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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
16章 社員旅行編2 ワイルドホース

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第204話 OKにする

「谷高さん。問題なく、証拠も人も確保しました」

「電子機器には何も触らせない様に。ヤツの持っていたスマホ等は?」

「全部押収しましたよ」


 国際警察の要請で、とある資金洗浄の捜査をチームで担当した谷高哲章(やたかてっしょう)は現場にて容疑者を確保。その後、部下に的確な指示を出す。


「三日後には海外から捜査チームが来る。それまでは現場保全に勤め、容疑者には誰も面会させるな」

「弁護士を呼べと言われたら?」

「呼ぶフリをして時間を稼げ」


 法を犯した者に対して、鉄のごとき固い意識と冷たさで判断を下す哲章は事が終わるまでは決して油断しない。


「国内に留まらない犯罪はどこから水が流れ込むか分からん」

「了解ッス」


 それならば、水の漏れる隙間を塞げば何も問題ない。

 デスクと現場の両方の側面を持つ哲章の現場入りの安定感は本庁にも何度も招集がかかる程に評価されている。当人は家族の事を考えて現在のポジションにこだわっているが。


「谷高さん。PCの映像がついていますが、消しますか?」


 部下の一人に告げられてLIVE中継されている障害馬術の映像に目をやると、


「ケンゴ君? それに……リンカちゃんも」


 知った顔が映像に映っていた。






 六回戦目『高さレベル3』。

 馬の疲労は見え始めたとは言え、タイミングと歩幅をキッチリ合わせた二人は共にパーフェクトに納める。


 六回戦の結果。

 カイ……クリア五回。

 ケンゴ……クリア五回。


 そして、七回戦目、八回戦目と低い高さレベルは共に順当に飛び越え、ドローが続く。


 九回戦目『高さレベル3』。


“オレとタローはこれから一つも落とさない”


 カイは調子の崩れないケンゴとタローの様子に奥歯を噛み締める。


 クソ! 中継の件は一旦後で考える。今は目の前の勝負に集中しなければならない。


 そして、カイはバーをパーフェクトに納め、トラックから戻る際にケンゴへ仕掛ける。


「おい、1000円ゲーム。今の掛け金は512000だ。分かってんだろうな?」


 それは、はした金と言うレベルではない。倍々でつり上がった掛け金は、九回戦を跳んだ時点で50万を越えていた。


「じゃあな」


 人間は目先の大金に手が届く範囲になるとプレッシャーを意識せざる得ない生き物だと、カイは知っていた。

 しかし、カイにとっては海外で数多の障害馬術の賭け試合を越えてきた経験からもまだまだ精神的な余裕がある。


「……そっか。50万か」


 しかし、ケンゴとタローの動きは全くブレなかった。問題なく全てのバーを跳び越えつつも、集中力は続いている。


 コイツ……!


 カイはそこでようやく気がついた。

 ケンゴの雰囲気は海外でもごく稀に見かけた、求道者タイプの人間だと。


 馬鹿な! テメェは唯の一般人だろうが! なのに……なんで、オリンピック代表で選ばれた野郎と同じ雰囲気を持ってやがる!?


「お前の番だぞ」

「……けっ」


 カイの怪訝な目に言葉を返したケンゴは既にトラックへ視線を向けていた。

 見ているのはカイではなく、自分を預ける馬と高さの変わるバーだけ。


 所詮は見せかけだ。延長戦を続ければ欠いた集中力で一気に崩れるハズ!






「ふっはっは! 面白いね! 鳳君は求道者タイプかい」


 ケンゴの集中力を見ていた黒船は、その素質を見抜き思わす笑う。

 求道者と言う、聞き慣れない言葉に轟が聞き返した。


「求道者……ですか?」

「どこ業界でも、ごく稀にいるのだよ。金も名誉にも一切の興味を示さず、ただ愚直に己の道だけを突き進む者たちの事だ。ああ言う人間を私は何人か知っているが……」


 黒船はかつて世界中を旅していた時に遭遇した彼らを思い出す。


「彼らが負けた所は見たことがない」


 だが、ケンゴの場合はそれだけでは無いだろう。


“テメェが、あの阿呆の居る組織の頭か……”


「彼が“神島”の後継者とは思いたくないがね」


 別の懸念が黒船の頭をよぎる中、十回戦目が始まる。






 十回戦目『高さレベル1』。掛け金102万4000。

 十一回戦目『高さレベル2』。掛け金204万8000。


 ソレをカイとケンゴの双方は問題なくパーフェクトで跳び越える。そして、


 十二回戦目『高さレベル3』。掛け金409万6000。


「……」


 コイツ……何なんだ?


 後攻でトラックから十一回戦を問題なくパーフェクトで終えたケンゴを見ながらカイの頭には疑問が浮かび始める。


 調子が全く落ちない。ヤツの集中力も馬の体力も。こんなに長く続けば同じように跳び続けるなど不可能だ。


 それはカイにも言える事だった。少しずつだが、バーを越えるタイミングを馬と合わせづらくなっている。このまま続けば先に落ちるのは――


「行かないのか?」

「……」


 そう声をかけられつつも、ケンゴの視線はカイではなくトラックに向いていた。

 野郎……なんでこっちを見ない……お前の相手は俺だろうが!


 それでもカイは意地を見せ、多少強引な操馬でパーフェクトに納める。


「落とさないってんなら……やってみろよ!」


 威嚇するようにケンゴに吠えるものの、彼はそんな言葉は聞こえていない様に、パーフェクトで十二回戦目を終えた。


 十二回戦の結果。

 カイ……クリア五回。

 ケンゴ……クリア五回。


「――わかっ……てんのか?」

「ん?」


 戻ってくるケンゴにカイは絞り出す様に言う。


「次は819万2000だぞ?」

「だから何だ? 行かないならギブアップか?」

「んなわけねぇだろうが!」






 十三回戦目『高さレベル1』。掛け金819万2000。

 馬の疲労とカイの集中力の乱れ。それにより、今までは問題なかった最低高さのバーでさえ、危なげなく越えていく。しかし、


「――おい」


 カイの馬が最後のバーの前で止まった。息は荒く、まるで越えることが出来ないと訴えている様だ。


「おい……行けよ! この駄馬が!」


 苛立ちから感情的になり、馬を叩く。馬は驚いて悲鳴を上げ、前足を上げるとカイを地面に落とした。


「がっ!?」


 落馬するが、カイに怪我は無い。しかし、馬は逃げる様にトラックを出て行った。


「あ……」


 それは誰が見ても最後のバーは越えられなかったと認めざる得ない状況。トラックに取り残されたカイはワナワナと震えながら立ち上がる。


「おい」


 ケンゴの声にカイは、ビクッと反応する。


「ま、待てよ! 馬は行っちまったが、俺はまだバーを通過してねぇ! 今から代わりの馬を持ってきて越え――」

「いいよ。ソレ、OKにする」


 ケンゴがカイに言ったのは最後のバーをクリアー判定にすると言うモノだった。

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