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第183話 定員割れ

「……マズイか」


 社長室にて、社長の黒船正十郎は珍しく額に手を当てた。彼の傍らには一つの資料。それを見ての苦悶である。

 するとノックが鳴る。入室を許可すると秘書の轟甘奈が入った。


「失礼します。社長、後期定例会のスケジュールをお持ちしました。各支部への移動と宿泊。それにかかる費用と日程を推測した物です。ご確認を」

「……甘奈君。少々、マズイ事が起きた」


 今までにない神妙な面持ちの黒船に轟は、とてつもない問題が発生したのだと息を飲む。


「な、なにが起こったのですか! まさか……火防先生が……手を――」

「甘奈君。君はこれをコピーして、各課の課長へ渡してくれたまえ」


 黒船は自分で作った一枚のチラシを轟に渡す。


「――これは……」

「事は一刻を争う。私は他社に交渉してみるよ」






「え……今なんと?」


 昼休み。

 食堂で獅子堂課長と相席をしつつ、その件を聞いたオレは思わず聞き返してしまった。


「10月上旬の社員旅行の件はな。このままだと定員割れで中止だ」

「バカな……そんなに皆、関心がないんですか?」

「それもあるかもしれんが……タイミングも悪いんだろうな。俺はルリの運動会で参加出来ねぇし、10月は年末に向けて色々と重なる事が多い時期だ」

「獅子堂課長みたいな事情はわかりますけど……でも最初は決行だったじゃないですか」


 早くに旅行メンバーが公開され、その中に鬼灯先輩や姫さんの名前があった事から中々な撒き餌だったハズ……


「最近、男の参加者も公開されただろ?」

「……ええ。オレはまだ見てませんけど……まさか」

「国尾の名前があるぞ」


 獅子堂課長の話では社内のお知らせメールにて、現状の参加者を公開したところ、なんやかんやでキャンセル者が続出したと言う。特に男。


「……そんなに露骨に避けます?」

「さっきも言ったが、それだけが原因じゃねぇ。各々で事情もあるんだろう。社長も無理意地はしないスタンスだし、ドタキャンされても仕方ないって考えてるからな」

「はぁ……ソウデスカ」


 参加人数が少なすぎて中止かぁ。

 なーんかやる気失っちゃったなぁ。凄い楽しみだったのに……


「まぁ、そうしょげるな。状況を見ても参加の意思を曲げない面子に個別で伝える様に言われてる事がある」

「ナンデスカー?」


 オレはモチベーションがすっかり無くなってしまい、失礼ながら少しだけ不貞腐れていた。


「参加者の身内を一人から二人、同行をさせても良いそうだ」

「……え? 本当ですか?」


 獅子堂課長の言葉に思わず聞き返す。


「元は社内の繋がりを強める為の旅行だからな。中止はあまり良い傾向じゃない。それに、当人の身内の同士で繋がりが出来るのも会社としては悪くないって判断らしい。お前の所のリンカちゃんもそう言うのがあった方が後々は良いだろう?」

「なるほど」


 オレは息を吹き返した。定員割れを起こしてるなら家族の参加がオーケーか。


「ケンゴ。アイツは呼ぶなよ」

「絶対呼びませんよ」


 ジジィが居るだけで並みの人間では息が出来ない。怖いおじいさんには野山を走り回ってもらおうねー。


「呼ぶとしたら……シズカくらいかなぁ」


 ノリが良い身内と言えば後は、ヒカリちゃんとかダイキとか……


「リンカちゃんは……無理かもなぁ」






「あたしは無理だぞ」

「ですよねー」


 その日の帰宅後。オレはアパートの廊下でリンカに社員旅行の件を持ちかけたが案の定、無理だと言われた。


「お母さんの事もあるし、3日も家を開けるのは無理だ」

「わかってます……」


 鮫島家の事情は重々承知だ。セナさんは一人にすると部屋の中は台風が通過した後の様に凄まじい事になる。

 その時、LINEの着信。見ると他の身内からも返信が来ていた。


「他の皆もダメか……」


 シズカは親が許さなかったのでダメ。ヒカリちゃんは撮影。ダイキは練習試合があるらしい。


「くぅぅ……」

「そんなに行きたいのかよ」

「そりゃあね。こっちに戻ってきてから初めての社員旅行だし。横の繋がりって結構重要なんだよね」


 無論、楽しむ気は八割なオレ。社員旅行なんて修学旅行の大人版だ。


「引率の先生がいない修学旅行なんだ。中止になんてさせてやんねー」

「まぁ、頑張れよ」


 しかし、他に頼れる身内となれば……うむむ……ばっさまは喜んで来そうだけど……オマケでジジィも付いて来そうなんだよなぁ。

 なんやかんやで、ばっさまが口車に乗せて連れてきそうで。


「うむむむ……」


 オレが悩む横でリンカは嘆息を吐く。


「あら~部屋の中に入らないの~?」


 そこへセナさんが帰宅。階段を上がってくる。オレとリンカは、こんばんは、お帰り、と各々彼女へ声をかけた。


「ご飯の用意あるから、じゃあな」

「引き留めちゃってごめんね」


 各々の夜飯の準備にこの場は解散。他の人に期待するしかないなぁ。


「あ、リンちゃん。お母さんね~今度の連休は出張になったから~」

「え?」

「本当ですか?」


 部屋に身体半分入っていたオレは戻って聞き返す。

 セナさんはオレらの反応に、どうしたの? と頭に疑問視を浮かべた。

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