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懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話  作者: 古河新後
15章 社員旅行編1 始まりの朝

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第191話 エンドレススリップ

「何だ? テメぇは」

「ふむ。君はその筋の人間だね? しかし、些か自分本意過ぎると思わないかい?」


 サングラスをアロハの胸ポケットに仕舞う社長は怒りゲージMAXの仮屋殿へ歩み寄る。身長と体格は仮屋殿の方が大きい。対して社長からはファイターのような雰囲気を感じない。

 オレとしてはどうしたら良いのかちょっとわからない。七海課長は静観しているし、同じ様に待機で良いのか?


「七海君」

「しゃーねぇな。譲ってやるよ」

「鬼灯君」

「録音はしてます」


 スマホを掲げて、これまでのやり取りを全て録音していた様子の鬼灯先輩。それを見た仮屋殿は、


「何録音してやがる!」


 鬼灯先輩へ矛先を向けようとして、


「見移りの激しい男だ」


 どすん、と社長に尻を着くように転ばされた。え? 今のどうやった?


「おや? 転んでしまったね」

「テメェ……」


 再び矛先を社長に向ける仮屋殿。立ち上がると、そのまま殴りかかり――


「んが!?」


 また、どすん、と尻から地面に落とされる。


「おや? また転んでしまったね」


 見下ろす社長は不気味な程、同じトーンでそう言う。金田さんと同型なんですか?


「あ、あれは!」


 その時、野次馬の一人が声をあげた。


「『アンダーウォーカー』の黒船正十郎くろふねせいじゃうろう!?」

「え? またそのパターン?」


 どっかで聞いた台詞と状況にオレは思わず聞き返す。


「アマチュアカバディチーム『アンダーウォーカー』の結成者! 更にチームの司令塔にして絶対的な攻撃手にして鉄壁の不落艦! 場にいるだけで相手は攻めも守りもたじろぎ、更に相手の守備を一気に瓦解させる砲撃のごとき攻撃! それ故に名前からも『戦艦』の異名を持つ! 日本選抜にも必ずと言って良いほどに招集されるが……仕事の都合で毎回の参加は叶わない。しかし、それでも世界組の一人としては最も活躍しているお方だ! 世界組1番!」


 わぁ、凄い早口だ。さては、この説明君はあの時夏祭りにもいたな? それにしても、カバディってそんなに凄いの?


「ちっ、アイツ。引き出しが増えてやがるな」


 昔からの社長を知る七海課長は何かを察した様だ。他称、海外傭兵の仮屋殿が容易く転ばされてる現状を見るに社長は相当なやり手だったらしい。


「ガヤガヤうるせぇ外野共だ……」


 仮屋殿は全てが面倒になったのか、ポケットに持っていたのかナイフを取り出した。


 きゃーと悲鳴を上げる野次馬達。オレと七海課長とカズ先輩は後ろの非戦闘員を護るべく前に出る。


「少しは理性を働かせたまえ。こんな所で凶器を出したら収拾はつかないよ?」

「知るかよ……」


 社長は全く怯んでないが、あのナンパ三人衆は流石に言葉を失っている。


「テメェを殺せば良いだけの話だ」

「ふむ。困ったものだ」

「今さら命乞いは――」

「君は人ではなく動物だね。逃げた猛獣は檻へ入れなくては」

「死ねや!」


 ビュッ! とナイフの切っ先が社長の顔面へ動く。速い。仮屋殿の動きは武器の扱いに熟達した動き! 社長ぉ!


「んが!?」

「おや? またまた転んでしまったね」


 なんか、見ていて面白いように仮屋殿は転ける。自分の体重を三回も尻で受け止めて、流石に動きが鈍っていた。


「テメェ! ぶっ殺――」

「どれ」


 立ち上がろうとする仮屋殿の先を捉えて、とん、と軽く押す。すると、仮屋殿はコテン、と転んだ。


「……ちっ、感情的になるまでもねぇってか」


 何故か七海課長は負けた様にそんな言葉を出す。達人の眼から見て、技術以上の何かを悟ったらしい。


「この……」

「ほい」

「ふざけ――」

「それ」

「止め――」

「でや」


 仮屋殿は立ち上がれなくなっていた。正確には立ち上がろうとする度に社長が動きを制し、その度に転ばしているのだ。


「凄いなー、社長。完全にお手玉じゃん」


 カズ先輩にも社長の技術は凄まじいと見えるらしい。


「クソ……が……」

「まだやるかね? 尻は無事かね?」

「お前ら! 何見てやがる! コイツをやれ!」


 地面から膝から上を持ち上げられない仮屋殿はついに三人衆に指示を出す。

 俺らの出番か。と、七海課長とカズ先輩は眼を光らせて前に出た。オレは……見てていいですか?


「おいおい~」


 しかし、三人衆の方にも別が絡んでいた。


「あ……!」

「あんたは……!」

「み、箕輪……さん!」


 彼らの後ろからその肩に手を、ポンと乗せ、ねちねちとした口調と共に登場したビィラン顔の笑顔が素敵なお方は……箕輪さんだ!(集中線有り)


「お前ら~、折角、寺井の所に三年で手を打ってやったのによぉ~。檻に行きてぇのかぁ?」


 そう言えば、駅の最後は箕輪さんに連れられてたな、この三人。警察には行かず何らかの取引があったようだ。


「「「……」」」


 先生に隠れて煙草を吸っていた所を発見された不良の様に唾悪く黙り込む三人。相変わらずパネェよ! 箕輪ライダー!


「お前ら……なにやって――」

「社長、大事ですか?」


 真鍋課長もキター! よくわかんないけど、相当に頼もしい!


「ああ。甘奈君が殴られてね。ついでに彼は凶器を出した」


 凶器の方はついでですか……


「……傷害未遂ですね」

「婦女暴行に恫喝もある。証拠も録音しているし目撃者も多数だ」


 真鍋課長は社長に促されて録音のスマホを掲げる鬼灯先輩を見る。


「ふざけんな! もとはと言えば、その女がコーヒーぶっかけたからだろうが!」

「ふむ。しかし、その時はすぐに謝ったよ。先に彼女に手を出したのは――」


 コテン。ついに膝立ちさえも許されなくなった仮屋殿は仰向けに倒される。


「君だろう?」


 その眼は相手を見下す様な眼ではなく、永遠にそうしていたいかね? と言う怒りの混ざった視線だった。

 冷静に見えて、内心はブチぎれてらっしゃったんですね。それにしてもやり方が完全に相手の心をへし折るやり方だ。

 永遠に立てないとか、RPGでも詰むレベルのバグ現象である。


「お……お前ら……」


 仮屋殿はそれでも立とうとする。コロン。でも立てない! とん。また転んだ。逃げても追いかけては、とん、コロン、どすん、とエンドレスに転ばされる。そして、


「や、止めろ! 止めてくれ!」


 ついに心が折れちゃった。仮屋殿は立ち塞がる社長に武器を持っている事も忘れて許しを乞い始める。


「あの……そこまでにして貰えますか?」


 すると、騒ぎに駆けつけた高速機動隊(警察)の方々が社長にストップをかけた。

 おかしい。危ないのは仮屋殿の方なのになぁ。


「お勤めご苦労様です! 見ての通り、武器を持ってる危険な方でしたのでね! 警察の方々がくるまで抑えておきましたよ!」


 明らかに社長が虐めてた様にしか見えないが……まぁ、仮屋殿は凶器を持ってたし、危険な発言の録音もあるし、轟先輩が殴られたわけだし。


「武器を離しなさい」


 警察の言葉に仮屋殿は観念した様子でナイフを押収され、車に連行された。確実に逮捕だろう。

 ついでに三人衆も一緒に連行された。

仮屋と三人衆はこれで退場の予定

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