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第181話 洗いっこ

 目の前の事に集中し過ぎると時間が飛んだ様な感覚に陥る。

 水間さんと水泳で競争したときもそうだった。

 手足を動かして、気がつけばゴールにいて、彼女はまだ後ろにいた。






 ヒカリ水分300/500

 国尾HP700/900


「厄介なモンだよ! まさか……ここで遭遇するとはね!」


 国尾は、わっ! と笑う。


 国尾HP700/900→800/900(愛を変換)


「――」


 勝負はついた様なモノだった。

 数値的に国尾を負かす事は不可能。彼の体力は愛が有る限り尽きる事はない。

 最初からヒカリに勝ち目はなかった。しかし、一つ思い出して欲しい。


 これならば何故国尾は一敗しているのか?


「――答えは、どっちにあるかしら?」

「ほっほう! 何を悟る?」


 ヒカリ水分260/500

 国尾HP750/900


「貴方が負けた理由」


 ヒカリが静かにそう口にすると国尾の心音がドックンと響く。


 国尾HP650/900


「ほ……」


 国尾HP650/900→690/900(愛を変換)

 ヒカリ水分240/500


「谷高くん。君は勝てないよ。さっきも言っただろう? 一日の長があると」


 ゴウッ! と国尾は輝き出した。


「! あんたもっ!」

「ヒーターズハイ。俺にここまで出させるとはね。課長以来だよ」


 ヒカリの純粋なゾーンと違い、国尾のヒーターズハイは擬似的なゾーン。性能は劣化であるが、それでも国尾には愛による変換がある。


「くっ……」


 ヒカリ水分160/500


「動揺したね」


 国尾HP660/900


 先にゾーンに入ったのはヒカリの方であり、必然と先に終わる。そしたら――


「秒読みに入ったよ」


 ヒカリ水分90/500


 ゾーンが……切れた――


「ほ」


 国尾HP600/900→650/900(愛を変換)


「あんたは……わたしのいる場所を水溜まり……と言ったわね……」


 ゾーンの切れたヒカリは意識も途切れ途切れに何とか声を絞り出す。


「水溜まりは……雨が降らなきゃ出来ない……それは恵まれた大海よりも刹那の……環境……」


 ヒカリの闘志は最後まで一切の陰りなかった。


「生半可じゃないわよ……この刹那は!」

「……ほっほう。ようやく、足り得たか! それでこそ――」


 国尾からのその言葉を最後にヒカリは意識を失った。






 冷たい。

 全身が冷やされる感覚は深く沈んだ意識を呼び起こすには十分だった。


「ヒカリちゃん!」

「……ダイキ?」


 ヒカリは水風呂にて、自分を抱き抱える様に共に浸かり、声をかけてくるダイキを見る。


「よかった……死んじゃったかと思った……」

「アイツ……は?」

「国尾さん? 先に帰っちゃったよ。伝言があるけど聞く?」

「別にいい」


 冷静に考えてみればわたし……何やってんだ? 倒れるまでサウナに入るなど正気の沙汰ではない。今だって、ダイキに抱えられて水風呂に――


「――ダイキ」


 無論、タオルなど巻いていない。


「むこう向いて」

「あ……ごめん」


 パッと離れるとダイキに背中を向ける。心臓が速鳴るが、水風呂による冷却で相殺している。

 考えてみれば……今の状況って……混浴状態なのでは?


「ぼ……僕、先に上がるね!」


 それは当然の動き。しかし、外で国尾が待ち伏せている可能性を加味するとダイキ一人で上がらせるのは危険だ。


「待って」

「え?」


 咄嗟に呼び止めるが覚醒したばかりの頭では次の言葉が中々出ない。あー、えっと、と必死に国語力を総動員して、


「髪……洗うの手伝いなさい」

「あ……うん……わかった」


 水風呂から出ると、近くの椅子に座ってシャワーのお湯を出す。

 背を向けて座っているが、タオルを無くしたヒカリの身体は白く細い。それでいて、引き締まっているのだから、異性を魅了するには十分であった。


 ……同じ人を二度も好きになるんだなぁ。


「……ぼさっとしない」

「は、はい!」


 思わず見惚れていたダイキは、なるべく見ない様にヒカリの指示に従って後ろ髪に触れる。

 ワシャワシャとシャンプーの泡と丁寧に髪を洗うヒカリの指示以外は無言で淡々と進む。

 しかし、二人の心臓はマラソンしているかの如く動いている。無論、ずっと顔は真っ赤であった。

 コンディショナーをシャワーで丁寧に流す。


「……鼻は大丈夫?」

「え、あ、うん。鼻血は止まったよ」

「そう。よし!」


 と、ヒカリは後ろ髪を結い上げると立ち上がった。お尻を凝視しそうだったので、ダイキは咄嗟に眼を反らす。


「ほら、座って」

「え?」

「髪、洗ってあげるから」


 いつの間にか背後に回ったヒカリはダイキに着席を促す。ダイキの髪はそれほど長くないので、一人で洗うのも手間ではないが、


「おねがいします……」


 断ると言う雰囲気ではないと察し、さっきまでヒカリの座っていた椅子に座った。

 ヒカリの細い指がシャンプーを泡立て、丁寧に頭を洗う感覚はとても心地よかった。


「ダイキ」

「なに?」


 お湯で泡を流し、コンディショナーに入った所でヒカリが聞く。


「何か言うことない?」

「え? えっと……」


 下手な回答はマズイと流石にダイキも悟る。しかし、何と答えれば良いのか……


「無いかー」

「き、綺麗だと思ったよ……」


 それは、ヒカリの身体を見て最初にダイキが思った事だった。

 性欲の意味合いが割り込む前の純粋な感想。その返答を聞きヒカリは無言だった。


「ヒ、ヒカリちゃん?」

「あっはは……そう、ありがと」


 お湯でコンディショナーを流し、完了、とシャワーを止める。ダイキは恥ずかしさが限界突破した様子で、これ以上はこの場に居られないと判断した。


「さ、先に上がるから!」

「ロビーで待ってなさい。国尾さんが居ても付いて行ったらダメよ」


 こちらを見ない様にして移動するダイキにそう告げる。そして、彼が浴室から出ていくと、ヒカリはもう一度水風呂に入った。


「……あーあ。なんだろ……わたし……惚れっぽいのかな?」


 ダイキに、綺麗、と言われた瞬間、顔が真っ赤になった。

 状況効果もあるかもしれないが……単純なのか心移りが早いのか……ちょっと答えは出そうにない。


「チョロいとかは……思われたくないわね」


 このケンゴとダイキ。二人に感じたこの気持ちは悪いモノではない。しかし、優劣を付けるにはまだまだ情報が必要だった。

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