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第186話 半ズボンの金田さん

「リンカちゃん、窓際じゃなくていい?」

「詩織さん達と話をするからいい」


 通路側に座るリンカは女性陣とはかなり仲良くなった様子。彼女は元々人に好かれやすい雰囲気をしているし、自分からも積極的だ。


「絶対に退屈はしないと思うよ」

「もう楽しいぞ」


 通路を挟んで隣の鬼灯先輩とまた話を始める。

 普段のイロモノな方々に他社からも一名追加されている。今回の社員旅行は色々とカオスになりそうだぜ!


「全員、注目してくれ!」


 先頭の席に轟先輩と座る社長が立ち上がり声を上げる。すると、隣には運転手の人がニコニコ笑顔で立っていた。


「彼は運転手の金田さんだ! 此度の我々の送迎をしてくれる事になっている! この道30年のベテランの方である!」

「金田です。よろしくお願いします」


 よろしくお願いしまーす。と全員が声を揃えて挨拶した際、金田さんが半ズボンな事に気がついた。


「……え? 半ズボン?」


 スーツやネクタイ、運転用の白い手袋に帽子まできっちりしているにも関わらず、半ズボンで太股と上げた靴下までを晒している。


「諸君らの言いたいことは解るので先に説明しよう! 金田さんは何故か半ズボンだ! これに関して彼からの説明は全くない! 何が彼の闇に触れるのか解らないのでこの件に関しては無視するように!」

「普通に怖ぇよ……」


 七海課長がしっかりとツッコミを入れ、早くも不穏な空気が漂ってきた。

 金田さんは相変わらずニコニコ。逆にそれが恐ろしい。


「金田です。よろしくお願いします」


 そして、録音を繰り返し再生している様なトーンで全く同じことを言っていた。

 金田さん……実は政府の秘密ロボットだったりしない?






「~♪」


 移動中にも雑談は続くが、それでも席の範囲のみに留まるので、カラオケをする事になった。バスにはスマホの音楽を流せる最新型が搭載されている。


「♪~」


 今歌っているのは轟先輩。最初は断っていたが社長の、笑わないよ! と言う言葉に少し恥ずかしそうに歌い出し、慣れた中盤以降は綺麗な歌声を皆に披露する。


「アイツ、スタートさえ決めれば何でも出来るんだよな」


 七海課長はやれやれと笑う。

 引っ込み思案な性格に隠れた高スペックを披露する轟先輩。彼女を引っ張る社長のイケイケな性格はベストパートナーなのかもしれない。


「いい声でしたよー!」

「ずっと聴きたいっス!」


 歌い終わり、拍手の中、泉と岩戸さんが称賛する。

 可愛いな。ああ、ヤベェぜ。と後ろの席の佐藤と田中の声が聞こえる。ヤツら品定めしてやがる。


 歌い手の轟先輩はペコリと頭を下げて社長にマイクを返した。


「さぁ、甘奈君を越えられる者はいるかな! この美しい歌声をね! 私もちょいちょいプライベートで聴いているが、彼女は歌うと寝つきが良い――」

「つ、次! ケイちゃん! ぱす!」


 轟先輩は慌てて社長からマイクを奪取すると、七海課長へマイクを経由する。

 んだよ、公開惚気を聞かせろよ。などと言いながらマイクを受け取った。


「よっしゃ! お前ら俺の歌を聴いて寝るんじゃねぇぞ!」


 と、七海課長はノリノリでポップ調の曲を歌う。


「♪ーッ! ♪ーッ!」


 普通に上手ぇ。やっぱり鍛えてるだけあって肺活量がすごいな。

 歌い終わるとライブが終わった様な高揚感に包まれた。良い意味で次の歌い手は歌いやすいだろう。


「ほい、シオリ」


 拍手の中、次のバトンは隣の鬼灯先輩に渡った。


「あら良いの?」

「歌え歌え」


 テンションの上がっている七海課長からマイクを受け取り鬼灯先輩は立ち上がる。そう言えば先輩の歌声を聴くの初めてだな。


「なんか凄そう」

「オレも初めて聴くよ」


 リンカも少し緊張しながら見ていた。

 仕事終わりに同期でカラオケ行く際に誘っても、なんやかんやで断られてたし。

 普段からの麗しい声で皆に語りかける鬼灯先輩の美声。音痴でも普通に許容できるぞ。


「ん? 真鍋課長?」


 すると、視界の端で真鍋課長の雰囲気が変わった。後ろに座るヨシ君からイヤホンを渡されている。隣に座る箕輪さんも。


「なにやってんだろ」

「おい、静かにしろ」

「歌うぞ」


 一言一句聞き逃したくない様子の佐藤と田中から注意される。録音してそうだな、コイツら。


「♪ー」


 歌が社内に響く。それは美しいを通り越えて芸術の領域だ。バスの中からまるで歌の世界に迷い込んだ様な美声はその世界に虜にする程の魅力を振り撒く。


「――んん?」


 しかし、そんな夢はキーンと言う耳鳴りと共に少しずつ現実に引き戻された。


「あ? なんだ? こりゃ……」


 耳の良い七海課長も異変に気がつく。耳をつつく様な高音が車内に響いていた。


「う……なんか頭痛いなぁ……」

「……俺もだ……」


 最後尾に座るカズ先輩と国尾さんも少し目を伏せて苦しむ。


「なんだろ……歌声は120点なのに……」

「かき氷一気食いした感じだ……」


 姫さんと加賀も同じ現象に悩まされていた。

 鬼灯先輩は曲に集中し、歌唱を続けている。その間も謎の超音波は車内の面子を苦しんだ。


「聴きたい……でも頭が……」

「天国と地獄が同時に見える……」

「音波兵器ってこんな感じか……」


 泉、佐藤、田中もダウンした。


「なんスかこれ……」

「絶妙な……音程が害を及ぼしてるのか……?」


 岩戸さんと鏡子さんも顔を歪め出した。


「ふむ、どうやら……特定の成体にのみ効果のある音波のようだね! 恐らくは狭い空間故に音が反射し効果が増幅されている様だ! はっはっは! この身体で得をしたのは今回が始めてだな! いい歌声だぞ! 諸君!」


 平然と歌を楽しむ樹さん。


「社長……み、耳栓を……」

「すまないね……甘奈君……」


 轟先輩は不意打ちのような歌声攻撃に苦しむ社長に耳栓を当てていた。


「皆大丈夫かなぁ……」


 歌よりも苦しむ皆を気にかけるリンカ。どうやら彼女の年齢までは影響が無いらしい。

 ちなみにオレはジジィの地獄特訓(デスレッスン)のおかげで音の聞き分けが出来る様に仕込まれている為、ダメージは軽い。


「ふぅ……。? どうしたの? 皆」


 歌い終わった後、参加者の八割が、ぐでーとダウンしている様子に鬼灯先輩は不思議そうだ。


「良い歌だった」

「相変わらず最高ですねぇ」

「耳の保養になりますぞ」


 と、コレを知っていたのか。4課の面子は拍手をし、オレとリンカも苦笑いしながらそれに続いた。ちなみに金田さんは平然と運転している。事故を起こされても困るが……ノーリアクションとは本当に何者なんだ……


「それじゃ、次はリンカさん。はい」

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