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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
18章 社員旅行編4 彼の傍に居たいから

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第223話 許して欲しかったら

 満月。

 夜海。

 客船。

 そして……一人――


「よく頑張ったな」


 祖父が()にそう言ったのを良く覚えている。






「――」


 おそらくソレは一秒にも満たない時間だっただろう。

 湯船に沈んだオレは鼻や口から入ってくる湯の息苦しさから覚醒。脳が緊急信号を出し、身体を強制起動させる。


「ゴハァ!!?」


 自力で浮上し、近くの岩を支えにしながら咳き込んだ。上の穴に入ってきた水分を全力で吐き出す。


「ゴホッ! ゴホッ!」

「だ、大丈夫か!?」


 リンカの心配する声。オレは、大丈夫、と手をかざすと、もにゅ。


「もにゅ?」

「――――」


 人生において最も柔らかい感触に、咳き込むのも忘れて時間が停止し、視線を向ける。


 まぁ、そう言うことですわ。リンカの母親譲りのたわわにオレの利き手がね。悪さしたわけですわ。事故と言うにはあまりにも言い訳が出来ない状況なんですわ。


「……」


 オレはフリーズするリンカのボールからゆっくりと手を離す。どうして良いのか、ホントに解らなくて彼女の審判(ジャッジ)を待った。


「……………………何か言う事は――」

「本当にすみませぇん!!」


 オレは湯面に顔面を叩きつける勢いで謝った。呂律が若干回ってなくて情けなくなったが、そんな場合じゃねぇ! とにかく謝るんだ! 誠心誠意を込めて、とにかく謝るんだ!

 オレは罪に罪を重ねた。生きたまま火炙りにされて更に槍で刺されるレベルの極刑! 後は……リンカの判決を待つしかない!


「……」


 しかし、リンカからのリアクションが無い。オレは湯面に顔を着けた状態だが、気配は消えていない所からまだ目の前に居る。ゴボコボしてたオレは、ちゃぷ……と顔を上げて様子を伺うと、


 リンカの身体は濁り湯の中に隠れ、更に背を向けている。そして、背を向けつつも腕で胸を隠していた。


「……あの……リンカちゃ――」

「こ、これで!」

「はい!」


 リンカが声を張り上げ、オレは秒で返事をする。


「フェア……って事で……」


 フェア? ……意味が追い付かない。今のタッチは……有罪? 無罪? どっちですかー!?


「あの……」

「な、なんだ!」


 オレは確かめる為にリンカの背に問わなければならない。


「フェアって……なんの事?」

「あたしが! その……――を見ただろ?」

「え?」

「ええい!!」


 そんな声と共にリンカは再び立ち上がって振り向くと、オレの肩を上から掴んで見下ろす様に告げる。


「さっき! お前の見たから! これで相殺! 終わり! 解ったか!?」

「え……あ、はい! わかりました!」


 また上半身見えちゃってますけど……。と言うと更に拗れるので湯船に沈むリンカを見送った。


「……だから……気にするな」


 沈み過ぎたリンカはぶくぶくと泡を出しなが恥ずかしそうにジト目で言う。これは……許して貰えた……のか?


「……何か……ゴメン」

「……謝るな」


 少し間を置く様にオレ達は無言で月を見上げた。






 何がなんだか……普段の羞恥心を感じるラインが今はだいぶ振り切れたと思う。

 一緒にお風呂に入るなんて、前は想像しただけで絶対無理だ! と顔を真っ赤にしてしたのだが、今は隣で彼と並んで月を見上げて居ても平気だ。


 抱き締められたり、頭を撫でられたり、背負われたり、昔から彼との身体の距離は近かった。

 しかし、直に胸を触られると言う、人生において最大の羞恥を経験した今、混浴程度、下の下だ。

 羞恥心は凄まじかったけど、特に不快感はなかった。寧ろ……彼の手は大きかったなぁ……


「……」


 月を見上げる彼を見る。その眼は現実逃避している様に死んでいるが、少しはこちらを意識してくれたのだろうか。


「あの……ホントにごめんね」


 あたしの視線に気づいたらしい。月を見上げたまま彼がそう言ってくる。


「……手を出せ」

「……はい」


 有無を言わさずに彼が従い軽く手を上げる様に湯船から手の平を出した。

 あたしは自分の手と比べた。やっぱり、彼の手は大きい。そのまま手を合わせると彼は驚いた様にこちらを見る。


「リンカちゃん?」


 合わせた手の平からの彼の体温をもっと感じたくて、彼の指と指の間にあたしの指を絡める様に握る。

 その時、彼と目が合った。


「――――」


 あたしの高鳴る心音と体温も彼の方は感じてくれてると思っている。湯の効能からかふわふわとした感覚に酔いしれる。

 そう言う雰囲気があたしを包む――


「――……そっか」


 それでも彼の心は動いていなかった。どうして良いのか、困った様子が絡める手から感じられる。

 あたしは視線を隠すように彼の胸に頭をぶつけた。


「……その……リンカちゃ――」

「やっぱり……止めた」

「え?」

「胸……触ったの……許さない」

「うぐぅ!!?」


 彼が慌てる声。少し卑怯だが、これくらいしないと彼は何も話してくれないだろう。


「許して欲しかったら」


 あたしは顔を上げて彼に言う。

 それは、懇願に近かったと自分でも思う。

 あたしの真剣な眼と言葉がどれだけ届くのかはわからない。でも……彼の心にあたしの気持ちを届けるには、聞かなくちゃいけない。


「昔……何があったのか。話してくれ」

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