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第174話 情熱的なんですね

「二人は本気で戦うつもりなのかい?」

「当然だ」

「そうでなければ俺の愛は伝わりませんから」


 二人の言葉にふむ、とシモンさんは考える。


「ケイは言わずもがな、天月さんも相当な実力をお持ちだ。本気で戦った際の勝敗は曖昧な形になってしまう」


 一人の眼では二人が納得できる形で収まる判定を出せるかどうか怪しいとの事。確かに、シモンさん以外に二人の戦いを正確に判定(ジャッチ)出来る人間は後二人は居た方が言いだろう。


「それに二人は社会人だ。明日も仕事があるし、下手な怪我はマズイのではないか?」

「じゃあどうすんだよ、師範」


 戦いが始まれば無傷では済むまい。二人の実力を加味してシモンさんはある提案をする。


「腕相撲で勝敗を決めるのはどうだい?」

「はぁ?」

「アームレスリングですか?」


 七海課長は怪訝そうな顔をして、天月さんは腕を組む。


「天月さん、握手を良いかな?」

「どうぞ」


 シモンさんと天月さんは握手をかわす。そして、シモンさんは納得した様に、


「二人とも技術は高いが、素の筋力は大体互角だ。良い勝負になるし、決着も早く、怪我もしない。これ以上に無い勝負だと思うよ」

「そーかぁ?」

「俺は構いませんよ! いやー! こんなに早く手を繋げるなんて!」


 七海課長は渋っている。あの顔は勝負内容に不満がある様子ではなく、天月さんと手を繋ぐのを嫌がってる感じだ。


「ケイ、お前の本業は社会人だろう? 自分も相手も怪我をする可能性がある行動は慎みなさい」

「前に駿を助ける時は許可したクセに……」

「アレは相手に遠慮する必要がないからね」


 お前は一定のラインを越えると手加減が効かない、とシモンさんの言葉に七海課長は納得行かない様子だ。

 なんか……スネる七海課長と言うレアな場面を見てる。こんな一面があるんだなぁ。


「鳳……何ニヤけてやがる」

「え? や、やだなぁ! オレは見届け人ですよ! 特に他意はありませんって! あはは!」


 あぶねー、視線に気付いてたのか。リンカの視線が真横からチクチク来る。痛たた……


「はぁ……分かったよ」

「リョウ、台を持ってきてくれるかい?」

「ああ」


 シモンさんの言葉に大宮司青年は立ち上がると道場の男子更衣室兼倉庫から台を持ってくる。

 余った腕を握るハンドルとかある、めちゃくちゃ本格的なヤツ。海外の大会とかでも使われてるヤツだぞ、あれ。


「三本勝負で行こうか。先に二本取った方の勝ち」


 だいぶ分かりやすい勝負になった。

 観客一同立ち上がり成り行きを見守る。犬も覗くように腕相撲台に前足をのせて、へっへっへ。


「位置について」


 二人は台に肘を乗せて手を組む。七海課長は心底嫌そうだ!


「七海課長……手を通して伝わって来ますよ。貴女の心が――」


 バキッ!


「ん?」(シモン)

「え?」(リョウ)

「なに?」(ケンゴ)

「は?」(ノリト)

「あれ?」(リンカ)

「ばき?」(シュン)

「へっへっへっ」(ノーランド(犬))


 妙な音がして各々が反応を示す中、七海課長が一番驚いた顔をしている。


「ふふふ。情熱的なんですね、七海課長」


 天月さんの言動に七海課長は嫌悪による火事場の馬鹿力が発動した様だ。なんと天月さんの手を圧迫骨折させていた。握撃……花○薫かよ。


「わ、わかったから……一旦手ぇ、離せ」

「手に感覚が無いので開けません」

「凄く赤黒くなってますよ……」

「うわわぁい! けいちゃすごーい!」

「きゅ、救急車!」

「リョウ、119番して」

「はい」

「姉貴……」


 サイレンと共にやってきた救急車に乗せられる天月さん。付き添いでシモンさんと七海課長は乗って行った事で、場はお開きとなった。






「まさか……あんな事になるとは」


 オレは道着を着替えながら終結した事態を思い返す。

 駆けつけた救急隊員は、何があったんですか? トレーニング器具に挟まったんですか? などと言い、七海課長の握撃粉砕を説明しても信じられない様子だった。


「大事には至らない様子でしたけど……」

「ありゃ全治二週間は固いぜ。姉貴も人間離れしてきやがったな」


 七海課長の弟君は、かっかっか、と笑う。

 オレは大宮司青年とその友達である七海課長の弟君と共に着替えている。リンカは道場の外でさっさと着替え終わった大宮司青年の弟君と一緒に犬と戯れていた。


「君たちは同じ高校なのかい?」


 オレは何気ない世間話のつもりで会話をする。


「俺とリョウは違う高校ッスよ。知り合ったのはこの道場ですけど」

「中学の頃にケイさんに押し込まれたんだったな」


 二人は幼馴染みみたいな距離感なので、もっと古くからの付き合いだと思ったが、意外と経歴は浅いらしい。


「弟君は――」

「あ、ノリトで良いッスよ」

「ノリト君は天月さんに対してどう思う?」

「どうって、普通に面白い人だと思いますけど。親父や姉貴は嫌いなタイプですけど」

「あ、やっぱり」

「姉貴って外側は良いんで、高校の頃からモテてたらしいんすわ。けど、あの正確とフィジカルでしょう? 昔からまともに関係があった男友達ってセージさんくらいなんですよ」

「セージさん?」

「あれ? 知りません? 鳳さんの会社の社長さんっすよ?」


 とんでもない事実が明かされた。七海課長と黒船社長って……昔から知り合いだったのか。


「セージさん、親父達とも仲良くて俺からすれば兄貴みたいな人ッス。高校卒業後はしばらく音信不通だったみたいで、世界中を放浪してたらしいですよ」


 マフィアの金盗んだとか、ラスベガスカジノの金庫に侵入したとか、エリザベス女王とチェスしたとか、ホワイトハウスにピザ届けて捕まったとか、アマゾンで悪魔と戦りあったとか、とノリト君は語る。なにソレ、凄く興味ある。


「あ、ちなみに姉貴はコネ入社じゃないッスよ。セージさんが帰ってきたのは姉貴が入社して三年目くらいでしたし」


 オレも会社の代替わりが行われた事は知っていた。色々と大変だったらしいが、当時の事を知る者達はあまり語りたくない様子で進んで話題にはしない。


「おっと親父からだ。先に出るぜ、リョウ。鳳さんも失礼します」


 そう言ってノリト君は更衣室を出て行った。


「大宮司君は、黒船社長と面識ある?」

「顔を合わせた程度です」

「そっか」


 となれば、深い接点は七海家と黒船家の間だけか。世の中狭いんだか広いんだか。意外なところで人の関係は繋がっているなぁ。


「鳳さん。俺の事はリョウで良いです」

「そう? じゃあオレもケンゴでいいよ」


 一悶着あったが、大宮司青年もとい、リョウ君との距離は少し縮まった様だ。


「ケンゴさん……一つ聞いても良いですか?」

「いいよ」


 悩める若人よ。年長者の知恵をもってしてあらゆる事に答えよう。紳士的にね。


「ケンゴさんは……鮫島の事を……どう思ってるんですか?」

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