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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
2章 夜の光に照らされて

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第25話 マイナスイオン

 ワゴン車が整備された山道を登り、『○○キャンプ場』と書かれた看板の脇道を曲がる。

 砂利道に変わった道波に少し車体が揺れるも問題なく目的のコテージに停車した。


「おお。やっぱ山はテンション上がるなぁ」


 助手席から出たオレは、鬱蒼と生い茂る木々と蝉の鳴き声が響き渡る大自然を前にマイナスイオンを全身に受け止めていた。


「ケンゴ君は昔から変わらないね」


 運転席から降りるのは迎えに来てくれた谷高哲章(やたかてっしょう)さん。ヒカリちゃんの父親で、オレも面識がある。


「あっと、すみません」

「いいさ。逆に尻込みしてなくて安心したよ。虫が多くてね。最近は男でも苦手な者は多い」

「あ、オレ平気です。ゴキ○リとか蛇とか素手で行けるんで期待しててください」

「ハッハッハ。頼もしいな」

「それ……触った手であたしらに触んなよ……」


 後部座席から、ふらりと出てきたリンカは辛そうに車に寄りかかる。


「山道に酔った?」

「……今、話しかけんな」


 受け答えも辛そうだ。都会とは違う道に車酔いしたのだろう。

 リンカはあまり車に乗る機会はないからなぁ。


「荷物は運んでおくから、先に行って休んでなよ」

「……そうする」


 地場産のマイナスイオンの中に居ればすぐに良くなるだろう。


「あ、来た来た。リーン! ケン兄ー! パパー!」


 と、目の前にあるコテージからヒカリちゃんが手を振って歓迎してくれる。

 オレは手を振って返すと哲章さんは、パパを呼ぶのは最後か……、と少しだけ悲しそうだった。






 ヒカリちゃんの母親が経営する会社が発行している夏の特別号の雑誌モデルとして、リンカちゃんも載る事にしたらしい。

 それがバイトの打ち明けで、オレはセナさんに代わってリンカちゃんの保護者兼付き添いだ。

 

 コテージは谷高家の持ち家という訳ではなく、今回の写真撮影の為の借家らしい。

 既に照明灯や反射板などの撮影機材がちらほら見え、それを扱うスタッフも何人か背景となる場所を調べているようだった。


「これからは昼間の撮影ね。場のセッティングに時間がかかるから、もう少しゆっくりしてて」

「……うん」


 オレとリンカとヒカリちゃんはコテージの前に設けられたテーブルと椅子に座って呼ばれるまで待っていた。

 リンカはまだ回復しない様子でテーブルに伏せている。酔い止めでも持ってきてあげれば良かったかな。


「凄く本格的だ。二人ともどんどん遠くの存在に……」

「あはは、そんなことないよ。わたしもリンも誰かに強制されてるとか、辛くてやってる訳じゃないから。辞めようと思ったら何時でも辞められるし」

「そうなの? でも、楽しいなら続けるべきだと思うよ。自分は楽しくて、更に周りが笑えるなら最高じゃん」

「お前は……あまり深く考えないだけだろ……」

「おん? ダウンしてなって。喋るの辛いんでしょ?」


 弱っていてもリンカの突っ込みが入り、ヒカリちゃんは、あははと笑う。


「ケンゴちゃぁん、ちょっと良いかしらん」


 と、撮影スタッフのまとめ役である西城さんに呼ばれた。オレはリンカの付き添いと言うだけでは悪いと思って、手伝いをする事にしたのだ。

 ちなみに西城さんは女(男)である。


「はーい! じゃ、ちょっと手伝ってくる」


 オレは、蛇でも出ましたー? と言いながら二人から離れた。






「リン、大丈夫?」


 ヒカリは予想以上にダウン状態の長いリンカを心配そうに見る。


「もうすぐ落ち着きそう」


 と、リンカは顔を上げて少しずつ呼吸も整える。


「車酔い慣れなきゃね」

「あんまり乗る機会ないからなぁ」


 リンカの生活圏は殆どが電車移動で、車の移動は整備された街中を走る程度だった。

 山のちょっとした気圧や荒れた山道でここまで酔いが回るのは本人も予想外だったのである。


「ヒカリは良いの? 朝日とか」


 紫外線を人生の怨敵とするヒカリは笑って返す。


「日焼け止め塗ってるから平気。ほら、学校だとベタベタするし、塗り直しも出来ないから」

「なら良かったけど」


 だいぶ回復してきたリンカはふと、ケンゴを見る。

 彼は率先して荷物を運び、その際に現れた蛇を捕まえて近くに逃がし、じゃあな、と目線を追った先に何かを見つけたのか、木に登り始めた。そして落ちた。

 慌ててスタッフが、どうしたー? と駆け寄る。


「何やってんだか……」

「あはは」


 呆れるリンカとケンゴの行動に爆笑するヒカリ。

 森に慣れない撮影チームも彼を中心に不思議と笑っている。


「リンカさん。体調は大丈夫ですか?」


 女性のコーディネートスタッフが話しかけてくる。


「はい。だいぶ」

「では衣装に着替えましょうか。まだ日陰なので汗を掻く前に幾つかのパターンを撮りましょう」

「解りました」


 リンカは立ち上がると、じゃあね、とヒカリに手を振ってスタッフと共にコテージへ向かった。


「……うーん。悩み所だなぁ」


 一人になって落ち着いてケンゴを見るとやはり妙な補正がかかって見える。

 他の人たちの中でも一層、目立つというか目を惹かれるというか――


「何か悩みかい?」


 そう言って席に来たのは哲章だった。哲章も座りながらケンゴを見る。


「彼は良い大人だね」

「ケン兄は昔から変わんないよ?」


 ヒカリは幼少期にリンカを通じてケンゴと知り合った。

 その時からリンカとケンゴは一緒で仲の良い兄妹のように笑いあっていて、その中に自分も入れて貰ったのだ。


「ヒカリは彼の事を何か知っているかい?」

「何かって?」

「どこ出身とか、ご家族はどうしてるのかとか」


 そういえばあまりそういう話は聞いたことがない。

 転勤の時以外は長期に渡ってアパートを離れた様子はなかったと記憶している。

 当時は子供心ながら、リンカの為にずっと居てくれたのだと思っていた。


「あんまり考えた事なかったかも」


 行けば必ずリンカと共にいるケンゴは、何時でも頼りに出来る兄貴分だったという印象でヒカリの中では固まっている。


「相手の事を知るのも重要だよ。好いているならね」

「……何を言ってるのかわかりませーん。リンの様子見てくる」


 ヒカリは席を立つとコテージへと歩いて行った。

スネークイーターケンゴ

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