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第189話 見逃すから、消えなさい

「それで、6月の後半から髪を切って少し雰囲気が変わってね」

「そう言えば前の写真集では髪が長かったですよ」

「谷高のトコの雑誌かい?」

「はい、8月の特別号の前のヤツで――」

「鳳君。ちょっと良いかな?」


 リンカの事で花を咲かせていると、金田さんの掃除を手伝っていた社長が声をかけてくる。オレは箕輪さんに断って立ち上がると出口へ。


「どうしました? 飲み物でもご所望です?」

「いや、あれを見たまえ」


 そう言う社長の視線を追うと、トイレの近くでリンカと鬼灯先輩と泉が絡まれていた。


「大丈夫だと思うかね?」

「あー、ちょっと行ってきます」

「うむ」


 泉の奴が間違いなく噛みつくだろう。






「……」

「君たち可愛いね。家族? 旅行? ちょっと教えて欲しい場所があってさ。あっちの車で地図を見てくれない?」


 泉は現れた坊主頭の男三人をジロリと見ると、ナンパ目的であると瞬時に悟る。


「……どっかで見たことあるなぁ」


 と、リンカはナンパ達を見たことがある気がした。しかし余計な事はせず、泉に任せる形を取る。


「はぁ……いいわよ、あんたら」

「お? なに? 妹さんは来てくれる?」

「見逃すから、消えなさい」


 見逃すから消えろ。なんてリアルに言う状況があるんだなぁ……とリンカは思った。

 しかし、男達は眼を点にして、次には冗談のように笑う。


「ははは! 怖がんなくていいぜ」

「そーそー、俺らは紳士だからさ」

「地図見てもらうだけだって」

「もう一度チャンスをあげるわ。見逃すから、消えなさい」


 二度目の呆れたような泉の言葉に男達は表情を変える。


「下手に出てやりゃふざけやがって……」

「ガキが……」

「でかいのは胸だけにしとけよ……」


 威嚇する様な男達に対し泉は全く怯む様子はない。寧ろ、はん、と鼻を鳴らし、


「女に飢えてるなら自分で腰と手を振ってなさいよ」

「テメ……この……アマ……」

「お前ぇの態度よりもデケェ胸を使ってやるよ……」

「泣いても許してやんねぇからな……」

「どうしたの? 泉さん」


 そこへ、ハンカチで手を拭きながら鬼灯が現れた。


「あ、詩織先輩♡。なんでもありませーん♡。虫に声をかけられただけでーす♡」

「「「あああ!?」」」


 威嚇状態から可愛らしく猫なで声を出す泉。鬼灯は二人と男たちを見て瞬時に状況を察する。


「ごめんなさい。私のお友達が少し不快な事を言ったみたいですね」


 ペコリと男たちに頭を下げる鬼灯。泉は、な!? 虫に頭を下げなくていいですよ! と喚く。

 男たちは美女の鬼灯が下手に出る様子に、ニヤリ、と笑みを浮かべた。


「そーそー。俺ら傷ついちゃってさ」

「ありもしないことで罵倒されて、精神的にネ」

「あんたが代わりに俺たちの頼みを聞いてくれない?」


 ガキに用はねぇ。と言わんばかりに鬼灯を取り囲む。今まで見たことのない上玉だ。絶対に逃がさねぇ。と言う鉄の意思を共感させる。


「ごめんなさい。私達は今、旅行中なんです」

「大丈夫大丈夫。ちょっと地図見て貰うだけだからさ」

「そーそー。あっちの車でね」

「すぐ終るって」

「あんたらね……」


 泉が本格的に牙を向けようとした時、


「おい! 待て! ちょっと待て待て! お前ら!」


 ケンゴが慌てて走ってきた。






「来るの遅いわよ」


 オレがその場に駆けつけると泉のヤツは呆れたように言ってくる。


「お前は黙ってろよ」


 泉が口を開くと、蝋燭の火にガソリンをぶちまけるが如く収拾がつかなくなるだろう。


「お前たち! ナンパのお前たち! その人を囲むな!」

「ああ!?」

「なんだテメぇ」

「男はお呼びじゃ――ああ!?」


 と、男の一人が声を上げる。オレの事を知っている様子だ。ナンパの知り合いなんて居ないと思うが……あ。


「お前ら、夏祭りと駅で絡んできたヤツらか。性懲りもなくまだこんなことやってんのか」


 それはリンカとヒカリちゃんに強引なナンパをしていた、ピアス、ロン毛、タトゥーの三人だった。坊主頭になっていたから気がつかなかった。ロン毛に関しては、もうその呼び名は使えないな。


「テメぇは……ライダー野郎!」

「修行中、テメェを潰す事だけを考えてたんだ……」

「逃がさねぇぞ、オイ」


 オレに意識が向いた瞬間に鬼灯先輩は、すっと泉達の側へ移動した。


「どっかで見たマヌケ面だと思ったら仮面ラ○ダーにボコボコにされたアホどもじゃない」

「だから! お前黙ってろって!」


 もー、止めてよ泉ぃ。会話が出来る状態にしておかなきゃいけないんだってば!


「お前ら、悪いことは言わねぇ。今すぐ逃げろ」

「なんだコラぁ」

「女の前だからって意気がってんじゃねぇよ」

「お前の事、今からぶっ殺しますからぁ」

「いや、お前らの為を思ってだな――」

「おんや? 何かトラブル?」


 そこへ、姫さんとカズ先輩が合流。戦力的にはまだ弱いか……


「泉ちゃん、どうしたの?」

「姫先輩。このクズどもが話しかけて来たんです」

「泉さん。少し言葉を抑えましょ」

「そんなことをしたら付け上がるだけですよ! 詩織先輩!」

「なになに? 鳳。楽しそうだね」


 カズ先輩が前に出て来る。確か武術やってるんだっけか。槍だけど。


「あ? デカブツは引っ込んでろよ!」

「は?」


 デカブツ。その言葉に反応したカズ先輩はピアスの顔面に猛禽類が獲物を捕まえるか如くアイアンクローをかけた。

 身長180越えのカズ先輩。禁句はデカブツか……絶対に言わないと思うが気を付けよう。


「割れるぅぅ!」

「誰がデカブツだ、ピアス野郎。その金属の葡萄、1個ずつもぎ取ってやろうか」

「茨木さん。ちょっとだけ気持ちを抑えましょう」


 鬼灯先輩の天使の声にカズ先輩は少しだけ溜飲を下げた様子だった。チッ、と舌打ちするとアイアンクローを解除する。普段は親しみ易いなだけに怒るとカズ先輩こえー。


「お前ら……なにやってんだ?」


 そこに現れたのは敵の増援だった。筋肉質でいかにもヤクザさんな風体。入れ墨が半袖の肩から覗いてますよ。


「か、仮屋さん!」


 仮屋と言う男の登場に三人は、ぱぁ! と明るくなる。


「仮屋さんはなぁ! 寺で知り合った俺らのアニキだ!」

「海外で傭兵経験もあるスゲーお方なんだぜ!」

「オラ! 皆殺しにされたくなかったら、全裸で土下座しろや!」


 おーおー、いきなり強気になりなさる。しかし、仮屋殿は確かにただ者じゃ無さそうだ。でもこれだけ騒がしくなれば――


「お前ら、なにやってんだよ」


 七海課長が来ちゃうんだなぁ。これが。

邂逅

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