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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
21章 社員旅行編6 キモダメシノ夜

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245/700

第245話 ヤー!

(しば)し自由時間としよう! だが、まだレクレーションは残ってるから食事が終わっても河川敷で待機をしていてくれたまえ!」


 BBQの片付けをしているオレらに社長はそう言うとちょっとリュックサックを背負って轟先輩と共に山へ入って行った。

 オレらが暴れまわった獣道ではなく、キチンとした登山ルートをである。


「まだ何かやるのか?」

「俺は何も聞いてないけどな」


 オレは加賀と一緒にBBQで使った鉄網を川で洗っていた。

 時間は夕方になって、昼間の明かりが若干弱いと感じる時間帯。何かやるとすれば花火くらいしか思い付かない。


「社長の事だ。簡単に読める様なイベントじゃないと思うけど」

「陣取りゲームも凄まじかったな。俺は参加しないで良かったよ。役に立てる気がしねぇ」


 スマ○ラみたいな大乱戦だった。直接対決はしなかったものの、社長と七海課長を同時に相手にする事は今後は控えたいと思わせる一戦であった。


「悪いが、コイツも頼めるか?」

「あ、オッケーです。置いててください」


 七海課長から追加の鉄網が運ばれてくる。紙皿や割り箸などの使い捨てのモノはごみ袋にまとめ、熱を帯びた炭などは金属のバケツに10分ほど浸けてから捨てるのだ。


「加賀君。ちょっと良い? さっきの探知データの件を照らし合わせたいんだけど」

「良いっスけど、コレ終わってからで良いですか?」


 確か、加賀は陣取りゲーム中は中継器を持っていたんだっけ。


「おお。俺が代わるからお前行ってこい」

「え? じゃあ、お願いします」


 七海課長の提案に加賀は姫先輩と共にデータの確認へ向かった。


「それでよ、鳳。アイツらどこまで行ったんだ?」

「え? 社長と轟先輩の事ですか?」

「ちげーよ。加賀と姫野だよ」


 ゴシゴシと手を動かしながら七海課長が聞いてくる。


「オレはあんまり二人の関係は知らないですよ? なんか姫さんのアプローチが始まってたって程度で――」

「その機転となったのは沖縄旅行でしたからな。鳳殿は不在故に、状況は把握しきれていないでしょう」


 ふと、横にカメラを持ってヨシ君が現れた。


「ヨシ君……一体どこに行ったんだ? 朝から姿が見えなかったけど」

「ほっほ。社長に頼まれて皆を自然体で撮るために山の中で保護色になっていたのですぞ。旅のアルバムは期待していただければと」


 ヨシ君の事はすっかり存在を忘れていた。見ないなーと思っていたが、なんか彼ばかりに撮影の負担を任せるのは悪い気がしてくる。


「撮るのオレが代わるよ」

「お気遣いは結構ですぞ。我輩は皆の一喜一憂を見ている方が面白いですからな」


 確かに濃い面子だからなぁ。この旅行。

 と、ヨシ君がカシャリ。七海課長はきっちりVピースを決めていた。


「まぁ、本人がそう言ってんだ。言葉には甘えとけよ、鳳」

「まぁ、二人がそう言うなら」

「ほっほ」


 すると加賀が戻ってくる。


「すんません、任せちゃって。お? ヨシ君……すまん存在を忘れてたよ……」


 戻ってきた加賀は一言謝るとヨシ君は、問題ありませぬぞ、と笑った。


「七海課長。代わります」

「んな事よりも、加賀。お前、姫野とはどうなんだ?」


 おお、七海課長めっちゃ行くなぁ。オレもだいぶ気になってたので是非聞いておきたい。


「え? どうって……普通に先輩ですよ?」

「いやいや、普段から距離近いだろ? お前ら。弁当貰ってたみたいだし」

「そんなぁ。皆が考えるような関係じゃないですってぇ。あの姫さんですよ? 街中を一緒に歩いてたら5分に一回はナンパされる程の人が俺なんかに気がある訳ないじゃないですか」

「加賀……お前、姫さんとデートしたのか?」

「デートじゃないぞ? 何か外で動く用のジャージが無いって誘われて買いに行ったんだ。カズさんとヨシ君も一緒だったし」

「ほっほ。しかし、不運にもカズ殿と我輩ははぐれてしまいましたが」


 あ、これヨシ君とカズ先輩は意図的に二人きりにしたな。今の話を聞いて七海課長も同じ結論に至っただろう。


「ふーん。まぁいいや。おい、加賀」

「はい?」

「ちょっとオメー、行ってこいや」






「姫~いつまでもいじってんのさ。それ」

「データのダウンロードがもう少しで終わるから、延長コードの片付けはもうちょっと待って」


 姫野は轟と鬼灯に言われて最終チェックを終えたデータをまとめている最中だった。

 そこへ、加賀がやってくる。


「姫さん」

「んー? なに?」


 姫野は目の前の作業に視線を向けながら加賀に対応する。


「前もって言っておきますけど、七海課長からの命令で触ってこいって言われたからタッチしますね」

「んー、いいよ。…………え?」

「そんじゃ肩を――」

「え?! ちょっ! ひゃ!?」


 と、姫野は顔を赤くすると咄嗟に茨木の影に隠れた。


「おー、どうしたどうした? 二人ともー」


 事態を理解した茨木はニヤニヤしながら障害物に徹する。


「いや、だから肩を――」

「うわぁ! やらしい! やらしい手だよぉ! カズ!」

「なんでー? 普通じゃんー」

「七海課長。なんか拒絶されてる感じがしますけど……」


 加賀は後ろから事態を観測する七海を見る。


「照れてんだよ。ガーッて行け! 抱きつけ!」

「て、事なので姫さん」

「わぁぁ!」


 くるくると茨木の回りを逃げる姫野。追う加賀。なにやってんだ? と他の面子が注目する。

 すると、姫野は河川敷の壁を猫のように登り上がって行った。


「くっ駄目だ。すばしっこい!」

「おー、意外と動けるじゃねぇか」

「姫、結構運動神経いいですよ?」

「ヤー!」


 姫野は混乱から語彙力が消滅し、ヤー! と崖上から警戒するように皆を見下げていた。


「加賀」

「はい」

「来い! 持ち上げてやる!」


 七海が崖に背を向けて中腰で手の平を組む。


「了解です」

「ヤー!?」


 助走を着けて走ってくる加賀を七海はそのまま打ち上げた。


「姫さん。タッチするだけですから――」

「ヤー!!」


 上に登った加賀から逃げるように姫野は逆に下へ降りる。猫のように警戒な着地で再び茨木の影にすがり、ヤー! と加賀を見る。


「くっ……駄目だ。縦横無尽過ぎるぜ……」

「あっはっは!」


 そんな二人の様子に七海は笑い、ヨシ君はカシャリとシャッターを切った。


「ヤー!」

ヤー!

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