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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
16章 社員旅行編2 ワイルドホース
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第195話 無理です

 馬に迷惑になるので厩舎(きゅうしゃ)の外に移動したオレ達にテツはあの日の――再起動した初代ユニコ君の事を粛々と語った。


「まさに一騎当千。向かい来るヤクザをものともせず、その身に凶刃を受けようとも鳴き声と共に立ちはだかり続けたのです。ユニコォーン! と」


 ユニコォーン! に馬たちが反応したのか厩舎から一斉に鳴き声が上がる。あいつら、今の話を理解しているのか? 職員さん達は、何事だ? と馬の様子を覗きに行く。


「一部の界隈で話題の一幕の真実がその様な形とは」

「鳳君……」

「はぁ……」


 何かに納得するヨシ君。

 あはは、と苦笑いする轟先輩。

 やっぱりお前だったか、と呆れるリンカ。


「鳳君」

「しゃ、社長……」


 社長が、ぽん、とオレの肩を叩く。あ、このパターンは――


「ずるいよ!」


 社長は心底羨ましそうにそう言い、詰め寄ってくる。


「あの商店街にふらりと入った私はユニコ君に衝撃を受けたのだ! あの着ぐるみが着たくて通い詰めたのだよ! おかげで良い雑貨店を見つけたが! それよりもユニコ君だ! どうすれば私もユニコ君になれる!?」

「ほほう。御仁もユニコ君に興味、が?」

「一目でファンになったよ!」

「それは素晴らしい慧眼をお持ちで、す!」


 社長はテツとユニコ君について交渉を始めた。『格納庫』に入る方法とか、イベントで着る機会は無いかとか。

 やべぇ、どんどんアクセル吹かして走っちゃってるよ。あんな意味わからんずんぐり着ぐるみの何が彼らの心を動かすのか……オレには全く理解できない。


「あの……社長?」


 オレは声をかけるが、ATフィー○ド的な何かに弾かれた。

 ユニコ君のことで他からの声が聞こえない二人。どうしたものかと考えていると、すっ、と轟先輩が前に出る。


「社長」

「甘奈君! 今すぐスケジュールを変更だ! 近い内にユニコ君のイベントがあるらしいよ! 今、テツ君に交渉してそのイベントで着ぐるみを――」

「無理です」


 轟先輩はにこりと笑う。短い言葉の中に凄まじい圧力を感じさせる。


「いや……だからね……スケジュールを……」

「無理です」

「……どうしてもかい?」

「はい」

「…………テツ君、誠に残念だが……この件は白紙で頼む」

「やや!? しかたありませぬ、な!」


 絞り出す様に弱々しい社長の言葉。

 ああ、なるほど。こうやって社長の舵取りしてるのか。しょんぼりする社長に轟先輩は、馬に乗りましょう、と手を引っ張って行った。


「持ちつ持たれつかぁ。バランス良いな、あの二人」


 轟先輩が振り回されているだけかと思いきや、キチンと占める所は占めてるようで何より。


「あたしらもさっさと選ぶぞ」

「そうだね」


 オレもリンカに言われて厩舎へ戻る。


「ふむ、良い写真が撮れますな」


 そんなオレらをヨシ君は順調に写真に納めていた。


「……ま、まさか! いや……そんな! そんなハズは……何故……西の魔王! カンナーがここに!?」


 なんかテツは普通の口調でそんな事を言っていた。






 テツと話している間に厩舎の馬は半分程に減っていた。そろそろ決めなければ徒歩で移動するハメになる。


「社長、この子にしましょう」

「ふむ。イイネ! 黒馬とは、良いチョイスだ! よし、この黒王号にしよう!」

「勝手に名前を着けたら駄目ですよー」


 オレは轟先輩と共に馬を選ぶ社長に遠くからツッコミを入れる。すると、リンカから、


「ちょっと」

「ん?」


 オレは手招きで呼ばれたので乗る馬を決めたのかと、一番奥の馬部屋を覗く彼女の元へ駆けつけると、


「あの子、病気なのか?」


 馬部屋の奥に引っ込む様に居る馬を気にかけていた。


「多分違うよ」


 耳を垂れ下げてオレらを警戒しているが立ち方はしっかりとしており、震えてと言うよりも、遠ざけてる感じだ。

 ああ言う馬はこちらが怪我をする可能性があるので、職員さんに知らせておこう。


「あ、タローを選びますか?」


 すると、最初に厩舎を説明してくれた職員さんがこちらに気づき声をかけてくる。


「タロー?」

「あの子の名前ですよ」

「タローは何か病気です?」

「いえ……ちょっとトラブルがありまして。少し人を怖がっているんです」


 でも、全く人を乗せないわけじゃないんですよ? と捕捉してくれた。

 馬は人間と比べてかなりシビアな神経をしてる。避けているのなら、オレらが目の前に居続けるだけでもストレスだろう。


「あの……タローに乗れませんか?」

「それは……難しいかもしれませんね」

「……そうですか」


 何を思ったのかリンカはタローに乗りたかったらしい。無理意地は良くないと悟った彼女は名残惜しそうにタローと眼を合わせる。


「……あの、少しタローに触ってもいいですか?」


 オレは少し諦め悪く行動してみる。


「危険なので、駄目です」

「タローのトラブルは人身事故関係ですか?」

「お答えしかねます」

「……でもタローってオレたちを怖がってないですよね?」


 タローの様はフォスター牧場で日常的に走り回る馬と同じ雰囲気を感じる。走ることが好きでたまらない。けど……と言った感じだ。


「……そうかもしれませんね」

「タローは危険な馬ですか?」

「! それは違います!」


 職員さんの否定。色々と事情を知っているのだろう。


「声を荒らげてすみません……タローは今日は厩舎から出てきません。他の子を選んでください」

「なら、タローと話をさせてください」


 動物と話すなど、荒唐無稽も良い所だ。しかし、職員さんはオレが何を言いたいのか理解しているハズ。


「そんな馬がいると知られれば他のお客さんは他の馬に対しても不信感を持たれるでしょうね」


 オレは少しだけ卑怯な手を使う。最初は無視をしようと思ったが、タローは似てるんだよなぁ。


「……わかりました。但し、私も付き添います」

「是非」


 と、仕切り棒を上げて馬部屋に入る。その時、リンカがオレの服を掴んだ。


「……タローはいいよ。お前が怪我をするかもしれない」

「リンカちゃん。タローはね、君を乗せたいと思ってるよ」

「……何でわかるんだよ」

「昔、同じような雰囲気をしたヤツがいた。気を使って遠ざけるだけじゃ駄目なんだ」

「……そいつは……どうなったんだ?」


 リンカの問いにオレは自信を持って答える。


「ハルサは今でも良い相棒だよ」

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