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第162話 相手してやるよ

「思い立ったら即日とかスローガンに掲げてそうですね」


 オレたちは七海課長から一通りの経緯を聞き終えた。

 天月新次郎。彼は佐々木くんや暁才蔵の様な自分の世界に浸かるタイプとは少し違う。


「あのクソ忍者みたいなヤツなら、即通報モノなんだけどな」


 一方的な価値観を押し付けず、相手に合わせようとする理性と行動力の両方を持っている。そして、社会的に問題の無い立場からアプローチをかけて来たのだ。


「おや、賑やかですね」


 そこへ、あまり食堂で姿を見ない名倉課長が寄ってきた。相変わらず手を後ろに回し、読みづらい笑顔でいらっしゃる。見たところ食事をしに来た様子ではない。


「なんか用か?」


 オレらは一礼するが七海課長は、うんざりするような様子で対応する。






「今、天月君がいらしている様ですね」

「知ってるよ。1課(ウチ)に直で来た」

「貴女と彼の背景も真鍋君から聞きました。今は社会人としての資質が試されていますよ」

「はぁ?」


 名倉課長の言葉は七海課長と同様にオレらもすぐには理解できなかった。


「貴女は課長です。その位は課を取りまとめる長として任命されているのです」

「言われなくても知ってるよ」

「では、理解しているでしょう? 貴女は課の模範であり“顔”なのです」

「……」


 七海課長が黙っちゃった……。納得がいかずとも何か気づいた感じだ。


「露骨な拒絶や差別は社の風紀に反します。無論、貴女がどうしてもと言うのであれば強制的な処置を取らざるえません。その際に課の者たちからの貴女の印象は――」

「あー、わかったわかったよ。ったく……」

「本来なら私が言うまでも無いことです」

「……はぁ……」


 諦めた様子で七海課長は深くタメ息をつく。


「ほどほどにしなさい。七海課長」


 ニコ、と笑う名倉課長。やっぱりすげぇな、この人。鬼灯先輩以外で七海課長を諌められるなんて想像もつかなかった。

 すると、食堂の入り口が騒がしくなる。例のメダリストが降臨したようだ。


「あ、ケイ――っと」


 オレらの姿(七海課長)を見つけて、天月さんが寄ってくるが、名倉課長の姿を見て浮かれた顔を引き締める。


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません、名倉課長。午後には課長殿へご挨拶に伺う予定でした」

「ご丁寧に。きっと、真鍋課長も獅子堂課長も貴方を一目見たいと思っていますよ」

「光栄です。本日はお食事で? よろしければご一緒しませんか?」

「少し野暮用です。もう終わりましたので、天月君はごゆっくり。七海課長、部下からも学ぶ時はあります。見落とさぬ様に」

「わかってるっての……」


 去っていく名倉課長に天月さんは道を開けて一礼する。なんか、上流階級のやり取りを見た気分だ。


「残念。ケイさんと一緒にランチでもと思ったんですが」


 天月さんは四人席が埋まっている様子に残念がる。七海課長、これ狙ってましたか。


「天月」

「なんでしょう?」


 と、七海課長に呼ばれて嬉しそうに答える。


「俺に勝ったら相手してやるよ。飯でもデートでもな」

「本当ですか!?」


 何でも出来るハイスペック超人だからなぁ。七海課長には悪いが、天月さんの負ける様が想像できない。


「ただし、俺が勝ったらお前はただの部下だ。それ以上の関係になるのは諦めろ」

「わかりました」

「今日の仕事が終わったらロビーで待ってろ」


 絶対に勝ちますからね。と天月さんは満足したように去って行った。食堂へは……七海課長に会いに来ただけか? 確かに、ちょっとヤバイ人ではあるらしい。


「泉。夕方予定あるか?」

「すみません。今日は妹と映画を見に行く予定でして」

「ヨシは?」

「残業が確定しております」

「鳳」

「時間ありますけど……」


 いい予感はしないな。


「ちょっと付き合え」

「えーっと……どこへ?」

「俺がガキの頃から世話になってる道場だ。後になってからグダグダ言われると面倒だからな。お前は証人やれ」






 清掃期間。

 リンカの高校では月一で全学年での清掃が行われる、午後の授業を丸々使い、校内の備品で交換が必要なモノや、普段は手の届かない場所の清掃が四人一組で行われる。


「それで、わたし達は裏庭の掃除かぁ」


 リンカ、ヒカリ、水間、徳道の四人は箒、チリトリ、ごみ袋、軍手の四つのアイテムを持って裏庭を訪れていた。


「あまり見えない所だから、結構ゴミとか落ちてるなぁ」


 リンカは昼ご飯の袋や、ビニールが乾いた側溝に溜まってる様子に憤慨する。更にゴミステーションの回りは少し近寄りがたい。


「ここは校舎と人の目の死角よ! 谷高さん! これでは勝負のしようがないわ!」

「いちいち勝負に持っていくの止めなさいよ」

「まさか……牙を研いでいたなんて! 勝負出来るのが一年後なんて……悔しくて夜も眠れないのよ!」


 水間は禁断症状を抱えた患者の様に手をわなわなとさせる。


「別に水間さんの勝ちでいいって。一年後は絶対に勝てないから」

「ふっ、勝者の余裕ってわけね。そうは問屋が下ろさないわ! 牙は研ぎ続けておきなさい! 私はその上を行く!」

「あー、もう。何で先生は水間さんとわたしを一緒の班にしたのよ……」


 ビシッ! と天を指差す水間。呆れて額を抱えるヒカリ。それを傍観するリンカ。どうしようか、わたわたする徳道。


「そう言えば他の学年の人は来てないね。」


 裏庭は結構広い。四人で全てをやるには手が足りない。他の学年でも割り振られた人が居るハズだが。


「鮫島さん」


 と、そこへ現れたのはサッカー部のエースである佐々木(通称、爽やか先輩。リンカに告白して玉砕した人)が現れる。


「お、谷高」


 その隣に居るのは野球部のエースにして甲子園への立役者である野村(ヒカリに告白して、大騎にそれを阻止された人)が共にいた。


「佐々木先輩」

「わ……野村先輩」


 やぁ、よっ、と佐々木と野村は各々挨拶をしてくる。


「裏庭の担当なんだ。今日はよろしくね」

「よろしくお願いします」


 7月の告白から佐々木とは話す機会はなかったがリンカだが、もう気にしてない様子を見て一礼する。


「谷高。春は絶対に勝つからな」

「はい。頑張ってください♪」


 まだ諦めていない様子の野村にヒカリは笑顔で返す。

 三年生も引退したし、戦力的には夏の半分以下。甲子園を狙うのも厳しいだろうなぁ、と言う感情は隠す。


「一年の水間です!」

「と、徳道です」


 二人の挨拶も佐々木と野村は、よろしく、と受け取った。


「これで全員ですかね」

「いや、三年生も来るハズ」


 その時、角から箒を3本持った大宮司が現れた。全員(リンカとヒカリ以外)は硬直する。


「裏庭の担当になったのか?」

「決めるのは先生なので」

「大宮司先輩一人ですか?」


 学校一の危険人物である大宮司と普通に会話を始めるリンカとヒカリに他の四人はハラハラしながら見守った。(徳道は水間の影に隠れる)


「いや……」

「大宮司君。ゴミステーションが凄く汚れてるわ」


 少し遅れて現れたのは軍手が世界一似合わない鬼灯であった。低学年は話しかける事さえも出来ない美の頂点に四人はリンカとヒカリ以外は別の意味で固まる。


「大宮司先輩と鬼灯先輩って良く一緒にいますね」

「何故か俺とペアを組むヤツが居ないからな。よく余る鬼灯と組む事が多い」


 二人は正と負の意味で同学年からは避けられているのだろう。


「これで全員みたいだな。さっさと始めるか」


 大宮司の言葉に固まっていた四人も、は、はい! と返事をして作業が始まった。

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