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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
3章 ザ・サマー

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第34話 夫婦……か

「てーはなさないでね!」

「離さないよ」

「りんかも!」

「大丈夫」


 昼食後、オレとリンカは獅子堂課長が海に来た理由を聞いて手伝うことにした。

 何でもルリちゃんの幼稚園で水泳の課題が明日あるらしい。

 彼女のご両親も見に来るらしく、泳げないのに見栄を張って、およげる! と言ったのが発端だとか。

 その後、じぃに頼って海に来て現在に至る。


「もっとバタ足を強くして」


 オレはビート板を支えながら、慣れない態勢で浮くルリちゃんへアドバイスをする。リンカは彼女の身体を沈まないように支えていた。


「うー」


 大人に比べて子供の身体は軽い。しかし、その分筋力も経験も乏しい為、適切なバタ足具合を掴むには時間がかかるだろう。


「いい調子だよ」


 リンカは支えながらも、少し浮くようになってきたルリちゃんを褒める。

 流石、獅子堂課長の孫なだけはある。センスは悪くなさそうだ。






「ふー、何とかなりそうだ」


 ケンゴとリンカの指導をパラソルの下で見ている獅子堂は孫娘が目的を達成出来そうで安堵する。


「可愛い年頃ですね」

「どうしても厳しくは出来んのです」


 獅子堂は海に来たものの、どうやって泳ぎ方を教えれば良いのかわからなかった。

 体格的にもあまりそういうの事に適していない。それ以前に孫娘に厳しく接するという事が出来ないのである。


「わかりますよ。あの頃が一番可愛いですから」


 セナもリンカが小さかった頃を思い出す。それはまだ、娘の片手を夫が持っていてくれた頃の記憶だった。


「獅子堂さん。四年前、娘の事を気にかけて下さってありがとうございます」


 それはリンカの父親――セナの夫が起こした事件。ケンゴが誤認逮捕され、リンカが連れ去られた事案である。


「私は何もしておりません。暴力なんて御法度な時代ですからな。この肉体も役にはたちませんし、インテリが強い時代ですよ」

「そうでしょうか? 少なくとも今日、私たちは助かりました。ルリちゃんは毎日頼りにしてると思います」

「……やはり、男と女では考え方が違うようです。そして、貴女は強い人だ」

「私は皆に丸投げしてるだけです。本当は私があの子を支えるべきなのに、ケンゴ君に頼りきってしまって」

「ふむ。ならば、もう家族にした方がいいのでは?」

「ふふ。私もそうなればいいなーって思ってます。でも、ケンゴ君はリンカの事をそのように見ていないのです」

「……そうですか。流石に近くに居れば嫌でも気づきますな。ケンゴの出す違和感に」


 それは彼を一番最初に見た獅子堂が最初に気づいた事だった。


「そのように叩き込まれたのでしょうな。仕方がないのかもしれんが……」


 異常なまでに俗世を嫌う古馴染は死ぬまで考え方を変えないだろう。

 同時に、彼が居なければ今のケンゴは無かったのかもしれない。


“ゲン、てめぇ。ヒトん家の事に口を出すなや。ケンゴは死ぬまでここから出さん”


「馬鹿なジジィだな。お前はよ」


 そんな事は、誰も望んでないってのに。






「よし、じゃあここまで泳いで見て」


 少しビート板の扱いに馴れてきたルリちゃんに一人で泳いで貰うことにした。

 リンカと距離を取り、短い距離を一人で来て貰う。


「うー」

「まだ怖い?」

「こわい……」


 ルリちゃんはリンカに掴まって中々一歩を踏み出せそうにない。


「大丈夫。何かあったらすぐに助けてあげる」

「ぜったいね! ぜったい! うそついたらハリセンボンだよ!」

「うん。針千本」


 リンカが程よくルリちゃんを宥めてくれた。そして勇気を胸にビート板を使ってオレに向かってバタ足エンジンを起動する。


「おお。いいぞ。その調子」


 波に揺られながらも、ルリちゃんはしっかりと進んでくる。リンカも、頑張れー、と背中からエールを送っていた。


 その時、少し大きな波が押し寄せた。

 浅瀬に立つオレ達を呑み込む程の波にルリちゃんはあっさり呑み込まれる。


「!? ルリちゃん!」

「くっ!」


 慌てて消えた彼女を捜す。オレは潜って様子を見るがゴーグル無しではよくわからない。

 リンカの足が近くに来たので一旦浮上する。


「いたか?」

「わからない……」


 不安そうに辺りを見回すリンカ。オレは獅子堂課長を呼ぼうとして海岸に視線を向けると、


「ぷはー」


 ビート板の浮力を使ってルリちゃんが浮上した。


「じぃー! せんすいかーん」


 浜辺でセナさんと会話をしてるじぃに手を振る。そんなルリちゃんにオレらは安堵し、彼女へ寄った。


「凄いな、ルリちゃん。もう潜れるの?」

「足をうごかしたらおよげたよ!」


 波にのまれたルリちゃんは自力で浮上した様だ。予期せぬ事態には誰しもがパニックになるものであるがその度胸も獅子堂の家ゆずりである。


「それに、けんごとりんかも近くにいるから! ぜんぜんこわくなかったよ!」


 歯を見せて無邪気に笑うルリちゃんにオレも笑って返した。


「やるじゃなーい。こりゃオレよりも泳げてるな」

「ほんと?」

「おう。凄いぜ」


 褒めながら頭を撫でてあげると、ルリちゃんは嬉しそうに笑う。


「ルリちゃん、一回浜に上がろうか」

「えー、ルリまだまだいけるよ!」


 リンカの提案に泳ぐ感覚を掴めたルリちゃんはまだ続けたい様子だ。


「あたしが疲れちゃったから。少し休憩したいなーって」

「りんか体力ないね!」

「それに、じぃにも泳げた事を褒めて貰おう」

「うん! そーする!」


 恐らく、ルリちゃんは自分でも思った以上に体力を使っている。それを察したリンカは休憩もかねて上がる事を提案したのだ。


「けんごとりんかって(とぉ)(かぁ)みたいに、なかいいね!」


 無邪気な年頃は思った事を脊髄反射で口にする。バタ足エンジンを全開に、ひゃー、とルリちゃんは波に押されるのを楽しみながら浜へ。


「いやはや、子供は成長が早いね」

「……夫婦……か」

「リンカちゃん?」


 オレもルリちゃんの後に続くがリンカは足を止めていた。


「い、いや! 何でもない……さっさと上がるぞ!」


 そう言って眼を伏せてオレを追い抜いて行く。


「こっちは未知だ」


 素直で分かりやすかった頃のリンカを思い出すも、今の彼女との時間も悪くないと思っている。






「クソ!」


 ナンパ男達はケンゴパーティーとの一件以降、失敗続きだった。


「もう、帰ろうぜ。今日は無理だって」

「うるせぇよ! 俺は毎年必ず女引っかけてんだ! その記録がどうなってもいいのかよ!?」


 知らねーよ、と仲間も呆れて突っ込みが出ない。


「クソ……あのジジィのせいだ」


 セナとリンカはナンパ達からしてもトップに位置する上玉であった。付き添いの男も一人でモブみたいなヤツだったし、成功は確実だと思われたのだが……


「あのジイさんは無理だって。マジで海に投げる眼をしてたもん」

「うるせぇ!」


 呆れる仲間達。しかし、当人はセナとリンカの事を諦められなかった。


「こっちにも戦力を――」


 もはや手段を選らばない思考まで行こうとした時、


「! おい、あれ――」


 ナンパ達は、知り合いと来ている大宮司を見つけた。

 その体格と威圧はその他大勢に紛れても一目だでわかる。


「亮君じゃん」

「謹慎解けたんか」


 大宮司の実力を知るナンパ達はいよいよ強引な手段は取れなくなってきたと本格的に撤収を考える。


「こいつはいい」


 しかし、先ほどから食い下がる一人はあることを思い付いた。

ケンゴもリンカも子供好き

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