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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
21章 社員旅行編6 キモダメシノ夜

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250/700

第250話 何か間違ってしまったか!

「それは闇そのモノだった。あらゆる勇気を呑み込む闇の山道。入った者は誰もが恐怖を抱き帰還する。故に託された我々は闇を晴らし、呑み込まれた勇気を取り戻さねばならんのだ!」

「社長……ナレーション風に語っても、ただ行って帰ってくるだけですからね」


 腕を組んで仁王立ちで夜の山を見上げる黒船にケンゴは冷静なつっこみを入れた。


「鳳君! 君と七海君が見たモノ! その正体は気にならないのかね!?」

「いや……触らない方が幸せなモノもありますって」

「私の人生の広辞苑に“疑惑”は載せられないのだよ! 見かけたら地の果てまで追いかけるよ! 私は!」

「そのまま別の世界とかに連れていかれますよ?」

「フッ……それならばノープロブレムだな! 既に経験済みだッッ!」

「わぁお……」


 カッ! とやる気MAXの黒船の横に泉が並ぶ。その手にはビデオカメラを持っていた。


「社長、カメラ準備OKです」

「うむ! ご苦労様!」

「……何やってんですか?」

「冬の心霊特集番組に応募するのだよ! 賞金は10万円だ! 1組目と2組目が件の心霊を経験している! 3組目は出てこなかったが……まぁ休憩でもしていたのだろう! つまり、我々が行って出てくる可能性は高い! 多分ね!」


 ケンゴはどうにもならない社長の様子から、泉へ会話を移す。


「おい、お前は良いのかよ?」

「別に構いはしないわよ。社長はああ言ってるけど、どうせヤラセか何かだろうし」


 泉としては、確たる証拠を持って帰り、七海を安心させることが目的の様だった。


「なんか確証でもあるのか?」

「あるわけ無いじゃない。でも、幽霊とかの方がもっとあり得ないわよ」

「オレは普通にヤバかったけどな……」

「アンタの単純な脳は簡単に錯覚を起こすからね」

「人が心配してるってのに……コイツ」


 そう言えば、泉は相当なリアリストだったとケンゴは思い出す。


「泉……気を付けろよ」

「気をつけてね、泉さん」

「はぁい♡ 七海課長♡ 詩織先輩♡ ありがとうございまーす♡」


 しかし、相方が黒船である4組目はある意味、大きな特異点でもあるだろう。

 山道の件が仕込みやヤラセなら泉も鋭く反応するハズだ。


「懐中電灯OK! ビデオカメラ――」

「映ってます。暗視映像(モード)も良好です」

「OK! 行こう! 10万をゲットしたら社長室のコーヒーセットを買い換えるぞ!」


 待ってろ、心霊! と懐中電灯を持つ黒船が先行しその後に泉が続いた。


「……逆に来なさそうだな」


 この組に関しては心配は皆無なのかもしれない。






 4組目、黒船正十郎×泉玲子の場合。


「ふむ……雰囲気あるね」

「そうですね」


 土を踏みしめて傾斜を進む二人。林によって河川敷が見えなくなったら懐中電灯の光が無ければ本当に何も見えない。


「ちなみに泉君は霊感はある方かな?」

「うーむ、見た、事は無いので無い方かもしれません」

「そうか。ならば、カメラに捉える事が出来れば本物と言う事だね!」


 さぁ、来い! ゴースト! と黒船はスッスッ、と正面だけ出なく辺りにも懐中電灯を向ける。


「ああ、そんなに早く動かすと捉える損ねますよ」

「む、そうか。正面に集中するとしよう」


 足元を照らして丁寧に進む。泉も暗視映像でちょいちょい周囲を映すが何かが映る気配はない。


「所で泉君」

「はい」

「君は3課に移りたいのかね?」

「え? 誰か言ってましたか?」

「旅行で様子を見てて少し気になったのでね」


 黒船は旅行メンバーでも自社の相関図を特に気にかけていた。中でも特徴的に現れていたのが、泉と鬼灯の関係である。


「前から君が鬼灯君を慕っているのは聞いているよ。私と課長陣の判断で君の適正は1課にあると見て、そちらに配属したのだが……鬼灯君と仕事がしたいのならそちらへの転向も快く了承しよう」

「あ、大丈夫です。確かに詩織先輩と仕事が出来ると嬉しいですけど……今は七海課長の側で学びたい意欲の方が強いんで!」


 黒船の提案に泉はハッキリと応える。1課に配属された当初は鬼灯と離れた事に枕を涙で濡らしたが、今は彼女と同じくらいの魅力を七海にも抱いている。


「ふむ。流石は七海君だ。いつになっても彼女は人を引っ張る才能がある」

「そう言えば……社長と七海課長は知り合いって聞きましたけど」

「彼女とは色々あってね。この会社で再会した時は本当にびっくりしたよ! 私は高校を中退して世界中を旅してたからね!」

「じゃあ、良くわからない武勇伝の云々は本当なんですか?」

「まぁね! その内、自伝にでもしようかな! タイトルはそうだな……『黒船正十郎! 危機一髪!』にしよう」

「……良ければタイトル考えましょうか?」

「良いのかい!? その時は是非お願いしようかな!」


 そんなこんなを話していると霊碑に辿り着く。心霊的な事は全く起きていない。


「む! むむむ! むむむむ!」


 黒船は霊碑の回りを懐中電灯でサッ! サッ! と照す。


「今がチャンスだよ! さぁ、フッと映りたまえ! ゴーストカモン!」

「社長、逆にわざとらしいですよ」


 ふむ……と黒船は少しだけ意気消沈して“王”と書かれたキットカットを取る。泉はずっとカメラを回しているが今のところは何か映った感じはない。


「こんなモンか」


 泉は“現実”と書かれたキットカットを取ると二人は来た道を戻り始める。


「参ったなぁ……出るって聞いたんだけどなぁ」

「まぁ、こう言うこともありますって」


 きっと全部勘違いだったんだろう。と泉は何事も無かった事を七海に報告出来そうだと、思っていた――


「泉君」

「はい? どうしました? 急に止まって――」


 前を照していた黒船が急に止まったので、泉も止まると目の前に誰かが立っている。


「――――」


 ソレを見た瞬間、泉は鳥肌が立った。

 登山ウェアを着たソレは口を異常な程に開き、眼は乾燥して、くぼんだ用な穴が空いている顔をして目の前に立っていたからだ。

 顔に三つの穴だけを持つソレは明らかにこちらの退路を塞ぐように佇んでいる。


「しゃ……社長……」

「来たか……」


 と、黒船は前に出る。ソレはゆらゆらと不気味に揺れていた。


「さてさてお立ち会い! この黒船正十郎が目の前に異界の者を捉えたでござんす! 現実と非現実の狭間に立ち、貴重な体験に、あっ! 某はぁ、どんな結末を迎えるのかぁぁぁ!」


 黒船は低い姿勢で目の前の心霊にそう言ってポーズを取ると、どこからか拍子木の、カンカンカン、カカンッ! と言う音が聞こえた気がした。


「……」


 すると、目の前に居たソレは、すぅ……と消えて行った。


「あぁ!? 何か間違ってしまったか! カムバック! カムバック! ゴースト!」

「社長! 行きましょう! 今の内に! 早く!」

「んまー!」


 泉に引っ張られて残りの山道を早足に降り、河川敷へ二人は帰りついた。


「帰ってきたか。なんか歌舞(かぶ)いてたみたいだけど……」


 ケンゴは、カムバーック! と山道の闇に向かって叫ぶ黒船と、入った時よりも青い顔の泉の両方を見て尋ねる。

 同じナニかを見た二人のであるハズが、正反対の反応から何があったのか全く読み取れない。


「居る……幽霊は居るわ……」

「お、おう」


 ただ、リアリストの泉が、ファンタジストに片足を突っ込んだ事だけが確かな事だった。


「カムバーック!」

黒船はファンタジスト

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