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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
1章 スモールビースト

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第20話 北斗七星の近くで輝く星

 リンカは鬼灯先輩との話を終えた。少し嬉しそうにオレに携帯を返してくれる。

 どうやら先輩との関係は良くなったようだ。


「先輩の番号、教えておこうか?」


 今後も話をする機会はあるかもしれない。同性でもある鬼灯先輩にはオレに話せない事を相談しやすいだろう。

 悔しいが、泉と会った時もオレより警戒せずに懐いてたし、同性というだけで気が許せるのは当然だろう。


「今度、ヒカリの所でバイトする事になった」


 するとリンカが夏休みの予定を告げてきた。


「本当? 夏休みだけ?」

「夏休みだけ。二日くらい」


 ヒカリちゃんと所となると雑誌モデルの件かな。


「色んな経験をするといいよ。社会に出ると絶対に無駄にはならないからね」

「それで……ボ……人手が要る」


 ボ? リンカが何を言いかけたのか気になったが言葉の続きを待つ。


「だから……予定合うか?」

「ちなみにいつから?」

「7月の――」


 それは休日申請で有無を決められる範囲ではあるが、今の作業がギリギリ終わるかどうかという日取りだった。

 


「……」

「無理か?」


 少し考えているとリンカは不安そうに聞いてくる。オレは見栄を張った。


「大丈夫だよ。その日休みを取っとくよ」


 すると、リンカは嬉しそうに笑う。

 さて、オレは悪魔に魂を売って地獄のデスロードを走りきらなきゃな。


 ん? 北斗七星の近くにあんなに光る星ってあったっけ?






「リンちゃん、ただいま~」

「おかえりなさい」


 セナが帰宅。いつものように挨拶をかわすと、夕食を用意している娘が機嫌の良い様子にスーツを着替えながら訪ねる。


「リンちゃん。なにか良い事でもあった?」

「……うん。喧嘩してた人と仲直りできた」

「それは良かったわねぇ~」


 そう言いながらセナはゴソゴソと冷蔵庫の梅酒を漁る。


「あ、ご飯出来るまでお酒は駄目。先にお風呂に入って。お湯張ってるから」


 そう言って母の背中を風呂場まで押す。


「ふむ」


 セナは服を脱ぎながら、1ヶ月前に他社から試験的に受け入れた補填要員の事を思い出した。


鮫島(さめじま)主任。少しお時間をよろしいでしょうか?”


 彼女の仕事振りは素晴らしいもので、一人で7人分の作業を効率良く捌いていた。

 派遣にも関わらず仕事効率の改善案も社長に打診し、受け入れられる程に有能だった。


“何かしら?”

“今日で私の契約は終りです。お世話になりました”

“こちらこそ~。鬼灯さんのおかげで皆少しは楽出来そうよ~”

“お役に立てたようで良かったです”

“ふふ。貴女の会社も上手くやるわね。社長も貴社とは太く関わりたいって考えてるわ♪”

“今回は私の意思で御社に来たのです”


 すると、彼女は申し訳なさそうに頭を下げると、


“リンカさんに鳳健吾君がもうすぐ帰ると伝えてあげてください”


 そして、彼女から顛末を全て聞いた。


「ふふ。皆、不器用ね」


 知らずうちに成長していく娘とその回りを支えてくれる人達にセナは心から感謝した。






「報告は以上です。明日から私も○○社の案件に正式に入ります」

「おう。ご苦労だったな」


 鬼灯は3課に戻るとオフィスでただ一人、貴社を待っていた獅子堂に報告していた。


「それで、お前の見立てだとどうだ?」

「まだ触りですが工程などは問題ありませんでした」

「それは問題だな」

「はい」


 鬼灯と獅子堂は互いに口にする言葉を全く違う意味として使用する。


「AとBの作業が完了した時点で、洗いざらいチェックされて上がってるハズだ」

「はい。製品となる最終チェックの段階でエラーが出るなど本来ならあり得ません」

「覚えのある“火種”だな」

「三年前を思い出します」


 それは会社が揺れるキッカケとなった一件。


「だな。三鷹の奴に人を割いてもらえないか聞いてみる」

「お願いします」


 今日は帰るわ、孫に腕車をせがまれてな、と嬉しそうに鞄を持って立ち上がる獅子堂に鬼灯はもう一つ提案する。


「課長。海外転勤の件ですが……今回は私を推薦してもらえませんか?」

「あー、その件だが。正直、今回はウチはパスするかもしれん」

「そうなのですか?」

「名倉の奴がな――」


 獅子堂は幹部会での事を思い出す。






「社長。一つよろしいですか?」

「いいよ、名倉君」


 ケンゴを推薦すると言った時、2課の課長――名倉は推挙して提案する。


「その件、2課から人員を出してもよろしいでしょうか?」

「ほう。鳳君は現地での三年間の経験と人間関係がある。ソレを上回る適任者を用意できるのかな?」

「人材こそが我が社の売りです。無論、今すぐにというわけではありませんが、期間までに望む人材を育てる事は難しくありません。それに、鳳君が現地の基盤を整えてくれました。それなら次は顧客の獲得が必要かと」

「ふむ、確かに一理ある。ではこうしよう」


 黒船はある提案を各課長へ告げた。






「各課から推薦者を立ててその中から社長が見るそうだ」

「それは……出さなくても良いのですか?」

「4課は免除だ。名倉のヤツは自分の課の評価をあげる事が第一に考えてる。まぁ、社長の目に止まれば、それだけで色々と優遇して貰えるからな」


 ケンゴの海外転勤の一件で3課は今年の休暇は他の課よりも優先するように指示が出ている。更に今年は有休を使い切れなければ買い取る事まで承認されていた。

 無論、その内容は課長クラスに留まる機密である。


「今年が終わるまで皆には言うなよ」

「はい。でしたら推薦の件は私を」

「そうだな。だが、良いのか? お前なら選ばれる可能性は十分あるぞ?」

「そうなったら、仕方ありません」

「ガハハ。頼もしいな」

見えちゃいけない星

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