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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
16章 社員旅行編2 ワイルドホース
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第196話 砂漠と銃の経験

 ブルル……

 オレと職員さんが馬部屋に入るとタローは威嚇するように鼻を鳴らす。耳は垂れ下がったままだ。


「ここまででお願いします」


 職員さんはこれ以上近づくのは危険と判断し、オレを止めた。


「よ、タロー。聞いたぞ。災難だったな」

「……」

「お前に乗せてあげたい子がいる。見えてると思うけど、彼女だ」


 オレは後ろで様子を見守っているリンカの事を教える。を


「何か出れない理由があるんだろ? 言葉が話せりゃ早かったんだがこれだけは言っておく」


 動物は眼を合わせるモノの内面を読む。僅かな雰囲気からソレが敵かどうかを判断するのだ。


「オレと彼女は何があってもお前の味方だよ」


 気休めかもしれないが、良い機会だぜ? あの子を乗せてあげて欲しい。


「……ブルル」

「! 下がってください!」


 タローが近づいてくる。耳は垂れ下がったままで、職員さんは下がる様に告げてオレの前に出た。しかし、オレは少しだけ呆れた。


「まったく。驚くくらい似てるな」


 タローは最後まで耳を垂れ下げたまま、じっと見ていたがそのままオレと職員さんの横を通り過ぎると馬房から顔を出し、


「……触っていい?」

「ブルル……」


 耳を立てるとリンカに首筋を触らせた。


「やれやれ……男と女の子の区別はつくんかい!」


 タローはかなり頭が良いらしい。






 動物と言うのは理性が無い分、心をそのまま表現してくれる。


「本当に乗馬の経験が?」

「はい。なので引き縄は必要ありません。タローも存分に動き回りたいでしょうし」


 それはいい。しかし、あたしはタローに乗りたいと言った事を半分だけ……後悔と言うかなんと言うか……とにかく!


「よし、行くぜタロー。第二厩舎(きゅうしゃ)へ向かってゴーだ」

「ブルル……」


 二人が座れる鞍の前にあたし、後ろに彼。そして、あたしは今……彼に背後から覆い被さられる様にタローに乗ってる。


 小柄な方が前に乗る方が馬も安定するし、景色も楽しめるとのこと。

 バイクみたいに後ろに座るモノだと思っていたあたしは……彼が背後から抱き締める程に密着してる事を強く意識してしまっていた。


「リンカちゃん。どう? 初めての乗馬は」

「た、楽しいぞ! 凄く楽しい!」


 心臓がバクンバクンだ。タローは人二人分の重さを抱えてるにも関わらず屁でもない様子。そして、後ろの彼はどう思って――


「ん? なに?」

「――」


 チラッと後ろを見上げたそれは、初めてのキスをした時と同じ構図だったと気がつく。更に脳がヒートし、咄嗟に顔を前へ。


「お、思った以上に! 楽しい!」


 誤魔化すように大声を上げる。

 前はこれでキスをしたなんて……なんて事を反射的にしたんだ! 過去のあたし、凄まじい事をやってのけたな!


「やぁ、楽しそうだね」


 あたしが、状況に眼をぐるぐるさせていると横から甘奈さんを前に乗せた黒船さんが寄せてくる。


「社長も素人じゃないですね」

「昔、旅をしていた頃に経験があってね! まぁ、あの時はラクダだったがね!」

「ってことは砂漠ですか?」

「うむ。旅の最中、エジプトの秘密結社『ゾープ』に狙われてね。ソレを追っていたインターポールのスヴェンと共に砂漠を横断し、組織の頭であるミスター・フェイスを砂漠のアトランティスで追い詰めて逮捕したのだ」

「うぉ!? なんスかそれ! めっちゃ聞きたい……」


 少し身体を寄せて彼の心音を感じてみるが……何も変わってない。


「甘奈君! 楽しんでいるかね!」

「た、楽しんでまひゅ!」


 甘奈さんはスカートなので身体を横にする形で鞍に乗り、あたしらの同じ構図で黒船さんに覆い被さられている。


「しかし緊張しているようだね! 大丈夫だ! サービスエリアでも言っただろう? 君を恐がらせる事は決して起こらないよ!」


 黒船さんは更に、ぎゅっと甘奈さんが落ちない様に肩に手を乗せる。

 あうう……と顔を真っ赤にして頭から湯気の出る甘奈さんを見て、あたしも今あんな感じかなぁ……と少しだけ冷静になれた。


「ほっほっほ。皆さん、良い構図ですぞ」


 横から職員さんが引き縄をする馬車に乗ったヨシさんがこちらにシャッターを切る。


「後でヨシ君も乗りなよ。オレが手綱を引くからさ」

「それは是非とも」

「ふむ……やはり、か。しかし……似ているが……確証が……」


 ヨシさんと同席しているテツさんはずっとぶつぶつ言っている。


「皆さん、騎乗がお上手ですね」


 職員さんの言葉に黒船さんと彼は、


「砂漠で二週間も彷徨えばね」

「そりゃ銃で狙われれば嫌でも乗り方覚えますよ」


 砂漠? 銃? と馬と結びつけるにはあまりにかけはなれたワードに職員さんは首をかしげる。


「……お前は何も感じないのか?」


 あたしは少し背を預けて彼に聞いて見る。


「そんなこと無いよ。久しぶりにテンション上がってるさ! やっぱり馬って犬と同じくらい人類の生活には無くてはならない存在だよね!」


 彼の心音はドキドキではなく、ワクワク。本当にあたしとの密着では何も感じていないらしい。


「……」

「なに? リンカちゃん?」


 後頭部で彼の胸に頭突きしてやった。すると、タローが少し速度を上げる。


「わっ!?」

「おっと。タローは走りたいみたいだ。リンカちゃん、しっかり掴まって!」


 タローの気持ちを察した彼は更に密着してくる。タローは軽快に速度を上げ、上下していた馬上は安定し、流れる風に髪の毛がなびく。


「――――」


 タローを通じて彼と一つなって大地を駆けている様な一体感。それは羞恥心を取っ払う程に幸福な事だと感じられた。


「ブルル」


 やれやれ、と言わんばかりにタローが鼻を鳴らす。

 第二厩舎が見えてきた。

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