くと海中に漂う紐と、彼女の背中を見ながら結ぶ。


「きつくないか?」

「……大丈夫」


 なんだか、昔よく構ってやった頃を思い出した。

 今はツンツンされてそんな機会が減って寂しいが、頼りにされるとやっぱり嬉しい。


「けんご! りんか! ふじさんつくるよー!」

「おっしゃー」


 浜辺からの第二要請。オレはざぶざぶと浜へ戻る。


「……少しは動揺しろよ。ばか」 

獅子堂流は年中無休

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